その849 再会、そして対話3
「まず、ジュラ大森林についてです。魔界を中心にモンスターや動物が退避しているという報告が上がっています。アナタはこれに関わっていらっしゃるのでしょうか?」
俺の最初の質問は、賢者を一瞬驚かせたように見えた。
「アレに気付いたか、優秀だな」
「情報が少なくここまでやって来た次第でして」
「なるほど、私の居場所を察知して……という事ではなかったか」
つまり、今回の一件に古の賢者は関係ないという事か。
「そもそも私の役目は監視と観測。この世界に関わるような事はしない」
すると、隣に座るリィたんが足を組みかえながら言った。
「我らには関与するようだが?」
それは俺も以前聞いたんだが、要領を得ない回答で終わってしまったんだよな。
すると、相手もあのリプトゥアでの【テレフォン】通話を思い出していたのか、じっと俺を見たのだ。
「あれから私も考えた」
「え?」
「そして気付いた。何故、私がお前に関与したのかを」
リィたんは「我々」と言ったが、賢者は「お前」……
いや、何で俺なんだ?
「……これは推測の域を出ないが、おそらくミケラルドはこの世界の外からやって来たからだろう」
「それが何か関係あるのか?」
「魔族が魔王に攻撃を加えられないように、私にも見えない制約がある」
「ほぉ、世界の
何だか、話がどんどん大きくなってきたな。
そう思い、俺は話を最初に戻した。
「それで、今回の一件は一体どうして起こったのでしょうか?」
「魔王復活の予兆以外に何がある?」
リィたん、
……ま、考えていない訳じゃなかったが、やはりそういう事なのか。そう思い、俺は以前話してもらった続きを聞きたくなった。
「……以前、魔族四天王の対処を急がせた理由は、未だ話してはもらえないのでしょうか」
「あの時よりは好転したと言うべきだろうな」
「アナタはどのような結末を知っていると言うんですか?」
「【霊龍】から話は聞いていただろう」
確かに、
「魔族四天王は勇者と聖女の成長を阻害し、魔王の強化を図ろうとしていた、と」
「その通りだ。魔族四天王四人の内三人を仕留め、不死王リッチと魔人は魔王復活まで外界には出て来られない。しかし、それでも魔王はこれまでの存在とは比べ物にならない力を有していると考えた方がいいだろう」
「つまりこういう事ですか? 最悪は脱した、と?」
「【あの時よりは好転した】と言っただろう。百が九十九になっただけかもしれんがな」
そういう事か。
つまり、魔族四天王殲滅の結果は未だ出ていないという事だ。しかし、それでも揃っていたよりかはいいというだけ。そこまでの情報は賢者も握っているようだ。
「もし仮に、あの時私が動かなかった場合、世界はどうなっていたのでしょう」
俺のそんな質問に、賢者はウィザードハットにポンと手を載せ、更に深く被ったのだ。
「……それを聞いたところで、お前には何も出来ない」
リィたんも
その言葉は、やけに胸に突き刺さったのだ。
抗いようのないまだ見ぬ現実を、叩きつけられたような感覚。
「……先程、密談と仰ってましたが、先程から我々ばかりが話していますね。アナタからは何かあるのでしょうか」
「お前の能力――【
「っ!」
予想外の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
「こ、この能力が……何か?」
「自分が【借り物吸血鬼】だという事をもう忘れたのか?」
「っ!」
賢者にそう言われた時、俺も、リィたんも、
「ちょ、え?? まさか……まさかですっ?」
立ち上がって驚く俺に、賢者は言った。
「魔王が復活した時、その能力がお前に残っているとは限らないという事だ」
「それは…………中々ショッキングな話……ですね」
言いながら俺は額を抱え、また椅子に腰を落とした。いや、落としてしまった。
だが、賢者は気になる言い方をした。
俺は顔を上げ、賢者に聞いた。聞くしかなかった。
「
「ふっ、言葉通りだ」
何だろう、あの顔少し殴りたいな。
だが、言葉通りという事は、この結果は賢者にもわからないという事。というより『知らない』と言い換えた方がいいかもしれない。
さっき賢者は「好転した」と言った。これが関係するならば、賢者のこの言い方も理解出来る。
賢者は未来から過去に渡って来た可能性が高いというのが俺の結論だ。つまり、未来の俺は魔王に能力を奪われたのではないか?
しかし、今回の魔族四天王殲滅という行動によって、それが好転したとなれば……その未来が変わる可能性がある。
「……つまり、魔王の魔力を押さえる事は、私という存在の生存率を上げる結果になるという事ですね」
「誰だってそうなんだが……ことミケラルドという存在にとっては、直結的に関係していると言えるな。ははは、よかったな。世界はお前を中心にまわってるぞ」
魔王という存在。俺という存在。
考える事は多けれど、俺はある事を決意するに至った。
――いつか賢者をぶっ飛ばす。
「やれるものならやってみろ」
ほんと、いつかですってば。
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