その792 ミナジリ造船所サマリア支部
『……久しぶりだな、ミック』
【テレフォン】越しに聞こえる法王クルスの声。
明らかに疲れが見えるその声に、俺は苦笑しながら言う。
「お疲れのようですね」
『大変だったぞ、ゲバンの子供のような言い分を止めるのは……』
「事実、子供ですからね」
『言ってくれるな。身から出た錆とは言え、友人には労いの言葉くらいもらいたいものだ。しかし、あの調子じゃ今後もちょくちょく言ってくるだろうな……』
後悔を体現しているかのようなクルスの言葉に、俺は更に続けた。
「労いよりも忠告の方が欲しくありません?」
『……何があった?』
「御命、狙われてますよ」
そう言うと、クルスは絶句した。
代わりに届いたのは、皇后アイビスの声だった。
『ミケラルド殿、それは本当かえ?』
心配するように、警戒するように。
「シギュンとクインが脱走したのは、決してクルス殿を糾弾させるためだけではありませんよ」
『詳しく聞かせて欲しい』
アイビスにそう言われ、俺は現状考えうる事を私見を交えて話した。
「まず、シギュンとクインにはクルス殿を殺す
『……何だ?』
「御子息からの追及、私の話は一切出なかったのでは?」
『鋭いな、シギュンやクインを連れ出せるとすればミックの名が一番早く挙がるはず。しかし、ゲバンからはミックの名前はおろか、ミナジリ共和国の名前すら出なかった。何故ゲバンはミックの名を出さなかったのか……』
「出さなかったのではなく、出したくなかった。一番の狙いは法王の玉座だから」
『……なるほど、ミナジリ共和国への追及をすれば、責任が分散してしまう。だからそれを全て私に向けた訳だ……!』
心なしか、クルスの声が震えたような気がした。
おそらく、身内という存在が、クルスの中で敵に変化したのだろう。言葉の節々からクルスの怒りがにじみ出ている。
「おそらく、クルス殿が私やミナジリ共和国の名を出せない事を逆手にとったのでしょう」
『だろうな。が、これを機にかなりの文官がゲバンに付いたのも事実だ。ホーリーキャッスルの中では既に次の法王はゲバンだという声もある。まだ私が生きているというのに困った話だ』
「本当に困った人ですよね」
そんな俺の言葉を受け、クルスの声はおろか、アイビスの声さえ聞こえなくなった。
『ミ、ミック……?』
若干引き気味に聞こえたクルスの声は、また震えていた。
『ど……どうした? 少し声が怖いのだが?』
今回は怒りではなく、恐怖の色が濃いようだ。
「散々こっちを巻き込んだのに、いざって時に
『ミック?』
「お二人にご相談があるんですけど、聞いてくれます?」
『『いや――』』
◇◆◇ 翌日 ◆◇◆
昨日は二人から拒否られたらどうしようかと思ったけど、納得してくれたようで本当によかった。
で、今日はどこに来ているかと言うと――、
「凄いな、もうここまで切り開いたのか……」
驚きを露わにするサマリア公――ランドルフ。
その隣にはサマリア港の責任者として任じられたサマリア公爵家の嫡男、ラファエロがポカンと口を開けている。
ここはサマリア港。
ミナジリの東にあるシェンドの北にあるマッキリーの北東にあるサマリア公爵領――サマリア港である。
既にダークマーダラー職人部隊によって沿岸部が切り開かれ、土魔法【土塊操作】を使い、埋立地のように整地されている。
その少し離れた場所に【ミナジリ造船所サマリア支部】の事務所を建て、サマリア港への道を整地し、石畳を綺麗に並べる。
「ものの一時間で……新たな港が……?」
頭を抱えるラファエロと、
「まったく、我々とは違う時代の文明を見ているようだな」
呆れながら溜め息を吐くランドルフ。
まぁ時代は
ランドルフは造船所を見ながら他との違いに首を傾げる。
「ふむ? 完全密閉型の
「えぇ、ちょっと特殊な製法なだけに、他者に見せる訳にはいかないんですよ」
「この私にもか?」
「そうですね、わかりやすく言うなら……ナタリーやジェイルさん、リィたんにすら見せられません」
と、そこまで言うと、ランドルフは目を丸くして驚いた。
「ま、まさかミック! 一人で造るつもりかっ!?」
「あれ? 言いませんでしたっけ?」
そう言うと、ポカンと口を開けていたラファエロが
俺はニヤリと笑い、そんなラファエロに言った。
「【魔導艇】はね、俺だけにしか造れないんですよ」
その日から俺は、造船所に籠るようになったのだった。
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