その866 二つの特性
「そう、二つの特性です」
そう言って、俺は二人の目の前に黒板を取り出した。
そこに簡単な剣の絵を書き、その下に「100」と書いた。
「これが、アーティファクトではない単純な剣の基礎攻撃力です」
その隣にまた数字を記入。今度は「50」と書いた。
「これが、この剣をアーティファクト化させた際の上昇攻撃力。つまり、基礎攻撃力と合算すれば、この剣の総合攻撃力は「150」となります。ここまではよろしいでしょうか?」
言うと、二人は見合ってコクコクと頷いた。
「次に
基礎攻撃力から右下に矢印を伸ばし、「100」と書く。
「なんて素晴らしい事でしょう! アーティファクト化した際の倍の上昇攻撃力です。つまり、
控えめに拍手しながら
しかし、ひけらかしたい相手であるガイアスとアリスは首を傾げたままである。
「おや? まだわかっていらっしゃらない?」
そう聞くと、アリスは小首を傾げたまま言った。
「それがどういう事なのか……さっぱりです」
その問いを聞き、俺はガイアスを見る。
「アーティファクト化した時より「50」の攻撃力が上昇したのが
「お、流石ガイアスさん! いいところに気が付きましたね! そうです、これは二つの特性の説明ですから! この説明には
そう言うと、二人はハッとして驚いた。
「お、そろそろわかってきましたね? そうなんです、これは一人の鍛冶師が鍛え上げた際の上昇値! 二人で鍛え上げた【勇者の剣】はこれに該当しません!」
しんとするガイアスの仕事場。俺はニヤリと笑ってから二人に説明を続けた。
「さて、二人の鍛冶師が鍛え上げた勇者の剣。一人が死に、一人が生きている場合、どのような事が起こるのか?」
そう言いながら、俺はアーティファクト化の「50」の隣に
「なんとビックリ! アーティファクト化の「50」とは別に
「「そ、それじゃあ……」」
「そう! アーティファクト化した剣は「150」!
そう言うと、世界の認証が取れたかのように、二本の勇者の剣が光り出す。
「お、おぉ……!」
「嘘……ほんとに
ガイアスとアリスは驚きを隠せず、ただただ目を丸くしていた。
「のんのん、アリスさん、これは
「いや、相変わらずネーミングセンスが……」
「いやぁ~、霊龍の『やっちまった』って顔が目に浮かびますね!」
「私としては、世界の管理者相手に、何でそんなに喧嘩を売るような態度をとれるのか疑問です……」
「霊龍ならきっと笑って許してくれるはずです。
そこまで言うと、アリスはどっと疲れたかのように肩を落とし、溜め息を吐いた。
「はぁ……ミケラルドさんの探究心が霊龍様に勝ったのかもしれませんね」
そう言って、アリスには珍しく控えめながらも俺を褒めてくれたのだ。
「ふふふ、アリスさんに褒められるとは嬉しいものですね」
「べ、別に褒めている訳じゃありませんっ!」
ツンデレかな? ツンデレなのかな?
そう思いながら、ニコニコしながら俺はガイアスの下へ歩いた。
「若造……!」
「どうです? これは控えめに言っても……【歴史上最強の剣】と言えるんじゃありませんか?」
するとガイアスは、
「ふっ……ぷっはっはっはっはっはっはっは! やられたぜ! まさかこんなバカげた方法で勇者の剣の底上げをするとは思わなかったぜっ!」
目に涙を溜め、最高の笑みを見せてくれたのだ。
「うーん、でも何でこんな事が出来るんでしょう? ミケラルドさんみたいに分裂体を殺せるかはともかく、歴史のどこかに、世界のどこかに二人の合作としてのアーティファクトくらいならあったと思うんですけど?」
アリスの疑問に、俺とガイアスは見合って笑った。
「はっはっはっは! 二人の合作ってのならいくらでもあっただろうが――」
「――アーティファクトにまで昇華出来る技術力を持った人ってのは大抵頑固で他者の介入も嫌がるものですからね。更に、両者の目の届く内にその片割れが死亡するなんてケース、世界史的においても稀有なケースだったと思いますよ」
俺たちの説明に、アリスは困った顔を浮かべる。
「……今の二人を見てたらそんな事はないと思えますけどね」
そんなツッコミに、俺とガイアスはまた見合って、黙って、噴き出すように笑ったのだ。
その後、俺とガイアスは一本ずつ勇者の剣をしっかりと研ぎ、磨き上げた。
帰り際にガイアスと固い握手をかわしてから、俺とアリスは勇者エメリーの下に向かうのだった。勇者の剣を一本ずつ持ちながら。
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