◆その784 不完全燃焼
「クソッ!!」
苛立ちを大地に向けたミケラルド。
地割れが起き、ビクリと反応するゲオルグ。
ミケラルドは髪をかき上げ、「あー、くそ」と呟いた後、じっとゲオルグを見た。
一歩、また一歩と詰め寄るも、ゲオルグはへたり込んでしまい、その場で微動だに出来なかった。
ただ圧倒的強者が、弱者を見ただけ。
正に蛇に睨まれた蛙。
ミケラルドは人差し指の爪をスーッと伸ばし、ゲオルグの頬に突き立てる。
「ぁ……」
悲鳴のような声が漏れるも、ゲオルグの意識はそこで絶たれてしまった。
◇◆◇ 南西 ◆◇◆
不死王リッチと同等の身体能力を得たレイスやアークレイスを、その絶対的な魔力を伴った雷撃により吹き飛ばしていた
浮遊しながら最奥にいるリッチは、同胞であるはずのレイスやアークレイスが倒されているにもかかわらず、不気味にシュリを見るばかり。
(不可解だ。これだけの戦力があったとしても我に勝てないのは明白。逃げる訳でもなく、ただレイスやアークレイスの死を待っているようにしか見えぬ……これは一体?)
事実、周囲全てを巻き込んだとしてもシュリはそれらを屠れるだけの実力があった。
ナタリーやジェイルやリィたんが、闇雲にシュリをここへ配した訳ではない。リッチに逃げられないだけの勝算があったのだ。
群がるレイスを殺し、突撃するアークレイスを倒し、遂には最後の一体となる。
シュリが最後の一体を雷撃により焦がすも、リッチの態度が変わる事はなかった。
「一体、何を考えている?」
リッチが喋る事はない。
シュリは対話を諦め、リッチに
しかし、そこでも異変が起こった。
リッチが発動したのは、魔人と同じ【闇空間】。
闇に潜るように消えて行くリッチを見て、シュリが最速の雷撃を放つも間に合わなかった。
「ちぃ! 我とした事が……!」
◇◆◇ ◆◇◆
ミケラルドが血を得た後、【呪縛】によってゲオルグは白目を剥きながらその場に棒立ちしていた。
そんな中、シュリからの【テレフォン】が入る。
『すまん、リッチを取り逃がした』
「……【闇空間】ですか」
『そちらもか?』
「えぇ、ラティーファは仕留め、ゲオルグは身柄を押さえましたけど、魔人には【闇空間】を使って逃げられました」
『レオの方はどうなってる?』
「今しがたリィたんとジェイルさんと合流しました。目の前でレオの首を担いでニコニコ笑ってるのがリィたんだと思います。怖いですけど」
『首如きで何を怖じ気づいてるんだお前は?』
「とりあえず状況を確認したいので一度集合しましょうか」
『わかった』
その後、ミックバスに集まったミケラルド、リィたん、ジェイル、シュリ、そしてナタリーの五人。
監視システムの前に顔を突き合わせた彼らは、ミケラルドの話、そしてシュリの話を聞き、出ない回答に行き詰まっていた。
腕を組んでいたミケラルドは、話を整理すべく、今一度シュリの話に耳を傾けた。
「レイスたちが全滅するまでリッチが逃げなかったってのが気になります。シュリの実力を考えれば、レイスたちがシュリと戦ってる間に逃げた方が合理的でしょう?」
その言葉を受け、シュリが頷く。
「我もそう思っていた。奴はまるでレイスたちの死を確認してから逃げるつもりだったかのようにすら感じる」
「ふむ……という事は……」
ミケラルドがそう零すと、ナタリーが小首を傾げる。
「何かわかったの?」
「【闇空間】を覚えている魔族の消去……かな」
それを聞いた瞬間、ナタリーが肩を震わせた。
「そ、それってもしかして……魔人やリッチが使ってる【闇空間】を、レイスたちが使えたからって事?」
「まぁそう考えるのが普通だよね。レイスたちの【闇空間】が万が一にでもミナジリ側に漏れれば、俺たちはリッチと魔人を追い詰める事が出来るんだから。つまり、追っ手を
ミケラルドが言うと、シュリは歯をギリと鳴らした。
歯がゆそうなシュリを見て、リィたんがぽんと肩を叩く。
ニヤリとレオの首を見せながら。
「くっ! 自分が魔族四天王の首をとったからって偉ぶるな!」
「はははははは! これが実力というものだ!」
鼻高々に嬉しそうな表情をするリィたんに、ミケラルドがたははと苦笑を漏らす。
パンパンと手を叩き、二人をいさめるナタリーが言う。
「はいはい、喧嘩なら外でやってね」
「「ふんっ!」」
「でも、結果的には大勝利でしょう? スパニッシュ、レオ、ラティーファの三名を倒し、人類の敵ゲオルグは捕縛。残るは不死王リッチと魔人だけだけど、あの二人が【闇空間】に閉じこもったとしたら、同じ【闇空間】を使えるヤツを探すしかないって事……かな?」
ナタリーの言葉に頷くミケラルドとジェイル。
すると、ジェイルが思い出したように言う。
「そうだ、【ヒミコ】に聞いてみてはどうだ? アイツはリッチの右腕だったろう」
言うと、ナタリーとミケラルドが顔を見合わせ、同時にジェイルに肉薄した。
「「おぉ!!」」
「顔が近い」と困るジェイルだったが、まんざらでもない様子なのは、リィたんとシュリにバレバレなのだった。
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