その859 到着、ガンドフ!

「「あ〝あ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝ぁ〝!!」」


 ハンとキッカから聞こえる奇声のようで悲鳴のようで溜め息のような声。顔には疲労が蓄積し、肩を落とし、今にも倒れそうな状態。

 メアリィは足を引きずり、ナタリーが肩を貸している。

 ラッツは失神しているクレアを担ぎ、レミリアは負傷した肩を押さえながら歩く異様な空間。

 未だキャスター付きの椅子で移動していたマインは、ちらちらとオリハルコンズに目をやりながら申し訳なさそうな表情をしている。

 大地に杖を突き、鼻息荒く歩く聖女アリスの視線の先で、唯一体内に魔力を残している勇者エメリーが大きく手を振っている。


「おーいっ!」


 丘陵の先に立つエメリーに、ハンが聞く。


「どうした……エメリー……?」


 ハンの声に力はない。


「ガンドフが見えましたよー!」


 直後、ハンとキッカはぐいんと顔を上げてそそくさとエメリーの隣にまで走った。

 丘陵から見える首都ガンドフ。

 ガンドフ城が神の城であるかのように、ハンとキッカは涙を流した。


「「おぉ! おぉおおおおおおっ!!」」


 歓喜の悲鳴。そう形容出来そうな二人の安堵は、パーティ皆の笑みを誘った。

 と同時に、俺は法王国とコンタクトを取る。

 先方の準備が完了している事を確認し、俺はアリスの冷たい視線を横目に、丘陵近くにテレポートポイントを置いた。


「ミック、それってもしかして……」


 ナタリーが呆れた目を向けてくる。


「そう、そのもしかして」


 俺はウィンクをかまし、ナタリーはそれを受け取り拒否するかのように溜め息を吐いた。


「ミケラルド様、それは……?」


 レミリアが俺を様付けで呼ぶという事は、つまり、部下として聞いているという事だ。

 それすなわち、レミリアも薄々気付いているのだろう。

 ――流石にこのままでは体裁が悪い、という事を。

 エメリーがこてんと小首を傾げていると、テレポートポイントが反応する。

 直後、光と共に大集団が出現する。


「「こ、これは……!」」


 皆の驚きと共に眼前に現れたのは聖騎士団だった。

 そう、これまで【歪曲の変化】で誤魔化していたハリボテ聖騎士団ではなく、本物の聖騎士団が現れたのだ。

 現れたライゼン騎士団長とクリス副団長は、マインに目礼をした後エメリーとアリスの下へ向かった。

 元気こそ見て取れるものの、様相はボロボロ。

 ライゼンは二人の苦労、オリハルコンズの苦労を確認し、口を開く。


「エメリー殿、アリス殿、それにオリハルコンズの皆の衆、騙すような事をして申し訳なかった」


 そんな謝辞に困ったエメリーは、アリスと顔を見合わせまた小首を傾げた。


「大丈夫ですよ? 聖騎士団さんがいなかった理由は身に染みてわかっていますので」


 これが勇者エメリーの優しさ。


「大丈夫ですよ? どうせどこかの元首様が無理難題を言ってきただけだと思いますし?」


 これが聖女アリスの厳しさ。

 一瞬、勇者と聖女がどっちなのかわからなくなるような出来事が、俺の眼前で繰り広げられていた。

 怪光線でも飛んできそうなアリスの視線をかわしていると、ライゼンは苦笑しながら言った。


「本来は【勇者の盾】となるために結成した聖騎士団……とある御方、、、、、に『ここで動いては勇者たちのためにならない』と言われてしまいましてな」

「へぇ、とある御方が……」


 エメリーは純粋に誰だかわからない様子で、


「へぇ、とある御方が……?」


 アリスは何故かとある御方を見ながら。

 同音異義語のようでそうでない。そんな発言に、俺は耳を覆いたくなる。


「……ふむ」


 ライゼンが顎を揉み、周りを見渡す。

 それはオリハルコンズの成長を身体で、魔力で感じ取ったからに他ならないだろう。


「やはり、特別講師としてもう一度招くべきかな」


 そう零しながら、ライゼンは俺をちらりと見た。

 俺はライゼンに小さく手を振りながらニコリと微笑んだ。


「ふふふ、次は高くつきそうだな。さぁ、残りのガンドフまでの道のりは馬車の中で過ごすといい。マナポーションを使い、回復につとめなさい」


 そう言った時、クリス副団長は既に動いていた。

 聖騎士団に所属する魔法使いが、皆の手当を始め、手を貸し始めたのだ。

 それを見て、エメリーとアリスはようやくほっと一息吐く。

 馬車の中に入ったオリハルコンズたちは、入るなり緊張の糸が途切れたように意識を失った。

 眠ったというよりも気絶したように限界を迎えたのだった。

 それを見届け、皆に【クリーンウォッシュ】の魔法を掛けた後、俺もようやく一息吐く。


「……ふぅ」


 そんな俺の隣にやって来たのは、ガンドフの親衛隊長マインだった。


「嫌われ者に徹するのは大変でしょう?」

「え?」

「今回の荒療治、ミケラルド殿ご自身も苦労されたでしょう」

「あ、いえ……まぁ気は配りましたけどね」

「ミケラルド殿程の実力があろうとも、魔王の復活というのは恐ろしいものですか?」

「うーん……答えになるかわかりませんが、こういう事、、、、、をするくらいには」

「やはり、勇者の剣製作前の勇者と聖女の実力向上が狙いでしたか」


 流石は親衛隊長、ウェイド王が信用するだけに頭も切れるな。


「勇者の剣をより強固な物にするためには、彼女たち……特にアリスさんの実力の底上げは必須ですから」


 言うと、マインはくすりと笑ってから馬に騎乗した。


「どうぞこちらへ、ガンドフへご案内致します」


 拝啓――父さん、母さんお元気でしょうか。

 しょうです。

 聖女の当たりが強い今日この頃。

 紆余曲折ありましたが、間もなくガンドフです。

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