◆その858 覚悟の準備6
後方に佇むミケラルド。
【シャドウオリハルコンズ】と化したミケラルドの分裂体たちは、即座に行動に移った。
まずぶつかったのがラッツとシャドウラッツ。
ガキンと剣が交わるも、吹き飛ばされたのはラッツ側。
「基本的には同等のスペックで用意したラッツさんですよ」
誰がどう見ても道化というように、小気味よくラッツを指差すミケラルド。
「ならどうしてっ?」
メアリィが声を漏らすも、他の者は気付いていた。
皆の視線を追い、メアリィも遅れて気付く。
シャドウラッツが、ラッツよりも低く腰を落とし、足場すら硬い岩を利用していた事に。
「状況状況において動きが変えなくちゃいけないって事に気付いて頂けたようで何よりです」
ミケラルドがニコリと笑った直後、シャドウアリスとシャドウキッカが杖を掲げた。
「「ツインシャイン」」
「「ちょっ!?」」
ぎょっとするナタリーとメアリィ。
それは二人が何度も訓練して覚えた奇襲魔法。
しかし、行使したのは対象違いの分裂体。
一瞬目を覆うも、その強烈な光は二人の魔力の比ではなかった。
「アリスさんとキッカさんが使えばこれだけの攻撃力になります。正直、
次に奇襲をかけたのはシャドウハンとシャドウレミリア。
しかし、ハンに攻撃を仕掛けたのはシャドウレミリアで、レミリアに攻撃を仕掛けたのがシャドウハンだった。
瞬時に入れ替わった二つの影に、ハンはギョッとする。
「嘘だろっ!?」
「弱い者から狙うのは戦闘の定石ですよ」
「くそ、傷つく言い方するぜ、大将っ!」
ハンは双剣でシャドウレミリアの突きを受け、浮身を使い後方へ敢えて吹き飛ばされた。そして、その威を利用して、レミリアへ攻撃しようとしているハンに追いついたのだ。
当のレミリアは既にハンをすり抜け、シャドウレミリアへと動いていた。まるで、ハンがどう動くのかわかっていたかのように。
ミケラルドは「ひゅ~」と口を尖らせ、即座に対応した二人に称賛を送る。だが、レミリアの足を止めたのが、シャドウクレアの闇の矢だった。
「くっ!」
突進の威力を削がれたレミリアと、最速を身に宿したシャドウレミリアがぶつかる。
結果は、先のラッツ同様――レミリアの負け。
「瞬発力はまぁまぁ。ですが、こちらのパーティーワークは並みじゃありませんよ? なんせ、頭脳が一人ですから」
ミケラルド一人が統括する【シャドウオリハルコンズ】。
対し、オリハルコンズはオベイルとイヅナに扱かれたものの、未だ成長途中。パーティワークがままならないのも無理はない。
だが――、
「はぁあああああああっ!」
吹き飛ぶレミリアの肩を踏み台にし、勇者エメリーが飛び掛かる。先の仕返しとばかりに、シャドウレミリアを吹き飛ばした。
(へぇ、既にシャドウハンを制圧した後に攻撃に移ったのか。【シャドウオリハルコンズ】の視界を掻い潜って死角がら攻め込む状況判断――いいね、この茶番は間違いじゃない。成長している。
ニヤリと笑うミケラルドに、二つ光弾が飛んでくる。
「わっ?」
慌ててそれを弾いたミケラルドが、二つの光弾の軌道を追う。
そこには、ナタリーとアリスが不敵な表情をしながら立っていたのだった。
二人とミケラルドは、戦闘の最中、一瞬だけ視線を交わしただけだった。しかし、たったそれだけで、ミケラルドは二人の成長も知った。
(フルコントロールしてあっちではシャドウラッツも動いてるのに、その隙を衝いて
そう考えながら首を傾げるミケラルド。
周囲で壮絶な戦闘が繰り広げられる中、徐々に形勢が変わっていったのだ。的確に動く【シャドウオリハルコンズ】に遅れを取っていたオリハルコンズが機能し始めたのだ。
「お? おぉ?」
シャドウオリハルコンズ最強のシャドウエメリー。この一撃をメアリィが受け止めたのだ。ミケラルドから与えられた【反射の
「すっげ」
たった一回ではあるものの、最高戦力の攻撃を一手減らすというのは、パーティにおいて大きな戦果を与える。
たったそれだけ。たったそれだけで、シャドウエメリーとレミリアが拮抗を見せたのだ。
メアリィは吹き飛ばされる
「ふーむ、意外や意外……もう少し手こずると思ってたけど、ここまで早く軌道修正するとは……」
劣勢から拮抗、拮抗から徐々に優勢へと変わるオリハルコンズの戦力に、ミケラルドは嬉しそうに顔を綻ばせる。
オリハルコンズの皆も、パーティの弱点、自分の弱点や注意が足りない部分を指摘される講義のような戦闘に、ミケラルドの狙いを理解し、イキイキとした表情へと変わる。
しかし――――、
「それじゃ
「「えっ!?」」
ところがどっこい、ミケラルドは性格が悪かった。
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