◆その785 立地条件
「ふぅ……」
兜を外し、一息漏らす女――剣聖レミリア。
そこへやって来る竜騎士――ドゥムガ。
レミリアがドゥムガの気配を感じ取り振り向く。
「どうした、持ち場から離れていいなんて言ってないぞ」
毅然と対応するレミリアだったが、ドゥムガは鼻息荒くそれを受け入れる様子はなかった。
「ふん、魔界から逃げて来た魔族は雑魚ばかり。正直、こんな任務だとは思わなかったぜ」
「何だ、自分が魔族四天王の前に立てると思っていたのか?」
「おぉよ、既に一回立った身だしな」
「魔族四天王か……魔界のリプトゥア侵攻でドゥムガが戦ったのは、あの吸血公爵スパニッシュ――ミケラルド様の父上、か」
「はっ、あの野郎を父なんて言われるとガキも大変だろうよ」
「確かに、魔族四天王を父に持ち、尚人間界で元首をやるならば、さぞかし苦労が多いだろうな」
レミリアは整列する竜騎士たちに振り返った。
「魔族、剣奴、闇人、それだけではない。多くの志願兵が竜騎士団に入った。それらをまとめ、尚且つ各国とのパイプを維持……か。なんとも恐れ多い方だな」
「あのガキを誰かと比べる方が間違ってるぜ。法王なんかより忙しいくせにいっつもニコニコしてやがる。本当に気味の悪いガキだぜ……!」
悪態こそ吐くものの、ドゥムガが言ってるソレはミケラルドへの褒め言葉にしか聞こえなかったレミリアは、くすりと笑ってしまう。
「あぁ!? 何笑ってやがるんだてめぇっ?」
「別に……ん?」
「どうした?」
「ミケラルド様から【テレパシー】だ」
「ど、どうなったんだ!?」
「待て………………なるほど」
一人得心した様子のレミリアに苛立ちを覚えたのか、ドゥムガはその正面に回り込んで肉薄した。
「おいてめぇ! はきはき答えろやぼけぇ!」
「いや、待て……私も今混乱しているんだ」
「あぁ!? 混乱だぁ!?」
「まず、吸血公爵スパニッシュだが……」
「おぉ!」
嬉しそうに続きを期待するドゥムガ。
その後ろには聞き耳を立てる竜騎士団たち。
「首が弾け飛んで誰だかわからない状況らしい……?」
「何でてめぇが首を傾げてんだよっ!?」
「いや、しかし……魔族四天王の顔が弾け飛ぶって……何だ?」
「た、確かにそうかもしれねぇな。そうだ、他の奴はどうなってんだよ」
「魔女ラティーファが……雨になった……とか?」
「はぁ!?」
今度はドゥムガが首を傾げる。
「ミケラルド様の最強攻撃、ミック弾が着弾。それと共に血の雨になったとかならないとか」
「何だミック弾って……」
「私が知る訳ないだろう!」
「何キレてんだよ!?」
「
「おぉ!」
「だが、それもリィたん殿の渾身の一撃をジェイル団長が精一杯止めたから原型を留めているとかなんとか……」
「ジェイルの野郎、リィたんの攻撃を止めたのか……?」
「左腕とあばらが折れただけで済んだらしい」
「……何も済んでねぇじゃねぇか」
「まぁそれも完治して、今は【魔剣ジェラルド】を磨いて嬉しそうにしているそうだ」
「あれが完成した時は本当にヤバかったぜ。あの野郎、俺で試し斬りしようとしやがった……」
「確かに……あの時のジェイル団長は私でも恐怖を覚えた程だ……」
ずんと恐怖の思い出がフラッシュバックする二人。
話を切り替えるようにドゥムガが聞く。
「リッチと魔人は?」
「【闇空間】へ逃亡したらしい」
「あぁ? それじゃ出て来られねぇじゃねぇか?」
「ミケラルド様も『つまりそういう事なんでしょうね』と仰っていた」
「どういうこった?」
「魔王復活まで出て来るつもりがないんじゃないか? という結論らしい」
「おいおい、それじゃ今この魔界にゃ魔界四天王は存在しねぇって事か?」
「そのようだ」
「そんじゃこれで終わりってか? 俺様はまだ何もしてねぇぞ!?」
「私だって同じだ。しかし、あの方々の次元でモノを語れない実力だという事も理解しているつもりだ」
頭を掻いて溜め息を吐くドゥムガ。
「かぁ~、張り切って来て損したぜ」
「それに、我々竜騎士団の任務はまだ終わっていない」
「はぁ? どういうこった?」
「吸血公爵スパニッシュの屋敷からこの嘆きの渓谷に、ミナジリ共和国の街を造るそうだ」
「お……おい、それって……」
「つまり、魔族が人間界に流れて来ないように蓋をしてしまうそうだ」
「とんでもねぇ作戦だな」
「現在、ナタリー様がミナジリ共和国に戻ってダークマーダラーの職人集団を手配しているらしい。我々はこのまま北上し、スパニッシュ邸を確保。同時に哨戒任務に当たる」
ガシンと両の拳をぶつけるドゥムガ。
「いいじゃねぇか。スパニッシュの玉座に小便ぶっかけてやる」
「尚、ドゥムガは別部隊を率いて嘆きの渓谷を死守」
「はぁ!?」
「ここにも関所を造るそうだ。最高の立地条件だからな」
「クソがぁああああ!!」
怒るドゥムガだったが、次にレミリアから出た言葉に耳を疑う。
「ミケラルド様からお前に伝言だ」
「あ?」
「『嘆きの渓谷に取り残された恨みはこれで帳消しにしてやる』だそうだが、どういう事だ?」
小首を傾げるレミリアだったが、ドゥムガはあんぐりと口を開ける以外の反応は見せないのだった。
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