◆その815 絶対的制裁3

「ち、違うっ!!」


 ミケラルドの疑問に大きく反発したのはゲバン本人だった。

 これを予期していたミケラルドは、ニヤリと笑い反論する。


「えー、でもー? 現にミナジリ共和国の国章が入った短刀でシギュンがクルス殿を暗殺してますよねー?」

「違う! 違う違う違うっ!! 私はそんな指示など――」


 そこまで言ったところでハッとした表情になるゲバン。

 それを見逃さなかったミケラルドが更に追い詰める。


「つまり、シギュンを奴隷契約で縛り、クルス殿暗殺を指示したのは事実だと」

「違う! そのような事実はない!」

「あ、そうそう。こんな映像もあるんですよ」


 ニコリと笑いながら、ミケラルドは更に映像を切り替えた。

 そこには執務室にいるゲバンとクインが映っていた。

 ゲバンがミナジリ共和国の要人クロード、エメラ、ナタリーを暗殺するようクインに命じているところだった。

 法王国軍の動揺は広がり、オリヴィエのショックは深まり、アイビスの怒りは【ビジョン】の映像を震えさせた、、、、、

 これに気付いたミケラルドがオリヴィエが映るビジョンに向かって言う。


「法王国のカメラマンさん、ちょっと動揺してませーん?」

『くっ!』


 映像から聞こえた悔しそうな男の肉声、、、、に、ミケラルドがくすりと笑う。


「しかしなるほどね~、まさかクインとまで奴隷契約してたなんてね。あ、証拠には薄いかもしれないですけど、こちらがクインを捕え尋問した時の映像です」


 またも映像が切り替わる。


『それじゃあ、ゲバン・ライズ・バーリントンが奴隷契約によってあなたにミナジリ共和国の要人暗殺を命令したのですね?』


 声はミケラルドによるものだった。

 すると、クインがその質問に反応する。

 目を爛々らんらんと輝かせ、ミックスマイルすらかすむような不気味な程の笑顔で。


『はい、そのとおりでありますっ!』


 それを見た法王国軍は、呆気にとられた。

 クインの性格とは似ても似つかない……まるで、聖騎士の明るい未来を信じる新兵のような態度。大罪人となったが故に疎遠になったクインの性格が、ここまで変わっている事に驚き、茫然としたのだ。


『シギュン様も強く責められて可哀想でした! やはり悪というは罪ですね! ゲバンの命令はとても辛いものでしたが、奴隷契約の効力は私の命に関わるものでした。奴隷契約なんてものは、やはりあってはならないものだと確信しました! 咎人とがびとにまでなったこの身の証言が証拠となるとは思えませんが、どうか皆さま、公平なご判断をっ!!』


 最後には【ビジョン】の映像限界まで詰め寄ったクインの顔だけが映り、初めてこれを見たナタリーが引き気味に零した。


「ミ、ミックってばあんなに性格矯正したの……?あれじゃ完全に別人じゃ……」


 それに対し、ジェイルが答える。


「あれが最善だ。あのままだったらクインの精神は壊れてしまっていた。ミックが人格や価値観を再構築する他に、クインを助ける道はなかった」

「憎みつつも憎み切れないのがミックらしいというか……でも、クインからしたらたまったものじゃないでしょう」

「だろうな、寧ろあのクインを見て暗部の連中が益々従順になったからな」

「あー、道理で最近反応がよかったんだね。ナガレなんか自分からお茶汲みしてたよ?」

「あのナガレが? にわかには信じられないな」

「私も驚いちゃったもん」


 くすりと笑うナタリーとジェイル。

 そんな談笑とは打って変わり、国境線沿いでは大きな変化が見てとれた。

 イヅナがミケラルドに聞くようにミナジリ共和国側をちょんと指差したのだ。


「入っていいかね?」

「勿論ですよ」


 イヅナがミナジリ共和国の領土に足を踏み入れる。

 次に勇者エメリーが窺い立てるようにミケラルドを見る。イヅナと同じようにミナジリ共和国の領土を指差しながら。


「どうぞどうぞ」


 エメリーもイヅナに続きミナジリ共和国の領土へ入る。

 最後に聖女アリスが――、


「あの、まだ許可してないんですけど……?」


 無言で領土入り。


「ダメなんですかっ!?」


 若干怒り気味のアリスの気迫に押され、ミケラルドはびくついてから「ど、どうぞ……」と零した。

 国境を跨ぎ、イヅナ、エメリー、アリスがゲバンと対峙する。

 三人は、まるでゲバンとの決別を行動で示すかのようにミナジリ共和国に入ったのだ。

 これに対し、ゲバンが起こせる行動はなかった。何一つ。

 私兵はこの状況に一切付いて来れない様子。八方塞がりのゲバンを見て、ミケラルドが言い放つ。


「オリヴィエ姫の証言、屋敷での映像、シギュンとクインの奴隷契約、そして、クルス殿暗殺の決行。ミナジリ共和国への敵意は明確。そして、その当人は現在ミナジリ共和国の国境線まで迫っている……となれば、ミナジリ共和国の元首として、これに対応する他ありませんねぇ」


 決別を示したイヅナ、エメリー、アリスがドン引きする程の……ミケラルドの笑み。


「ジェイルさん、レミリアさん、ドゥムガ、関所に戻ってお茶でも飲んでてください」


 コクリと頷く三人。

 この先に起こる事を理解しているジェイルだけは、やはりその緊張が拭えずにいた。

 だが、ジェイルの弟子は違った。


 ――――吸血鬼が嗤う。


 手を小さく挙げ、左右に映っていたオリヴィエの映像、クインの証拠映像が徐々に離れていく。

 まるで映像自体が生きているように。

 やがて、ソレ、、は姿を現わす。

 世界が震撼する程の衝撃。

歪曲の変化魔法】が解けていく。

 上空を埋め尽くす巨大な建造物。

 皆は町が浮遊しているかのような錯覚に陥る。しかし、それは現実だった。

 ゲバンは知る。

 ミナジリ共和国の新戦力を。


「これがミナジリ共和国の新たな国土にして城――【魔導艇ミナジリ】です」

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