◆その862 勇者の剣2
「やぁあああああああっ!」
【カッツバルゲル】を手に、エメリーがオベイルに飛び掛かる。
ミケラルドが皆をいつもの荒野へ連れて来てから早三時間。
既に数十の剣を試していた。
「……凄いな」
リィたんが零した言葉に、誰も同意しなかった。
同意出来る状態ではなかったのだ。
眼前で起きる【勇者】の特性に呑まれているようにも見えた。
「つぉ!?」
吹き飛ばされるオベイル。
これを見ていたイヅナがすんと荒い息を漏らす。
「油断、ではないな」
「えぇ、まさかここまでとは……」
レミリアの同意に、隣のアリスが息を呑む。
「俺様でもわかるぜ、エメリーのヤツ、ここに来た時より強くなってやがる」
目を丸くし、その強さに度肝を抜かれるガイアス。
ミケラルドは、エメリーの成長速度に驚きつつも、未だ【覚醒】に至っていないという事に喜びを露わにしていた。
ふんふんと鼻歌を歌い、
「はい、次でーす」
「はい! って、わっ!? 何ですかこれっ?」
「【チャークー】って武器です」
刀身から左右に飛び出る無数の剣先に、オベイルが顔を曇らせる。
「あばら骨みたいな剣だな、おい!」
「でも、何となく使い方がわかります!」
エメリーは嬉しそうに武器を手にオベイルに飛び掛かる。
「ボン、あれは武器破壊用の武器か?」
「いえ、武器を絡めとるのが主とした武器ですね。短剣だったら壊せるかもですけど」
「何とも奇怪な……」
「魚の背骨みたいですよね」
「確かに……」
イヅナが得心した直後、エメリーの【チャークー】にオベイルの剣が絡みついた。
「ぬっ! くくくくくっ!」
武器をとられまいと力むオベイル。
「くそ、昨日とは力も雲泥の差じゃねぇか!」
「へへ、どんどん湧いてきちゃって」
「くそっ!」
言いながら更に力むオベイル。
しかし――、
「はいっ!」
エメリーは一気に力を緩め、オベイルの腕を駆け上がった。
同時に放たれた蹴りは、オベイルの頬を捉え、見事にクリーンヒットしたのだ。
「今のは鬼っ子が悪い」
「雑でしたよね」
イヅナとミケラルドの指摘が耳に入ったのか、オベイルの青筋が太く眉間に表れる。
「そこの二人、いつかぜってぇぶっ飛ばす!」
二人を指差し苛立つオベイル。
「いつでも来い」
「ぶっ飛ばされるだけでその怒りが収まるなら、三回ターンくらい決めてぶっ飛ばされますよ」
イヅナは淡々と、ミケラルドは嬉々としてそれを返す。
「鬼剣、爆裂ぁあああっ!!!!」
ついに剣技を使い始めたオベイルを見て、アリスが零す。
「お、大人げない……」
「それじゃそろそろ本命を」
「え?」
ミケラルドのその言葉に、アリスは小首を傾げる。
エメリーに向かって投げた剣は、長剣とも短剣とも言い難い普通の剣。
エメリーは剣を受け取り、その軽さに驚きを見せる。
「これは……」
「【バゼラード】です。シンプルな作りですけど、刃渡りはエメリーさんにピッタリかと」
【バゼラード】を手に、エメリーはオベイルの剣を受ける。
一瞬弾かれるも――、
「はい、もう一本です」
「うぇ?」
ミケラルドから投げられたもう一本の【バゼラード】。
それを見た皆が驚きを見せる。
「「二刀流……!」」
「オベイルさん、もう一度お願いしまーす」
皆の驚きなどお構いなしのミケラルドは、オベイルに再度剣技の注文。
その意図を理解したオベイルは、ニヤリと笑ってから大きく振りかぶった。
「とっておきだ! しっかり捌きな、エメリー!」
「はいっ!」
「鬼剣! 大爆発っ!!」
直後、大地が抉れ、散弾の如く岩石が弾ける。
エメリーはこれを真っ向から受け、捌き、潜った。
「まだ何かあるね」
「うむ、風圧か」
ミケラルドとリィたんは、オベイルの剣技の二段構えに気付いていた。岩石の弾幕に遅れて届く強烈な風圧。
しかしエメリーは――、
「やっ!」
十字にこれを斬り裂き、見事凌いで見せたのだ。
「……強いな」
イヅナがそう零す程の衝撃。
オベイルは自身の「とっておき」を完全に防がれ、渋面を見せるばかり。
「ったく、いずれ抜かれるとは思ってたが、こうもあっさりじゃ割に合わねぇだろうが……!」
「まだ鬼っ子のが強いだろう、ほんの少しだが」
「うるせぇ爺! このまま続けたら明日には抜かれちまうだろうが!」
「今日中の間違いだろう」
「くっ! リィたんちょっと付き合えよ!」
「ははは、いいだろう。存分にふっ飛ばしてやる」
オベイルとリィたんが戦闘訓練に向かう中、エメリーが飛び跳ねながらミケラルドの下に戻って来た。
「ミケラルドさんっ!」
嬉々とした様子で顔を綻ばせるエメリー。
「やっぱりよかったですね、それ」
「何で二刀流がいいって気付いたんですか?」
「え、だってエメリーさんいつも切羽詰まった時は【オーラブレイド】使ってるでしょ? なら最初から二本持たせてしまえばちょうどいいかなって思ったんですよ。
「
「一本のがアンバランスだったんじゃないかとさえ感じましたから」
「おぉ~」
感嘆の声を漏らしつつ、尚も嬉しそうなエメリー。
そこへガイアスがやって来る。
「やれやれ、【勇者の剣】が二本だって? 何て手のかかる勇者なんだよ、まったく」
言いながらも、ガイアスの声はエメリーのように弾んでいた。
「えぇ、【バゼラード】型の剣が二本――それが
リィたんに吹き飛ばされるオベイルを背に、三人はニカリと笑うのだった。
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