その857 覚悟の準備5

 リィたんとイヅナのタッグは中々面白い組み合わせだった。

 最初こそぎこちないものだったが、流石は戦いのエリートたち。すぐに動きを調整し、熟年のカップルのように立ち振る舞った。正直、少々妬けてしまう程に。

 そんな騒ぎを聞きつけたのか、ジュラ大森林から木龍クリューが乱入した時は度肝を抜かれてしまった。

 皆して世界を虐めるのかって程大地を痛めつけていたと思う。

 俺はそれを配慮して動いていた。ほんと、誰かに褒めて欲しい程だ。

 オベイルがオリハルコンのシゴキから戻り、イヅナがその場を離れる。そしてオベイルがイヅナの代わりにリィたんと木龍クリューの間に入る。

 中々経験出来ない事もあってか、イヅナもオベイルも少年のように目を輝かせていた。この二人を見て、戦闘もある意味では娯楽なのだと再認識した。

 そもそも剣奴がいるような世界だし、武闘大会だってある。

 やはりミナジリにも円形闘技場コロッセオでも建設するべきか? そんな事を考えながら二、三日が経過した。


「ふむ、オリハルコンズは疲労が見てとれるね」


 遠目に歩くオリハルコンズたちを【ビジョン】越し眺めながら呟くと、隣にいるボロボロのリィたんと、ボロボロのイヅナ、ズタボロのオベイルが俺をジトリと見てくる。


「ミック、随分綺麗な出で立ちだな」

「私たちの攻撃など児戯だとでも言いたげな格好だな」

「ふざけやがって」


 三者三様の嫌味を拝聴。

 その後ろでは、中抜けして身体を綺麗にしてきた木龍クリューがサッパリした顔で三人に言った。


「お前たち、汚いぞ」


 当然の如き指摘に、三人は顔を見合わせ難しい顔をする。


「ナタリーたちが頑張っているのだ、我らが楽をするのは違う気がする」


 リィたんの言葉とは思えないのか、木龍クリューは目を丸くする。


「ほっほっほ、これも経験。オリハルコンズの連中は強くなった。法王国を出立した三日前とは最早もはや雲泥の差だ」


 イヅナも彼らの努力を評価しているようだ。


「やっぱエメリーの伸びがいいな。才能だけで片付けられねぇ程の努力と工夫が見えるぜ」


 ま、オベイルはエメリーに一発、イイのをもらったからな。


「ガンドフまで後半日ってとこだが、どうする? もう一回くらいイっとくか?」


 オベイルの問いかけに、俺は悩んでいた。

 彼らも準備して来たとはいえ、これ程の強敵ラッシュを想定してはいなかった。

【テレフォン】が封じられている今、【闇空間】から調達出来る補給も限られている。

 行動を起こさない俺にしびれを切らしたのか、オベイルが肩を小突いてきた。


「どうすんだよ」

「うーん、悩みますね」


 それしか零せなかった。

 そんな中、木龍クリューが俺の気持ちを代弁してくれたのだ。


「ふっ、無理もない。一手しくじれば彼らの命を奪う事になるからな。追い詰めるべきか、引くべきか、引く事は甘やかす事と同義ではないか……大変だな、ミック」


 それを聞き、オベイルが頭を掻き、イヅナが顎を揉んだ。

 そして、リィたんは何故かうんうんと頷いていた。

 さて、どうするか。

 オベイルの規格外の力、イヅナの極致とも言うべき神技。

 ここまで経験させてまだ足りない。

 世界の窮地までの秒読みと、彼らの歩幅が合わない。

 それを感じたからこそ、今回の行動に出た。

 ならば――、


「最後は私が出ます」

「「っ!」」


 立ち上がった俺を見、四人はくすりと笑った。


「ミックが始めた事だからな、ミックで締めるのが最適だろう」


 リィたんも、


「大事なのはバランスだ。人間は弱い、それを忘れるな」


 木龍クリューも、


「ま、それが一番かもな。俺様はここでゆっくり見学させてもらうぜ」


 オベイルも、


「ほっほっほ、勉強させてもらおう」


 イヅナも納得してくれたようだ。

 俺は【チェンジ】を解き、吸血鬼の姿となって飛び上がった。空に舞い上がった俺を四人は見送り、俺は俺で【エアリアルフェザー】を使いオリハルコンズの下へ飛んだ。

 飛んでからほんの数秒でオリハルコンズを目視した。

 最初に俺の存在に気付いたのは、やはりエメリーだった。


「せ、戦闘隊形!」


 疲労困憊ひろうこんぱいながらも皆の身体はよく動いた。

 まぁ、俺の姿を見て一瞬の硬直はあったようだが。


「「マ、マジ……?」」


 キッカとハンの阿吽の呼吸は完璧だと思う。

 だが、ここでいつものようにふざけてしまうと、場がしらけてしまう。

 俺はもくもくと戦闘準備に入った。


「それじゃあ、総仕上げといきましょうか」


 直後、俺の影が九つに分裂する。


「「っ!?」」


 影は立ち上がり、九つ全て人型に変形していく。

 そう、それは俺の分裂で作られた影。

 そして、それぞれがそれぞれの顔に変わっていく。

 まるで、SSSトリプルで出会ったモンスター【ドッペルゲンガー】のように。


「まぁ安直ですけど【シャドウオリハルコンズ】ってところでしょうか」


 オリハルコンズのメンバー――エメリー、アリス、レミリア、ナタリー、メアリィ、クレア、ラッツ、ハン、キッカの九人は狐につままれたように目を丸くして、自身と同じ造形の【シャドウオリハルコンズ】を見る。

 俺は【闇空間】の中から、オリハルコンズと同じ装備を取り出し、【シャドウオリハルコンズ】へと手渡す。


「さ、武器が行き渡ったところで、始めましょうか」

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