その860 ウェイド王との再会

「はっはっはっは! ミケラルド殿、リィたん殿、よく来てくれた!」


 喜び露わに出迎えてくれた快活な王――ウェイド・ガンドフ。

 魔界に南にあり、法王国の東にあるガンドフを治めるドワーフの王。

 以前、冒険者として会った時や、真・世界協定の際に会った時はもう少し無骨な感じだった感もあるが、もしかしたらこれが本来のウェイドなのかもしれない。

 今回俺は、オリハルコンズのミケラルドとしてのガンドフ入り。従って、謁見の間でのやりとり。

 しかし、そこにいたのは必要最小限の人数だったのだろう。部下や文官が思った程いなかった。

 マインはウェイドの隣に移動し、耳打ちをした。

 ウェイドは、耳打ちを呑み込むようにうんうんと頷いている。


「道中、何やら面白い仕掛けがあったようだな」


 苦笑しつつ、そのまま俺に厳しい視線を向けるアリスちゃん。


「さて、エメリー」

「は、はい!」

「今回の目的は真なる勇者の剣を作る事だ。製作に携わるのはガイアスとアリス……それにミケラルド殿だが――」

「――えっ!?」


 イイ感じに間の抜けた声を漏らすアリスちゃん。


「コホン。当然、エメリーの意見も重要になってくる。剣の型、刀身の重心から柄の先まで。世界という重責を担う剣の作成である事を努々忘れぬようにな」

「はい! わかりましたっ!」


 そんなこんなで終わったウェイドとの謁見。

 夜に会談の席を設けるという事を約束し、俺たちはガンドフの職人街にまで足を伸ばしていた。

 道中、ちらちらと俺を見ていたアリスが、徐々に歩行速度を緩め、隣にまで下がってきた。


「さっきの話なんですけど……聞いてないんですけど?」

「やだなぁ、スペシャルアドバイザーにデュークの名前があったでしょ?」

「口を出すと?」

「いえ、予めガイアス殿とは話を済ませています」

「つまり……私は一日中ミケラルドさんと一緒にいるって事でしょうか……?」


 中々渋い表情をしていらっしゃる。


「嫌でした?」

「い、嫌というか心の準備がまだというか……聞いてないんですけど?」

「やだなぁ、スペシャルアドバイザーにデュークの名前があったでしょ?」

「むぅ……!」


 珍しくアリスが頬を膨らませる。

 そのまま飛んでいきそうな膨れっぷりである。


「何で空を見上げてるんですか?」

「いや、屋根より高く飛ぶかなって」

「何が?」

「勿論アリスさんですよ」

「ちょっと言ってる事がよくわかりません」


 しかし、俺が説明するより早く、オリハルコンズの視界に【ガイアス武具店】の看板が目に入ったのだ。

 マインが中に入ろうとすると、中から現れたのはオベイルとイヅナだった。


「遅かったじゃねぇか」

「中でガイアスが待ってる」


 オベイルが首をくいと店内に向け、緊張の面持ちでエメリーが店内へと入る。そこに、アリス、俺と続き皆店内へ入っていった。

 中には、以前俺の応対をした店員と共に、ガイアスが腕を組み待っていた。

 ガイアスは俺を見つけるなり、ニヤリと笑った。

 そして、流石の眼力か、エメリーやアリスより先に目に留まったのがリィたん――が持っているハルバードだった。

 目を輝かせ、小さい身体でとことことリィたんの下へと走る。


「す、すまんがそのハルバードを見せてもらっていいだろうかっ!」

「【魔槍ミリー】の事か?」


 リィたんはそう聞き、ガイアスは五十回くらい頷いた。

 リィたんは俺に許可をとるように目配せをし、俺はガイアスの五十分の一程頷いておいた。

 リィたんは【魔槍ミリー】をひょいと背中から抜き、ガイアスに渡す。

 ガイアスは嬉しそうに、しかしその目は真剣に、ミリーをまじまじと見ていた。

 そして俺に目をやり、


「なるほどな、とんでもねぇ【勇者の剣】が出来そうだな」


 ニカリとそう言い切ったのだ。

 そして、エメリーとアリスの前に立ち、じろりと二人を見る。


「エメリーにアリスだな。顔は人形で知ってる」


 一体どんな人形なのだろうか。

 エメリーは恥ずかしそうに俯き、アリスは恥ずかしそうに顔を背けて俺を睨んだ。

 最近、アリス人形の売り上げが伸びてるという話もある。

 理由はおそらく、俺からゲバンを助けた一件だろう。

 あれは正に世界的発信だったからなぁ。


「入んな――とは言っても仕事場はそんなに広くねぇ。エメリーとアリス、それに若造と……そうだな、若造決めろ」

「え、俺がですか?」

「そう言ったつもりだが?」

「うーん……そうですね、それじゃイヅナさんとオベイルさん、後はレミリアさんと……リィたん、かな?」


 選出された名前から驚きを見せたのは一人。


「わ、私……ですかっ?」


 レミリアは自分を指差して言ったのだ。


「剣の事を決めるんですから、【三剣】の意見を聞くのも大事だと思いまして」


 そう言うと、ガイアスがレミリアを見た。


「そうか、おぇさんが剣聖レミリアか。なるほど、良い選出だ。他の連中にゃ悪いが、ガンドフ観光でもしてきてくれ。マイン、頼んだぞ」

「わかってるわ、パパ、、


 そんなマインの返答に、皆ぎょっとした顔をしていた。

 イヅナは知ってた口だろうが、オベイルは中々の渋面しぶづらを向けている。

 しかし、どうしても気になったので前を歩くガイアスに俺は言った。


「パパって顔でしたっけ」


 そんな軽口に、ガイアスも軽口を返す。


「気品溢れる面構えだろうが」


 丸太みたいな腕と鼻の下の黒墨……気品とは一体何なのか、考えさせられる一幕だった。

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