その791 井戸端会議2
コバックが去った後、ナタリーは先程話題に上がった件について聞いてきた。
「それで、ヒミコはリッチの【闇空間】について何か言ってた?」
「やっぱり別枠らしい。試しに、ヒミコの【闇空間】を
「ん~、そうかー……という事は、これ以上リッチや魔人を追い詰める手立てがないって事だよね?」
「まぁ、俺たちじゃここらが限界だろうね」
「俺たち……? あ、古の賢者だねっ!」
「そういう事」
俺はびっとナタリーを指差しそれを肯定した。
「古の賢者が未来から来たとしたら、俺が魔族四天王を三人欠けさせた事で少なからず未来は変わったはず。だから、ここからは古の賢者の知らない世界になる……ってのが俺の結論」
「それでも向こうが動いてくれないとどうしようもないよね?」
「そうなんだよ。一応こちらからアプローチはしてるんだよ」
「どうやって?」
「ゲオルグ王がギルド通信の水晶を持ってたから、毎日愛を囁いてる」
「酷い……」
何か変なものを見るような奇異の視線をナタリーに向けられるが、かなり正攻法だと思うのは俺だけだろうか。
「つまり、盗聴機能を逆手にとって、話しかけてるって事ね」
「他にもビジョンタイプもあったから、その前で求愛のダンスとか踊ってる」
「もうちょっとやりようがあるんじゃない?」
「え、どんな?」
「美味しいもので釣ったり」
ふむ、ビジョンの前で料理動画を見せるってのはありかもしれないな。合間に梅干しとレモンを置いて見せておけば唾液の分泌量もバッチリだ。
「悪くないかもな」
「でしょー?」
「プリシラさんの遺影を見せるのは最終手段にしようと思ってたから、それまでにアクションなかったらそうしてみよう」
「……ミックって、意外に酷いところあるよね」
「いや、最終手段だって! 『お墓に手を合わせに来ませんか?』って招待状送るようなものだし! それにプリシラなら『キミ、やってしまいなさい』とか笑って言うって!」
「う~~ん……確かにそうかも」
よかった、ナタリーも理解してくれたようだ。
お線香作っておこうかしら、などと考えていると、今度はロレッソがやって来た。
ロレッソは俺とナタリーの周囲に音声遮断がかかっている事に気付くと、ピタリと足を止めた。
俺とナタリーが手招きすると、その井戸端会議に宰相が参加した。
膝を抱え、ちょこんと座るロレッソに噴き出しそうになりながらも、俺は用向きを聞いた。
「どうしたの?」
「ゲオルグからの聴取がある程度終わりましたのでご報告を」
「何か気になるような事あった?」
「ゲオルグの隠し財宝の中にギルド水晶があった件については、魔族の商人から購入したとしか」
「おそらくその商人ってのが古の賢者だろうね。魔族の下に逃げたのは誰かの助けがあったの?」
「個人資産を都合したと」
ロレッソのその言い方になんか違和感を感じた俺だったが、ちらりと彼を見るも、それ以上は追及出来なかった。
なるほど、あの顔から察するに、ナタリーには聞かせられない話か。
先程ナタリーに言ったように、魔族に人間の金銭なんて無意味だ。ならば現物を渡すのが正解。魔族が一番喜ぶ手土産といえば……人間、という訳だ。
つまりゲオルグ王は、人間を手土産に魔族に迎え入れられたという訳だ。
「何とも、救いがたい奴だな」
「ゲオルグの処遇はいかがしましょう?」
「
「よろしいのですか?」
「構わないよ、それからリプトゥア国へ移送してあっちの法で裁いてもらうさ」
「リプトゥア国には未だ斬首刑が残っていますが……」
「まだリーガル国の属国だし、ブライアン王が上手くやるでしょ」
「かしこまりました。リプトゥアへの親書と共に義援金を送っておきます。それでゲラルド殿卒業までは持たせられるでしょう」
「ありがとう」
俺が礼を述べると、ロレッソは目を伏せた後、俺とナタリーに一礼して去って行った。
「……ミックって、意外に優しいところあるよね」
「どこかで聞いたような言葉だね」
「ほんの数分前の言葉じゃないかな」
「正反対の言葉だったような気もするけどね」
「それで、その外装はどれだけ造るつもりなの?」
ナタリーの指摘を受け、俺は手元に目をやった。
完全に流れ作業化していたので、俺は所定の数より多い外装を造ってしまっていたのだ。
「あ、やべ」
「
「いや、でも一号機用にとっておけば……まぁ」
「はいはい、そういう事にしておきましょう」
半ば呆れた様子のナタリー。
俺は改めて外装の数を確認しながら仕様書をチェックした。
「お、これで最後じゃん」
「最後って気付かないまま没頭してたの?」
「ははは、単調な仕事だとぼーっと出来るしさ」
「オリハルコンの加工だって事忘れてるなら、ミックは世界中の鍛冶師から怒られても仕方ないと思う」
「実は俺もそう思う」とでも言おうものなら、ナタリーから更に呆れられると思った聡明な俺は、ぎこちない笑みを浮かべながらお口チャックしたのだった。
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