◆その865 勇者の剣5

 ミケラルドによる明確な殺意。

 ガイアス、アリス共に息を呑み言葉を失っている。


「アーティファクトには成長の余地がある。そうですよね、ガイアスさん」


 ミケラルドの質問に、最初ガイアスは戸惑いを見せた。

 しかし、それに気付いた時、ミケラルドの殺意の意味を知った時、ガイアスはハッとミケラルドを凝視したのだ。


「アーティファクトの成長って……どういう事ですか?」


 アリスの質問に、ミケラルドが答える。


「アーティファクトの一段階上……すなわち【遺物レリック】の事です」

「っ! レ、遺物レリックってもしかしてミケラルドさん……!?」

遺物レリックはその名の通り、遺物。製作者が死んだ後にアーティファクトが進化するもの。現在、勇者の剣はアーティファクト止まりの存在ですが、製作者が死ねば……勇者の剣は遺物レリックとなる」


 その説明を聞いた時、アリスはようやく理解した。

 ミケラルドの殺気の意味を。


「ま、まさか……!?」


 そんなアリスの衝撃と共に、ガイアスが小さな溜め息を吐く。


「ふっ……そうか、確かにそうすりゃ勇者の剣は成長し、遺物レリックになる。つまり俺様が死ねば、世界も安泰って訳だ」


 肩をすくめ諦めすら見せるようなガイアスの態度に、アリスはギョッとする。そしてミケラルドに訴えかけるように言うのだ。


「確かに遺物レリックになれば勇者の剣は強力になるでしょうけど、ガイアスさんの命を奪ってまでするような事じゃありません! そ、そうだ、それなら私の命を……!」

「おいおい聖女の嬢ちゃん、アンタは世界に必要な存在だ。大体、聖女なくして勇者の覚醒はないんだからな」

「っ! ミケラルドさん、思いとどまってください!」

「さぁ、名残惜しいが、スパッとやってくんな!」

「ミケラルドさん!」


 直後、ミケラルドの打刀が振り下ろされる。

 絶命必至の絶対強者による一撃。

 ガイアスは満足気に笑い、アリスは余りにもショッキングな状況に目を瞑る。


「てい」


 直後、ミケラルドの間の抜けた声が響き渡った。

 振り下ろされた打刀うちがたなは、ミケラルドの分裂体をバッサリと斬り、消滅へと追い込んだ。


「おろろん」


 ふざけた声と共に分裂体は消失。

 この一連の流れに、ガイアスとアリスは目を丸くさせていた。

 ぱちくりとしたアリスの目を覗き込み、ミケラルドが失笑しながら手を振る。


「おーい、アリスさーん? お元気ですかー?」


 ミケラルドが何度か手を振ると、アリスはようやく覚醒へと至った。


「………………はっ! ミ、ミミミケラルドさん!?」

「ははは、いやですねぇ。私が好き好んで殺生する訳ないじゃないですか」


 肩をすくめ、からかうように言うミケラルドに「ぐぬぬ」と唸るアリス。


「じょ、冗談にしても限度ってものがあるでしょうっ!」

「えー、でも、たとえ自分の分裂体といえど、殺気なしで倒すのなんて難しいですよ」

「だから! 無駄に溜めなきゃよかったじゃないですか! 私もガイアスさんも気が気じゃなかったんですからっ!!」


 怒るアリスの指摘に、ミケラルドはガイアスをちらりと見る。


「そうなんですか?」

「ちょっとだけ花畑を歩いた気がしたが……まぁ、白昼夢ってやつだな」


 と、飄々ひょうひょうとした様子で返すガイアス。


「だそうです」


 そう言ってミケラルドはアリスに視線を戻す。


「心配した私が馬鹿でしたっ!」


 少年のようにケタケタと笑うガイアスを前に、ついにアリスが諦めを見せる。そして、深い溜め息の後、仕方なしという様子でミケラルドに聞くのだ。


「……それで、今のは一体?」

「以前からこの世界のシステムを利用して【遺物レリック】を造れないかと試行錯誤してまして、雷龍シュリミナジリ共和国ウチに来る前あたりにようやくカタチになったんですよ」

「それが……これですか?」


 アリスは、Vサインを天井に向けながら倒れるミケラルドの分裂体を指差した。それはもう嫌そうな顔で。


「その時出来た【魔力タンクちゃん、、、、、、、、】がなければ雷龍シュリには負けてただろうなぁ」


 ミケラルドが思い出すように言った後、ガイアスがハッとして聞く。


「っ! もしかして、あの水龍の【魔槍ミリー】も遺物レリックか!」

「ご明察」


 ミケラルドはガイアスを指差してそう言った。


「ジェイルさんにも【魔剣ジェラルド】って武器をあげましたね。勿論、遺物レリックです。更には先日お披露目した【魔導艇ミナジリ】も、私の分裂体で手分けして造ったので、当然の事ながら遺物レリックです」


 次々と明らかになる遺物レリックの存在。

 ひけらかす訳でもなく、淡々と事実を伝えるミケラルド。


「はっ、おったまげたな……」


 顔を揉み驚くガイアスと、


「はぁ、呆れました……」


 相変わらずのアリス。


「しかし、今回はその限りではありません」

「「え?」」


 ミケラルドは再びガイアスを指差し、先の話を掘り返すように言った。


「ガイアスさん、私が先日ここにお邪魔した時、私は何て言いました?」


 ミケラルドが促すように聞くと、ガイアスはポカンと口を開けたまま、先日の突然の来訪を振り返っていた。


 ――――二人で叩き、二つの特性、、、、、を持った最強の剣を造ります。


 その言葉を思い出した時、ガイアスは震える瞳でミケラルドを見たのだ。


「……二つの特性、、、、、

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