その872 魔導アーマー

「【魔導アーマーミナジリ】ねぇ……」


 外見からして各部位に魔力放出口が付いただけ。

 オベイルはそう思っている事だろう。

 しかし、装備してみればわかる。魔力循環用のマジックスクロールがオベイルの魔力操作に連動し、劇的な変化を施す起きる。


「お? おぉ!?」


 フルプレートの魔導アーマーに包まれたオベイルの歪な動き。

 しかし、流石はSSSトリプルの剣鬼と称される男である。徐々に動きは滑らかになり、自身に最適化する。

 ここら辺は多分、俺なんかより圧倒的なセンスがあるのだろう。


「おうミック! 何だこれ、面白ぇぞ!」


 オベイルの感動は、張りのあるこえとなって辺りに響く。

 そしてそれは、雷龍シュリと戦っていた魔王の尖兵にまで届いてしまうのだった。


「「ぁ」」


 他の皆がそれに気付いた時、既に魔王の尖兵はオベイルの眼前にまで迫っていた。


「くっ! 鬼剣、爆裂ぁ!」


 直後、オベイルの身体魔力操作に連動し、腕回りの四方に取り付けられた魔力放出口から高圧縮の魔力が放出される。


「うぉ!?」


 放ったオベイルですら驚きの声をあげるも、結果はその驚きをも凌駕した。


「「っ!?」」


 オベイルの剣技を受けた尖兵が、その威力に圧倒され、一瞬ながらもふわりと浮かびあがったのだ。

 直後、オベイルは表情を一変させる。


「いくぜおらぁ!!」


 オベイルの動きに合わせて、再度魔導アーマーが稼働する。

 一撃、また一撃と動き、尖兵は受けに回らざるを得ない。

 それだけオベイルの一撃が強化されているという事。


「おいミック! こいつぁ最高だな!」


 嬉しそうなオベイルの声に、俺はくすりと笑う。


「ボン、私の鎧もあったはずだが?」


 隣では、イヅナが催促するように何か言っている。

 何だろう、この半裸のお爺ちゃんは? いつになくソワソワしているのは気のせいだろうか?


「くっ! やっぱ強ぇな!」


 魔導アーマーも万能じゃないしな。

 俺は雷龍シュリにアイコンタクトを送り、オベイルの援護を依頼する。雷龍シュリが頷くと、俺はまた作業へと戻った。


「万能とはいかないまでも、冒険者の底上げには十分な戦果ですね」


 イヅナ用魔導アーマーの腕回りの作業をしながら、俺は言った。


「おそらく、ランクS相当のパーティであれば対応できるだろうな」

「本当ですか?」

「無論、ボンの教科書に倣えばの話だ」


 確かに……倒せぬまでも牽制くらいには対応出来るかもしれない。まぁ、対魔王戦の戦力が増えたと考えれば、悪い結果じゃない。

 イヅナとテーブルを挟んだ奥では、何やらナタリーとアリスが話している。


「あれ、ミックじゃないと造れないでしょう?」

「えぇ、あの人はそれにまだ気づいてないみたいですけど、大丈夫なんですか?」

「一応私、軍部のトップって事になってるんだけど……全然大丈夫じゃない……」

「ですよねぇ……」

「ただでさえ忙しいのに、これ以上ミックが忙しくなったら……ミックがグレちゃう」

「そ、それは大変ですね……」


 単車を転がして、ポマードヘアでもキメるべきだろうか。

 それとも、十五歳になったらバイクでも盗むべきだろうか。

 そう考えつつも、夏休み終盤の宿題やってない系小学生のような一抹いちまつの不安が残る。


「ボン、手が震えてるぞ?」

「あ、いえ……冒険者って合計何人くらいいるのかなーと」

「ふむ……世界に一万人はいるかもしれんな。ん? ボン、目が泳いでるぞ?」


 お、俺は……何てものを作ってしまったんだっ!

 こんなものがおおやけになれば、各国がこぞって配備したがるに決まってる。

 ミナジリ共和国約一万、リーガル国約二万、シェルフ約五千、リプトゥア国約一万、法王国約三万、ガンドフ約二万、冒険者は戦士系だけで括っても五千はいるだろう。


「じゅ……十万の魔導アーマー………」

「ほっほっほ、なるほどそういう事か。大変だな」


 その一言で片づけてしまったイヅナに目を向けると、


「ボン、手が止まっているように見えるが?」


 強さのいただきを目指す剣神は、俺の憐憫の目を向けるどころか、地獄へ突き進めと言い放った。

 そうか、神なら地獄へ叩き落とす事も可能だろう。

 仕方ない、俺は堕天使として骸骨しゃれこうべでも抱きながら世界を呪うとしよう。


「はい、調整完了です。遊んで来てください」

「魔王の尖兵相手にか?」

「イヅナさんなら倒せそうだったので」

「ほっほっほ。まぁ、まずは小手調べといくかな」


 言いながら、イヅナはオベイルの隣へと跳んだ。

 すると、オベイルの援護をしていた雷龍シュリが戻ってきたのだ。


「あれ、もういいの?」

「あの二人があの鎧を着て負けるならば人類に未来はない」

「龍の如きお言葉で」

「それより報告だ」

「流石雷龍シュリ、わかってるー」

「おだてても何も出ないぞ。まず、遠距離攻撃はなし。中距離では風圧を飛ばす指弾が厄介だ。あれを捉えられる冒険者は少ないだろう。攻撃は単調で魔力を使った攻撃はない。それ以外は……――」


 そう言って雷龍シュリはテーブルへと向かう。

 そして、テーブルの上にあった俺の尖兵メモをとって続けた。


「――ここに書いてある通りだ」

「ありがとう。これで大体の項目は埋まったかな。細かいところはあの二人、、、、に任せよう」


 そう言って、俺は二人の男に目を向けるのだった。

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