◆その896 異変3

 リィたんやナタリー、アリスたちオリハルコンズが霊龍に質問を終え、SSSトリプルダンジョン前に転移してくる。

 すると彼女たちは、正面に映るミケラルドの異様な姿を捉えたのだ。

 丸太に腰掛け、両手で顔を覆うミケラルドの姿を。

 この異変に、皆互いに目を合わせ、行き着かぬ答えを求めにミケラルドの下へ歩み寄った。


「ミック、どうしたの?」


 ナタリーの問いかけに、ミケラルドは反応出来なかった。


「ミック、どうした?」


 リィたんの問いかけも、ミケラルドは反応を見せない。


「……ミケラルドさん、報告いいですか?」


 最初から諦めていたのか、アリスは問いよりも報告を優先させた。

 報告とはすなわち、霊龍に対する三つの質問とその答え。


「…………はい、どうぞ」


 ついにミケラルドは反応せざるを得なくなった。

 ナタリーとリィたんは顔を見合わせ肩をすくませる。


「質問は皆で事前に決めておいたものを滞りなく。まず、第一の質問『古の賢者【メルキオール】は時の超越者か否か?』ですが、やはり時を超えてこの時代にやって来たそうです」

「……まぁ、確認作業みたいなものですよね。こちらに確信があったからこそ、霊龍も隠さなかったんでしょう。……はぁ。それで、二つ目の質問は?」


 ようやく顔から両手が剥がれたミケラルドは、やつれ気味の顔を俯けながら聞く。


「……二つ目の質問、【この世界において、現在ミケラルド・オード・ミナジリを超える実力者は古の賢者メルキオールのみ、、ですが、ミケラルド・オード・ミナジリに次ぐ実力者はエメリー、雷龍シュリ、またはリィたんである。まる×ばつか?】ですけど――」

(霊龍にクイズ形式の質問を投げかければ、多くの情報を得られるって案で採用されたけど、我ながら小賢しいなぁ……)

「霊龍の答えは【まる】……」

「これで、実力者ランキングが確定したね……そっか、野に眠る才能に期待したんだけどなぁ……」

「おめでとうございます。賢者さんさえいなければ、世界最強ですよ、ミケラルドさん」


 淡々と言うアリスだったが、ミケラルドは溜め息を吐くばかりである。


(あぁ~~~……三日後にはこのランキングに参戦してきそうなのがひ~ふ~み~……ダメだ、考えたくない)


 かぶりを振って考えを放棄するミケラルドに、アリスの顔が険しくなる。


「…………ミケラルドさん――っ!」


 その口ぶりから理解したのだろう。ミケラルドはアリスの言葉を手で遮った。

 アリスも理解していた。自分が報告以外の言葉をミケラルドに投げかけようとしていた事に。


「……すみませんアリスさん。出来れば報告を終えてから質問してください」


 あまりにも異様な事態。

 かつてこれ程までに切羽詰まったミケラルドを、ナタリーやリィたんですら見たことがないのだ。

 アリスは勿論、オリハルコンズの動揺は手に取るように明らかだった。


「……で、では、三つ目の質問【現在、世界最硬度の武具はオリハルコンから造られたものである。○か×か?】ですけど、やはり答えは予想通り○でした」

「…………その質問、一字一句間違いなく投げてくれました?」

「え……? は、はい。でも、何でこんなわかり切った質問を? もっと他に建設的な質問があったと思うんですけど……」

「いえ」


 ミケラルドの間髪容れぬ否定。


「この上なく重要な質問ですよ、これは」

「また、変な事考えてるんじゃないですか?」

「変な事というか、世界存続の事しか考えてないですよ、私は」


 至極当然、当たり前の事だと言ったミケラルドに対し、「まぁ、確かに」と納得していたオリハルコンズだったが、このミケラルドの答えの意味に、いち早く反応したのが、ミナジリ最古メンバーの一人、リィたんだった。

 顔を強張らせたリィたんが、腰を落とし、ミケラルドに視線を合わせる。


「あ、気付いちゃった?」


 軽く、しかし悲壮感溢れるミケラルドの問いに、リィたんは表情を変える事なく確認するように聞いた。


「……魔王が復活するんだな、ミック?」

「「っ!?!?」」


 繋がった。これまでのミケラルドの異様な姿、反応が、オリハルコンズの中で全て繋がった瞬間だった。

 旧知の仲であるナタリーとリィたんに反応出来なかった理由も、アリスに報告を優先させた理由も。

 閉ざされた口。ひらける訳もない。

 それがわかっていたから、ミケラルドは報告を優先させた。全ての情報を頭に入れてから状況把握し、精査し、皆に伝えるために。


「…………いつだ?」


 重苦しい空気の中、リィたんが続けた問いかけに、ミケラルドは幸薄そうな表情を浮かべながら三本の指を立てる。


「……三ヶ月か」


 渋い表情のまま立ち上がるリィたんだったが、ミケラルドは余命短い薄幸の美青年を装い言った。


「ううん、三日」


 そんなささやかなボケもむなしく、皆は絶句に追い込まれたのだった。

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