◆その895 異変2
「異変」というミケラルドの問い。
当然、ミケラルドと霊龍はその意味を理解している。
本来、ミケラルドはこの
何故なら、霊龍自身が過去ミケラルドに『もうここでアナタと会う事はないでしょう』と言ってたからだ。
ミケラルドから霊龍に会う手段がない以上、霊龍から再会を望んだのだ。ミケラルドがこの再会を「異変」と述べるのには十分な理由と言えた。
「まさかまたお会い出来るとは思ってませんでした。あ、握手でもしておきます?」
ミケラルドが手を差し出すも、霊龍がそれに応える事はなかった。
「えー、握手したからって世界のバランスが崩れるんですかー?」
「いえ、人型への変態は慣れてないもので」
「慣れてないと何か不都合でも?」
「場合によってはその右腕が消滅する事も――」
霊龍がそこまで言うと、ミケラルドはバっと手を引っ込めた。
「……過度な力を持つのも苦労しますねぇ」
霊龍の実力を再認識したミケラルドは、ハンカチで冷や汗を拭きながら言った。
胸元にハンカチを戻したミケラルドは、両手を隠すように後ろで組み、再度霊龍に言う。
「それで、今回のこの異変はどういう事で?」
「三日の後、魔王が完全に復活します」
淡々と事実だけを伝える霊龍を前に、ミケラルドはついに軽口を止めた。張り詰めた緊張が、ミケラルドを俯かせる。
(三日……三日? 三日って何だ? 何三日って? 今、この美人三日とか言わなかった? 三日あれば大地を作り、海が生まれ、地に植物がはえちゃうけどっ? 三日? 本当に三日なの? いやぁ~、どうも三日って顔してるぞ。ところで三日後に何が起こるって言ってたっけ? 魔王? 復活? いつ? 三日……? …………っ! ど、どどどどどうしよう!? まだやらなきゃいけない事が沢山あるのに準備が間に合わない! そ、それに可愛い女の子とデートだってしたいし、十代男子からおっさんまで羨むような嬉しいハプニングも経験してない! くそ、くそっ、クソッ! 頭の整理が追いつかない! まずどうすればいい? リィたんに膝枕してもらって、ナタリーと笑いながらタイムカプセルを埋めよう……! いやいやいやいや、それも確かに大事かもしれないけど、今やらなきゃいけないのは、国家の統制と、国家間の協力体制! 【魔導艇ミナジリ】の配備は国家単位で一艇が限界か? 【魔力タンクちゃん】搭載の魔導アーマーもおそらく百機がせいぜい。輸送は転移魔法で何とか出来るとしても、全国民への周知だけで三日なんてあっという間だ。とはいえ、ある程度の布告は済んでいるが、国民の混乱を考えただけで、頭が禿げそうになる…………あ、でも霊龍が実は協力してくれたり――)
「――いたしません」
「で、ですよねぇ~……」
「私が手を出せないのには別に理由があるのです」
「と、いいますと?」
「世界の崩壊を防ぐため」
「魔王の強さによっては崩壊しますけど?」
「世界の荒廃か、世界の消滅か……と、申し上げれば私が手を出せない理由もわかるでしょう」
「っ!? ま、まさか!?」
ミケラルドが表情が凍りつく。
(……つまり、霊龍が動けば世界が消滅するという事。確かに魔王側が勝ったところで、この世界には魔族が生き残るだろう。だが、霊龍が動けば世界自体に影響が出る。というか消滅するって言ってたな。という事は……霊龍はこの世界を支えている存在だという事だ)
「そういう事です」
(……まるでギリシャ神話の天空を支え続けるアトラスだな)
大きな溜め息を吐いたミケラルドは、どっかり腰をおろし、
「……この話、あの子たちには?」
ミケラルドは、今、別空間で霊龍に対し三つの質問を投げているであろうオリハルコンズについて尋ねた。
「いいえ」
「何故……?」
「オリハルコンズにはオリハルコンズの報酬を。最初はそれだけで十分だと考えていました」
「最初は……?」
「ですが、ミケラルド殿のこれまでの世界への貢献を鑑み、それ以上の報酬が必要だと判断しました」
「三日後の情報が……世界貢献の報酬だと?」
「別の報酬が良かったと?」
「いえ……これ以上ない報酬ですよ」
「それは……何よりです」
これまで淡々と話していた霊龍の一瞬の間。
それがミケラルドの首を傾けさせた。
「まだ何か?」
「……申し訳ありません」
唐突な霊龍からの謝罪。
それが何を意味するのか理解出来ないミケラルドは、ただただ目を丸くしていた。
「…………え?」
「貴方の世界貢献は、私を
「え、あ……そ、そうですか」
世界的珍事とも言える霊龍による愚痴に、困惑を顔に浮かべるミケラルド。
(……まぁ、仕方ないか。彼女にはクレームを入れられるカスタマーサポートもない訳だし)
「三日後の戦い」
「え……はい」
「かつてない絶望が貴方の視界に広がるでしょう」
「そんな天気予報みたいに言われても……」
「流石の咬王ミケラルドも、
「我儘……?」
霊龍の話が理解出来なかったのか、ミケラルドは首を傾げる。しかし、霊龍の次の言葉がミケラルドの口を噤ませた。
「貴方が守り切れる人数にも限度があると申し上げています」
――だが、
「…………っ!」
無意識に
そしてミケラルドは、重く閉ざされた口をこじ開けるように言った。
「……俺は……俺はなぁ? 少ない手札の中……一所懸命にやってるだけなんだよ! 魔王だっ?! 霊龍だぁ!? 魔王だの、霊龍だの……手札に最初からジョーカーがあるみたいにこっちは恵まれてないんだよ、クソッタレッ!!」
そう、言ってのけたのだった。
「人間を……あまり
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