◆その786 大激震1
「「号外! 号外でーす!!」」
宙に舞うクロード新聞。
同時に世界へ轟くミナジリ共和国の偉業。
魔族四天王の内三名が死亡した事が大々的に取り上げられ、ミナジリ共和国では祝いの声や歌が数多くあがっていた。
クロード新聞を片手に肩を組む男たち。
活躍したミケラルドを称え、頬を赤らめる女たち。
各国のミケラルド商店ではクロード新聞が飛ぶように売れ、その情報は瞬く間に国の中枢へと届いた。
◇◆◇ リーガル国 ◆◇◆
「はっはっはっは! ミックがやってくれましたぞ、陛下!」
ニカリと笑うサマリア公爵。
「ランドルフ、はしゃぎ過ぎだ。ふっ、まさか魔族四天王を倒すどころか、魔界に蓋をして凱旋とはな。ドマーク、祝いの品を見繕ってもらいたい」
ブライアン王がドマークに視線を移す。
「かしこまりました、予算はいかほどで?」
「糸目を付けるな。他国もこぞって祝福するだろうな。下卑た話だが、見栄も重要だという事だ」
「はっ!」
◇◆◇ シェルフ ◆◇◆
「……本当にとんでもない御仁だな。まさかあの連絡の翌日に魔界を叩くとは」
クロード新聞を見ながら嬉しそうに顎を揉むローディ族長。
「父上、外に大勢の民が……」
「どういう事だ、ディーン?」
「それがその……メアリィはミケラルド殿に嫁ぐのか、というような内容で」
「はぁ~……誰かはわからぬが、長老から例の件が漏れたか」
「……おそらく」
ローディの言う『例の件』というのは、過去ミケラルドが【聖域】の調査を申し出た時に、シェルフの会議で【テレフォン】越しのメアリィが「ミケラルドさんと結婚し、彼をエルフの縁者にするのはどうか」という提案をした件である。
会議に参加したエルフの長老から漏れた情報、とローディとディーンは疑っているようだが、それは正しくなかった。
誰も口を割らないが、情報の出所はバルト商会なのではないかという噂があるとかないとか。バルトは断ったものの、シェルフの姫の圧力に負け、その情報を流したとか流してないとか。シェルフの姫の行動を諫められなかったクレアが嘆いていたとかいないとか。
◇◆◇ ガンドフ ◆◇◆
「へ、陛下! 呑みすぎですぞ!」
「はっはっはっは! 知った事か! これ程嬉しい事はない! ガンドフ城からでもわかるような巨大な関所! どんな
◇◆◇ 法王国 ホーリーキャッスル ◆◇◆
皇后アイビスとテーブルを挟み座っている法王クルス。
クロード新聞を片手にお茶を口に運ぶクルスが言う。
「……正に電光石火だな」
「城下では救世主との声も多いとか聞くのう」
「聖騎士学校では大騒ぎだろうな」
「なんでも、出発の直前にエメリーやアリスが激励の連絡をしたとか?」
「はははは…………が、問題はこれから、だな」
「そうだのう……ゲバンがどう出るか。オリヴィエの事もある。上手く引き下がってくれる事を祈るしかないかのう」
「愚息の手綱も握れぬとは、我ながら情けないものだ」
溜め息を吐き歯がゆそうなクルス。
アイビスはそんなクルスに質問を投げかけた。
答えの出ない質問を。
「もし……」
「ん?」
「もしゲバンが糾弾された場合、クルスはゲバンを切れるかえ?」
「処分という意味でならばな。だが、その先の事はわからんな」
「妾もそう思う」
「困ったものだな」
「えぇ……本当に」
しんとなるクルスの私室。
それからは、茶が冷めるまでただ沈黙が流れるだけだった。
◇◆◇ 法王国 聖騎士学校 ◆◇◆
聖騎士学校の始業前、講義室はかつてない程の喧噪で賑わっていた。
室内の中央で、ハンとラッツが肩を組む。
「俺らの大将がやってくれたぜっ!」
「「ウォオオオオオオオッ!」」
ハンは冒険者、正規組を盛り上げている。
ラッツは隣のハンが目立つせいもあり、恥ずかしそうにしているものの、その喜びは隠せていない。
「今日は全員で呑むわよ!」
「「呑むぞぉおおおおおおおおおおお!!」」
次に皆を
まるで講義室内で祭りでも起こっているかのような騒ぎの中、ハンは片隅にいる大男に気付く。
「どうしたんだ、ゲラルド? さっきからずーっとクロード新聞覗き込んで?」
「いや、父の事が書いてあって……な」
食い入るようにクロード新聞を見るゲラルドに、ハンは思い出したように言う。
「あぁ、そういや書いてあったな。ミナジリ共和国で捕らえられてるって話じゃねーか。ん? どうしたよ?」
「……ミケラルド殿は、何故父を生かしたまま……」
困惑を露わにするゲラルド。
「あーん? そりゃ生きてた方がいいだろうよ。教え子の父親なんだから。ま、血は吸われてるかもしれねぇけどな」
「しかしあの方は『生死をどうこう言ってられる状況ではなくなった』と」
「運よく生きてたって事じゃねーの? まぁ、そういうのはミナジリ共和国に直接行って、聞いて言って考えるこった」
ゲラルドはハンに背中をぽんと叩かれ、えも言われぬ感情にもどかしさを感じつつも、そのもどかしさにどこか心地よさを感じるのだった。
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