◆その804 映像チェック
ミケラルドが今回の【ビジョン】の撮れ高を確認していると、取材に来ていたクロードが神妙な面持ちでその隣に立った。
「どうです、中々良い表情じゃありません?」
ミケラルドが聞くも、クロードの目が捉えるのは暗部に制されたクインだけ。
その様子を見てミケラルドが首を傾げていると、クロードは肩口に背負っていた護身用の弓を取った。
「ちょ、ちょっとクロードさんっ!?」
慌ててミケラルドが止めに入るも、クロードの動きの方が一瞬だけ早かった。その射撃は真っ直ぐクインの手元に向かい、大地に楔を打ち込んだ。
「くっ……!」
クインが顔を歪ませる。
クロードの射撃技術にカンザスが小さく口笛を鳴らす。
ミケラルドはクロードを押さえながら、自身の浅慮に後悔していた。
(確かに自分の分裂体はともかく、エメラの分裂体が殺されるところをクロードに見せたのは失敗だった。つーかクロードってこんなに凄かったのか……! ランクBの実力はあるんじゃないか? あ、そういえば以前ナタリーからクロード
はワイバーンから家族を守ったとか聞いたような……?)
ミケラルド制止に頭が冷えたのか、クロードはハッとした様子で我に返った。
「……すみません、もう大丈夫です」
「いえ、こちらこそ配慮が足らず申し訳ありません」
ミケラルドが言うと、クロードは弓を背に持ち直し、クインに近付いた。
そして、クインの傷に対し回復魔法を放ったのだ。
「はっ、自分で傷つけておいて回復とは忙しい奴だな!」
クインが煽るように叫ぶも、クロードはその言葉など意に介さぬ様子で
そして、ミケラルドの下に戻ると、先程の言葉通り映像のチェックを始めたのだ。
「……えぇ、悪くないと思います」
「じゃあ後はオリヴィエ殿次第ってところですか」
「そうですね、世論を動かせば法王国は動かざるを得ません。ミナジリ共和国もこれをきっかけに大きく動けるでしょう」
クロードの言葉はミナジリ共和国の前進を意味していた。
ミケラルドはくすりと笑ってクロードに向かって拳を差し出した。クロードも苦笑しながらそれを返しコツンとぶつけ合う。
「ミケラルド! 貴様! 一体何を考えているっ!?」
クインの言葉はミケラルドに届かない。
「すみません、ここからはちょっと見せられないので」
そこまで言うと、クロードは小さく頷いた後、闇に消えて行った。その背中が見えなくなるまで見守っていたミケラルド。
足音すら聞こえなくなった時、ミケラルドがクインに向き直る。
「さてクインさん、色々聞きたい事があるんですが……」
「誰が答えるものか!」
「まぁ答えてもらわなくても結構なんですけど、自我が残っている間に一つだけ聞きたかったんですよね」
「は? 自我……?」
直後、暗部の面々の顔に緊張が走る。
ミケラルドが放つ静かな魔力だけが、いつの間にか周囲を取り巻いていた。重力の如く
ミケラルドに怨恨を持つ敵対者クイン。聖騎士として
「あぁ……あぁああああああああっ?」
小さな悲鳴はやがて大きくなり、
「あぁあああああああああああっっ!?!?」
悲鳴は絶叫へと変わる。
そして、身体はそれ以上に反応を示した。
「ぬっ!?」
サブロウをはじめ暗部全員ですら御し切れない膂力。
暗部の皆は何とか押さえつけようとするも、ミケラルドが手をぴっぴと振って言った。
「あぁ、放していいですよ。奴隷契約で火事場の馬鹿力を出してるだけですから。その内、身体が耐えられなくなるだけですし」
ミケラルドに言われた通りに暗部の皆がクインの身体から離れる。しかし、それと同時にミケラルドがクインの身体を抑え込んだのだ。
パーシバルはポカンと口を開けたままそれを見る。
(……マジかよ、魔力圧だけでこのクソ筋肉ダルマ押さえつけてるのか……!?)
直後、鈍い音が辺りに響き渡る。
骨が折れ、肉が裂けるような背筋が凍るような鈍い音。
「あぁあああああああああああああ……!」
クインの顔に苦痛はない。
ただその恐怖から逃れようと暴れるだけである。
だが、どれだけ足搔こうとも、ミケラルドの魔力の檻から逃れる事は出来なかった。
「どうして
「嫌! 嫌だぁああああああああああああっ!!」
ミケラルドの質問はクインの絶叫に掻き消され、闇に生きた暗部でさえも息を呑む光景。
肩を竦めて困った表情をするミケラルドがノエルを見る。
引き攣った笑みしか返せないノエルに、ミケラルドが微笑み返す。
「ひっ」
ノエルの小さな悲鳴もクインの絶叫に掻き消される。
「あ、あっ、あぁあああっ!?」
ブチブチという音が響き、遂にはクインの腕が限界を迎える。おかしな方向に曲がった肘から乱雑に折れた骨が突きだす。
「うぇ……」
パーシバルの顔が歪むも、ミケラルドは表情を変えぬままクインに近付いた。
肘から垂れる血を指で
「手間が省けていいですね」
残虐な性格であるナガレでさえも喉を鳴らす異常な空間。
「さぁ、今日から忙しくなりますよ」
この日を境に、ミナジリ共和国は戦争の準備へと移るのだった。
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