その838 謝罪
謝罪は大事だ。
ごめんなさい、すみません、申し訳ないなど様々な謝罪の言葉がある。どのような言い方であろうと、反省している姿を見せ、相手にその誠意が伝わればいいのだ。
だがしかし、シギュンの謝罪とはどういうものなのか。
気になる人も多いだろう。
法王クルスにでも話せば、酒のつまみに……いや、酒以上のメインディッシュとして聞いてくれること
「あら水龍じゃない? 昨日は悪かったわね、あなたがあれほど打たれ弱いとは思わなかったの」
これは最悪な謝罪パターン。
正しい謝罪とは、相手を目を見て、反省の意を伝え、頭を下げ、謝罪する。
……ふむ? 頭を下げる以外はやっているかもしれないな? と、思うあたり、俺はシギュンに毒されているのかもしれない。
まぁ、冗談ですけど。
しかし、そこは流石リィたんである。
「ふっ、奇妙な服を着てるじゃないか? ひょっとして気に入ったのか?」
「あなたの主君がいやらしい目つきで私を
リィたんの主君って誰だっけ?
何故かリィたんが俺を見てくるが、俺は関係ないので目を逸らしておこう。
「馬鹿を言うな、ミックはいつもあんな死んだ魚のような目をしている。それがどうしていやらしいと言えるのか理解出来んな」
今度はシギュンも俺を見てきた。
「さ、次はジェイルさんだね」
気を取り直して、俺はジェイルの下にシギュンを案内するのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「竜騎士団ねぇ……」
扉の上にあるルームプレートを見ながらシギュンが呟く。
「聖騎士団をパクってます」
「どう考えてもそうでしょう。でも、実力は全然違うみたいね」
「まぁ、中にはハンドレットだった連中もいますからね」
「世界でも滅ぼす気?」
「守るために準備してるんですよ」
「魔王ね……そんなに実感はないのだけれど、強いのかしら?」
「エメリーさんとアリスさん次第ですねぇ……何ですかその目?」
「あの二人に任せる気なの?」
「すみません、私は魔族である関係上、魔王には直接的な攻撃が出来ないんですよ。勿論、バックアップはするつもりですけどね」
「あらそう、貴方も意外と大変なのね……ところで?」
「はい?」
シギュンが扉を指差す。
「これはいいの?」
どれの事を差しているのかは肉眼でこそわからないものの、シギュンクラスになると感覚でわかるのだ。そう、シギュンは扉ではなく扉の奥――竜騎士管理部を指差していたのだ。
扉の奥からわずかながら漏れ出る小さな殺気。
気を張らなければ見落としてしまうくらいに研ぎ澄まされた殺気である。
「剣聖も強くなったものね」
「お、相手までわかりましたか」
俺は扉に手をかけ、開く。
そこでは、
「シギュン……!」
レミリアは、掠れた声でそう言った。
まるで俺なんか見えていないかのようだ。最初に入ったにもかかわらず、だ。
俺は「おーい」とレミリアの前で手を動かす。
だが、レミリアはシギュンから目を離さなかった。
まぁ、目を離せば斬りかかってくるかもしれないしな。レミリアとしてはそれが正解なのだろう。
「訓練は続けてるようね」
シギュンからの問いに、レミリアは沈黙で答えた。
「団長に会いに来たのだけれど?」
「……ジェイル様に何の用?」
「そこの変顔してる元首にでも聞きなさいよ」
何故、蚊帳の外状態の俺がふざけているとスポットライトが当たるのだろうか。世界は俺を貶めようとしているんじゃないかと疑う程だ。というか、シギュンに言われて始めて俺を見たなレミリアちゃん。
「ミケラルド様……いらっしゃったのですか」
「いらっしゃいました」
復唱するように言うと、シギュンが呆れながら俺に言った。
「それだけ魔力を隠してたら見失いもするでしょう」
「あ、そうです? 中々調整が難しくて……こんなもんで?」
レミリアが一瞬ビクつく。
そんなに魔力放出してしまっただろうか?
「出し過ぎ」
秘書の助言である。しっかり耳を傾けよう。
「こんなもん……で?」
「……まぁいいでしょう」
俺は今、許可を頂けた喜びにミックスマイルが飛び出ている事だろう。
「気持ち悪い」
「すんません」
そんな俺たちのやり取りを見ていて、レミリアが小さく挙手して言った。
「あの……何故ここにシギュンが?」
「あ、今日から私の秘書になりました」
目を見開くレミリア。
「マジか? え、正気?」とでも言わんばかりの驚きっぷりである。
「し、しかし、それが法王国に漏れるとまずいのでは?」
「大丈夫ですよ。こっちで見つけて捕縛したとクロード新聞に載せるつもりですから」
「一体どうやって……?」
「牢に閉じ込めるだけでなく、ミナジリ共和国への奉仕名目で特殊な更正プログラムを受けさせるとします」
「野放しの更正なんて危険過ぎますっ!」
「大丈夫大丈夫、見えない鎖で縛られてますから」
俺がそう言うと、レミリアはまたビクっと肩を震わせた。
その意味がわからないでシギュンの方を見ると――、
「貴方ってたまに怖い事言うのよね」
「今のが?」
「私を縛り付ける程の鎖って何だと思ってるの?」
「さぁ?」
「貴方はそうでも、他者から見れば、貴方の口から出しただけで洒落にならないって事」
「あー……そういう?」
「それより気付いた?」
「え? ……あぁ、南の方から何か来てますね? この魔力は……?」
すると、竜騎士管理部にジェイルが入って来た。
「ミック」
「どうしました、ジェイルさん」
ジェイルはシギュンをちらりと見るも、俺への報告を優先させた。
「また来たぞ」
「誰が?」
「法王国の姫だ」
…………は?
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