◆その813 スポンサー

 オリヴィエの罪が明らかにされようとした瞬間、ビジョンには別の映像が流れ始めた。


『やぁ、リィたん。今日も素敵だね』

『ミックか、わ、私ハ今悩んデいル』

『ビジョン前だからってそんなに焦らなくてもいいからね? それで、悩み事って何かな?』


 そんなミケラルドの言葉の後、ナタリーの声でナレーションが入る。


『水龍であるリィたんの悩み事とは一体何なのでしょう?』


 リィたんが声高に言う。


『私ハ……も、モッと強クなりタいんダっ!』

『なるほどね、もっと高みを目指したい気持ちはよくわかるよ』

『わカってクれるカ!』

『そんなリィたんにはこれ!』

『ソ、ソレハー!?』

『【量産型魔力タンクちゃん】!』

『コ、コレはイッタイ?』


 またもナタリーのナレーションが入る。


『日頃の魔力消費量でお悩みではありませんか? そんな時は【量産型魔力タンクちゃん】! 【量産型魔力タンクちゃん】を装着するだけで周囲の魔素を吸収、余剰魔力を溜め、溜めた魔力を【量産型魔力タンクちゃん】から使用者に補填する事が可能! サイズはS・M・Lの三種類! ミケラルド商店が誇る技術の結晶! 安心、安全の【量産型魔力タンクちゃん】! 魔力不足との決別! 【量産型魔力タンクちゃん】!』


 ストップモーションに入っていたリィたんが動き始める。


『おォ! 凄イぞミック!』

『副作用がないってのが重要だよね!』

『これなラ私も……!』


 そう言うと映像の中のリィたんが大きな水龍へと変わる。


『わーリィたーん!』

『フハハハハ! ミナギル! 魔力ガ漲ルゾ、ミーック!』

『うわーん、地形が変わっちゃうよー!?』

『【量産型魔力タンクちゃん】! 素晴らしいアーティファクトだ!!』


 リィが締めの言葉を言い終え、再びナレーションが入る。しかし、最後の声はナタリーではなく、ジェイルの声だった。


『【量産型魔力タンクちゃん】! は! ミ……ミミミ……ミナジリ共和国……ミミ……ミケラルド商店一号店……のみの取り扱イ……デス!』


 映像が切り替わる直前、ミナジリの四人が声を揃える。


『『皆、ミナジリ共和国においでよ!』』


 プツンと映像がブラックアウトする。

 空に響き渡る拍手音。当然それはミケラルドがしていた拍手だった。


「ぶらぼー」


 映像がオリヴィエに切り替わっても尚、ミケラルドは拍手し続けた。それはミナジリ共和国側にまで伝染し、うんうんと頷きつつも恥ずかしがるナタリー、感無量に涙を流すジェイル、満面の笑みで雷龍シュリにVサインを見せつけるリィたんを包み、いつの間にかミケラルド商店ののぼりを背に装着していたミケラルドの背中を押した。

 ポカンとした顔でビジョンを見上げていたゲバン。

 ミケラルドがビジョン越しのオリヴィエに言う。


「すみませんねー、スポンサーがうるさくて」

『え、あれ? もしかして聞いていませんでしたの?』

「おや? もしかしてCM中に言っちゃったんですか?」

『えっと……はい……』

「もう一回言えます?」

『えぇ……い、一大決心でしたのに……』

「難しそうですね」


 映像の中でしゅんと項垂れるオリヴィエ。

 少しだけアイビス皇后の視線が強いものの、ミケラルドはいつもの調子で続けた。


「じゃあ、CM中に録画しておいたやつを使いましょう」

『へ?』


 言いながらミケラルドはパチンと指を鳴らした。

 そして、またも映像が変わる。いや、変わったというより、雰囲気が変わったのだ。

 立ち位置が変わっていなくとも、オリヴィエ、アイビスの表情の機微がその変化を伝える。皆が違和感を覚えるような切り替わり。


(この違和感に対応出来るのは電化製品に馴染み深い現代地球の人だけだろうな~)


 ミケラルドはそう考えつつも、先程の撮れ高を皆に披露した。


『わたくしは――』

「あ、やべ。始まっちゃった……戻し戻し……」


 言いながら、CMが流れる前のオリヴィエの言葉まで戻す。


『そしてわたくしは、お父様を止めるべく、一つの罪を犯したのです』

「あー、ここからだ。じゃあ皆さん、お待たせしました。オリヴィエ姫の罪、初公開です!」


 ミケラルドを見ながら呆れるアリスをよそに、映像が再び流れ始める。


『わたくしは……ミナジリ共和国と内通をはかりました』

「「っ!?」」


 動揺が法王国軍に広がる。

 それ以上に驚いていたのが、ミケラルドの眼下にいるゲバンだった。歯を剥き出しにして、映像に映るオリヴィエを睨んでいる。


「うわぁ~、それ実の娘に向ける目ですか?」


 ミケラルドが世界に発信しているビジョンをゲバンに向ける。その悪魔のような卑しい顔は、瞬く間に全世界に発信された。

 そんな中、映像内のオリヴィエが続ける。


『わたくしは、お父様のご命令でミナジリ共和国への特派大使を務め、ミケラルド様と交友を持った時に言ったのです。「どうか法王国を助けて欲しい」と。勝手な言い分だとはわかっています。ですが、どんな醜聞、どんな辱めを受けようとも法王陛下を失うよりは! そう考えミナジリ共和国に助けを乞いました。結果、ミケラルド様は心より同情し、協力を申し出てくださいました』


 その発言に、アイビスが反応する。


『して、どのような協力を?』


 アイビスの質問に、オリヴィエは一つ頷いてから覚悟を決めた様子で叫ぶように言った。


『法王陛下の私室で、今このわたくしが使っている【ビジョン】こそがその協力の証です!』

「「おぉ……!」」


 法王国軍の得心。

 その意味をアイビスが解く。


『なるほどのう、ミケラルド殿の協力があったからこそ、ミナジリ共和国の秘技【ビジョン】の魔法がこのホーリーキャッスルにあるという事じゃな』


 アイビスの説明を聞いた時、ゲバンの顔が青ざめる。


「な、何……だと?」


 そして、録画から現在のオリヴィエとアイビスの映像に切り替わる。ミケラルドが頷き、オリヴィエに合図を送る。


「わたくしはその【ビジョン】を、お父様の執務室に設置いたしました」


 それは、父との決別を意味する、少女の決意の言葉だった。

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