その864 勇者の剣4
「ふっ……ふっ……ふっ!」
改めて見るとガイアスの集中力が半端じゃないな。
オリハルコンを見る目、ハンマーを振るリズム、力どれも的確だ。正直、見習うべき点が多過ぎて困る程に。
俺の力業を補う確かな技術が、彼の腕にある。
こりゃ、ミケラルド商店が凡庸な量産店になる日も近いかもな。
さて、彼女は――、
「くっ……くくくくっ! くぅ!」
「アリスさん、脚が生まれたての仔鹿みたいですよ」
「こ、これでも頑張ってるんです!」
「凄いですよ、聖女というより戦士って顔つきです」
「この……好き放題言って……くぬぬ!」
お、【聖加護】の出力が戻ってきた。
俺たちのやりとりを見て、ガイアスがニヤリと笑う。
アリスの集中力が切れそうになる度に俺が発破をかける。
先程からこれがルーティン化しているが、やはり疲れが見えるな。休憩を挟むべきか? ……いや、それじゃアリスのためにならない。
今はエメリーの成長が垣間見えた段階。アリスが【聖加護】を命懸けで成長させるのはここしかない。それがこの世界のシステム……!
既に渡した【魔力タンクちゃん】も使い切った。
アリスに【聖加護】を継続させるには……こうするしかない。
「ちょ、ミケラルドさんっ!?」
「あ、背中触りますよ。直接魔力を送りますんで」
「そんな事したらミケラルドさんが!」
「ははは、へーきへーき」
めっちゃ痛ぇええええええええええっっ!!!!
ふっざけんなよ! 何だよ【聖加護】とか死ねよ!!
グールから頂いた【痛覚遮断】を貫いてくる。まるで魂に直接攻撃してくるような正に刺すような痛み……正直、死ぬ程痛い!
「あの! 背中から香ばしいニオイがするんですけど!?」
「今、いい感じのレアです」
「ふざけてる場合ですか!」
「あ、焦げてきた」
ジューっていってる! ジューっていってる!!
「ミケ――」
「――ダメですよ、前向いて前」
「でも!」
「大丈夫、無茶はしません」
無茶だろこれ! 無茶苦茶だよ! ふざけんなよ霊龍! 変な
「っ! わ、わかりました!」
くそ、くそっ、くそ!
…………………………………………痛ぇっ!!!!
◇◆◇ ◆◇◆
ふむ? 中々の心地良さ?
「……あ、起きました!」
目が覚めると、視界の先にはアリスの顔があった。
控えめなお胸様の奥に見えるご尊顔。
「……はて?」
「剣が完成した後、ミケラルドさん、すぐに気を失ったんですよ!」
「っ! もしかしてこれは膝枕というやつでは!?」
俺の顔を覗き込むアリスが真っ赤になり、顔を背ける。
「不本意ながら! 不本意ながら、です!」
霊龍万歳。
え、ちょ? あのアリスが?
「これは……ガ、ガイアスさんが『男なんて膝枕してりゃ回復するんだよ』って言うから……!」
ガイアスぐっじょぶ。
目の端で二本の剣の研ぎに入っていたガイアスがニカリと笑い、
「それよりその腕……!」
そこには腕というか、でかい炭みたいなモノが俺の肩から生えてた。
「……何これ?」
うわ、本当に俺の腕だ。
完全に木炭じゃん。
「さっき痩せ我慢してた人が『大丈夫』って言ってたんですけどね。どこが大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。既に神経が死んでるようです。痛くも痒くもありません」
「ちょっと!」
「まあまあ……っ、よっと!」
俺は名残惜しみながらも、アリスの太腿から頭を上げた。
ちらりと目を向けると、そこには俺の分裂体。
俺が気を失ってもしっかり動いているのは新発見かもしれん。
左手で闇空間を発動し、分裂体に向かって打刀を投げ渡す。
直後――、
「あっ!?」
アリスの素っ頓狂な声と共に、俺の腕は肩から斬り落とされたのだった。
「ちょっとミケラルドさん!」
「こっちのが回復早いですから」
「そういう問題じゃありません!」
心配そうに傷口を見るアリスだが、やはり少し怒っているようだ。
「無茶し過ぎです!」
目の端に涙を浮かべるアリスに、俺は目を丸くした。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。
「夫婦喧嘩は終わったか?」
ガイアスの中学生的な指摘にアリスの涙は一瞬で引っ込んだのだ。
口をポカンと開け、顔を引き
そう思いつつも、ガイアスに目を向ける。
「すみません、任せきりで」
「気にすんな、どうだ、荒研ぎだが悪くないだろう?」
目に入った勇者の剣は、やはりというか何というか……とんでもない力を秘めている事がわかった。
「……凄いですね、これなら龍族の皮膚すら貫く事が出来る」
「はははは、だろう!?」
喜ぶガイアスに、俺は更に続けた。ガイアスが驚愕するような言葉を。
「でも、まだまだです」
「……あ?」
「これではまだアーティファクトの域を出ない」
「……お、おいおい」
「ミケラルド……さん?」
ガイアス、アリスの驚きをよそに、俺は分裂体から先程使った打刀を受け取る。
「言ったでしょう、ガイアスさん。作るのは史上最強の剣だと」
「いや、しかし……っ!」
「――ミケラルドさんっ!」
アリスが叫んだ瞬間、ガイアスの仕事場には俺の殺気が充満したのだった。
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