◆その871 ミケラルドの失敗

「こ、これは……!?」


 魔王の尖兵がガンドフに襲来してから一時間が経過した。

 圧倒的な実力を有していた尖兵だったものの、ミケラルドには余裕があった。そこからエメリー、リィたんが奮起しミケラルドと交代した。

 異変直後には気付けなかった聖女アリスが、現場へ駆けつけた時、眼前には多くの不可解が広がっていた。

 遠方で戦いを繰り広げるリィたんとエメリー。

 それを観戦するギャラリー――雷龍シュリ地龍テルース木龍クリュー炎龍ロイス、ジェイル、レミリア、マイン。

 アリスの後ろからやって来た他のオリハルコンズメンバーも顔をしかめている。


「はぁ~? 『これより先、私語厳禁』?」

「あのモンスターが音に反応するみたいだな」


 キッカとハンは、アリスの眼前にある立て札を見た後、その奥に映る魔王の尖兵を見る。


「「……やば」」


 リィたんとエメリーをして互角という状況を理解したのか、二人は口を揃えて言った。


「ミケラルド殿は……何をしているのだ?」


 ラッツが見据えた先には、机の上で筆を走らせるミケラルド。


「いえ、それよりも……」


 クレアが首を傾げたのは、その隣で上半身裸になったオベイルとイヅナ。


「何でイヅナさんとオベイルさんが?」


 メアリィがナタリーに聞くも、


「まーたミックが変な事してる……」


 呆れ声が返ってくるばかり。

 ギャラリーの何人かもミケラルドの行動に興味を示している。

 とはいえ、ここから先は私語厳禁。七人はそろりそろりと歩を進める。

 近付くにつれ、アリスはミケラルドがしている行動に違和感を覚える。


(何で……こんなところで採寸を……?)


 ミケラルドはイヅナの首回りやオベイルの腕回りを採寸し、それをメモに書き起こしていた。机の上にあったメモの隣には、先日オリハルコンズを襲った炎鬼オベイルが着ていたフルプレートアーマーが描かれた設計図。


(あれは一体……?)


 直後、大きく弾かれるような音が響く。

 それは、エメリーとリィたんが限界を迎えた証とも言えた。

 両者は武器を落とし、立ち上がる事さえ出来ないでいる。

 追撃を図る尖兵の攻撃を止めたのは、


「回復の暇もなく攻め続けていたのだ、妥当な結果だな」


 五色の龍最強の雷龍シュリだった。

 受け止めた攻撃を弾き、首を鳴らす。

 直後、尖兵は雷龍シュリをターゲットとした。

 それを見たミケラルドがまた尖兵の情報を更新する。


「やっぱり音を出すヤツを優先して攻撃するんだな。弱点や弱者を狙う方が正解だと思うんだけど……」

「まるで魔王みたいな台詞だね」


 ミケラルドに隣までやって来ていたナタリーがジト目で言う。


「私語厳禁だよ、ナタリー」

「ミックより声落としてるもん」

「流石ナタリー様」

「それより何やってるの?」


 それは皆も気になっていたようで、二人の会話に耳を傾けた。


「新しいアーティファクトのプロトタイプを造るんだよ」

「この場で?」

「この場で」

「ある意味ガンドフの窮地なんだけど?」

「五色の龍と剣神、剣鬼、更にはオリハルコンズが揃ってて救えない窮地なら諦めがつくと思わない?」

「マインさんの目の前で言わないの」


 ナタリーに「めっ」を喰らったミケラルドだったが、尖兵を指差して尚も続けた。


「あれは魔王の尖兵。どのあたりにクラスかはわからないけど、あれが魔王戦力の一般兵と考えると、ここで手を打たなくちゃいけないんだよ。幸い、指揮官がいないから奴はここで戦い続けている。なら、これを利用しない手はない。骨の髄まで調べ、徹底的に戦法を暴き、対抗手段を構築する。あれが溢れ出た時点で対策するより、一体しかいない今をチャンスと捉えるべきだと思うんだけど?」


 そこまで言われると、ナタリーは何も反論できない。


「むぅ……確かに」


 ミナジリ共和国の軍部トップとして、納得せざるを得ないのだ。ナタリーがちらりと顔を向けると、ガンドフの親衛隊長であるマインはただ頷くだけで応えた。


「だね、国レベルで対抗しなくちゃいけないって事はわかった」


 ナタリーもまた頷き、ミケラルドの行動に理解を示したのだった。


「それで、アーティファクトって?」

「フルプレートの可動域付近に魔力の放出口を造って、装備者の攻撃をアシストするんだよ。炎鬼が使ってたフレイムフィストがあったでしょ? あれを逆噴射するイメージかな」

「ん~?」


 頭を抱えるナタリーに、ミケラルドはくすりと笑う。


(まぁ、パワードスーツなんて概念、この世界にはないからな。わからないのも無理はない。だけど、これを量産化すれば、世界は魔王に対抗する術を得る事になる……!)


 ニカリと笑うミケラルドに、ナタリーは苦笑を浮かべる。


(またロレッソに怒られるやつだ)


 そんなナタリーの意図は絶対に理解していないであろうミケラルドは、オベイルが装備していた炎鬼のフルプレートに手を入れ始めた。

 高温を知らせるかのような赤い発光に、皆は目を覆う。

 腕、脚、背面の魔力放出口と、攻撃による衝撃を軽減させる細部の放出口。内側に埋め込まれる【魔力タンクちゃん】と、魔力循環用のマジックスクロール。

 発光が止むと同時、世界に新たなアーティファクトが誕生する。

 そしてそれは、遠くない未来……ミケラルド自身の首を絞める事になるのだった。

 そう、このパワードスーツが造れるのはミケラルドだけ、、、、、、、だと、彼はまだ理解していないのだ。

 後のミケラルドは語る。「考えたやつ誰だよ、ふざけんなよ!」と。

 魔導アーマーミナジリと名付けられたソレに対し、ミケラルドが【忙殺の鎧】と異名を付けるのは、また別の話。

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