その848 再会、そして対話2

 龍族の二人が完全にビビっている。

 それもそのはずで、ここまでの接近を気付かせなかっただけでなく、賢者の身体から漏れ出る魔力が異質なものだと理解したからだ。

 ……凄いな。

 膨大な魔力を圧縮し、それでも尚漏れ出ている状況。

 どうやるんだろ? 圧縮だから……薄く引き伸ばした魔力を折りたたむように丁寧に丁寧に……こんな感じか?


「「っ!?」」


 リィたんんと雷龍シュリがバッと振り返る。

 どうやら、俺の魔力が賢者と同性質になったようだ。


「流石だな。ことイメージにおいて、この世界でお前の右に出る者はいないという事か」


 降り立った賢者が歩み寄る。


「お久しぶりです。求愛のダンスには応えて頂けなかったようで」


 俺も賢者に歩みよる。

 しかし、そんな俺の足を止めたのが、先程から臨戦態勢にあった雷龍シュリだった。

 彼女は俺を腕で遮り、俺の代わりのように賢者に向かって歩み始めたのだ。強者故の興味というやつかもしれない。

 賢者が雷龍シュリを指差し俺に聞く。


「止めないのか?」

「言って止まる方じゃないんですよね」

「別の方法があるだろう」


 なるほど、流石はいにしえの賢者だ。

 雷龍シュリの血を俺が得ている事を知っているようだ。


「ミック、止めるなよ」


 雷龍シュリは振り返らず背で語り、俺とリィたんは見合って肩をすくめた。

 視線を戻すと、そこには俺たちを真似ている賢者がいた。


「まぁ雷龍なら死なずに済む……か」


 賢者のその言葉を口火くちびに、雷龍シュリが戦闘を開始した。

 大地がぜ、轟音よりも速く雷龍シュリの拳が賢者に向かう。

 直後、雷龍シュリが俺の後ろに吹き飛んでいった。

 リィたんはそれを追いきれなかったようで、一体何が起きたのかわからなかったようだ。


「なっ!? ミ、ミック……今のはっ?」

雷龍シュリの拳をかわして一発……蹴り、かな?」

「ご明察」


 賢者は俺を指差し言った。

 おそらく雷龍シュリも見えなかっただろう。

 いや、俺でも正面から受ければ何が起こったのかわからない。それ程の一撃を賢者は見せた。

 やはりこの古の賢者……強いな。俺、リィたん、雷龍シュリとでは天と地の差がある。

 賢者が【闇空間】から椅子を取り出し、俺もまた三人分の椅子を【闇空間】から取り出した。

 ん? うわぁ……ガンドフへの関所が近いからここで長く戦って欲しくないんだけどなぁ。

 椅子に座ろうとしていた賢者がやれやれという様子で俺たちの背後を見据える。

 後ろから先程の逆再生のように賢者に向かって行く雷龍シュリ

 俺たちを横切り、雷龍シュリの雷撃が賢者に迫る。

 直後、賢者の身体が発光する。


「【リチャージ】か」


 雷魔法の【リチャージ】。

 雷の力を魔力に変換する雷龍シュリにとっては相性最悪の魔法だ。


「しゃらくさい!」


 雷撃が大地に向かい、直撃と共に隆起する。

 なるほど、雷撃の衝撃で砕けた岩でダメージを狙う気か。


「ただの目くらましだな」


 まぁ、それが賢者に通用するかと言われればそうでないんだろうな。


「そうだ、目くらましだ……!」


 おぉ、凄いな。

 岩の弾幕を上手く使い、雷龍シュリは賢者の背後に回っていた。


「なるほど」

「余裕ぶっていられるのも今の内だ!」


 賢者の背から拳を……おぉ!?


徹し、、か」


 リィたんの言葉通り、雷龍シュリは賢者の身体とおし、雷撃を打ち込んだのだ。

 なるほどな、【リチャージ】は雷を吸収する膜のようなもの。その膜を介さず、雷龍シュリの雷撃を賢者の体内に徹したという事か。


「作戦はよかったぞ、作戦はな」


 賢者はそう言いながら自身の胸をトンと叩いたのだ。


「ガッ!?」


 直後、雷龍シュリは遠目に見える山にまで吹き飛んで行った。

 ……マジか。背から伝わる雷龍シュリの徹しを、賢者は胸から徹し押し返したのか……!


「だ、大丈夫かな……雷龍シュリ?」


 俺が聞くも、リィたんは唖然としたまま動いてはくれなかった。


「リィたん、大丈夫?」


 ハッとした様子のリィたんは、驚いた表情で俺を見た。


「あ、あれが古の賢者か……」

「さっきも聞いたよ、リィたん」

「あ、あぁ……すまない」


 龍族をもってしてもこの衝撃。

 彼の存在は、この世界にとってイレギュラーであるという事。


「それは、お前も、、、だろう……ミケラルド」

「っ!」


 心を読まれた……!?

 その瞬間、賢者の口元が笑ったように見えた。

 なるほど、情報の小出しが始まったか。

 言いようによっては、少なからず彼との信頼関係を築けたのかもしれない。

 俺たち三人は、ようやく椅子に腰かけた。

 賢者の背後からのそのそ歩いて来る存在。

 深紅の唾を大地に吐き捨て、何食わぬ顔で俺の隣に座る雷龍シュリ


「珍しく大人しいじゃん」

「勝てない事がわかった。何だコイツは?」

「それを聞くのがココって事でしょ。あ、回復いる?」

「いらん」


 悟りの境地でも開いたのか、雷龍シュリはボロボロになりながら身体の快復に努めた。

 俺は苦笑し、リィたんは呆れつつも警戒は解いていなかった。やはり古の賢者の存在が気がかりなのだろう。


「さっきのどうやったんです?」


 俺の質問は先程の読心術どくしんじゅつにあった。

 まさか心を読めるとは思わなかったしな。


「お前ならいつか出来るようになるかもな」

「出来ればすぐに出来るようになりたいんですが」

「お前らしいが、こればかりは修練が必要だ。気が遠くなるような時と、鍛錬がな」

「ははは、とてもいい答えをありがとうございます」


 明確な答え以上の答え。

 この言葉から賢者がどれだけ生きてきたのかがわかる。


「さて、密談といこうじゃないか」


 魔界の荒野に四つの椅子。

 新興宗教みたいな密談が、図らずも始まってしまった。

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