◆その783 はじめてのまかいしんこう6
初手、ミケラルドは大地に向かって拳を振り下ろした。
「ハッ!」
大地が爆ぜ、散弾銃のように岩が飛び散る。
ラティーファは魔力障壁でそれを防ぎ、魔人は戦意喪失しているゲオルグの剣を奪ってこれに応戦した。
「はい、よ、ほっ!」
次に放ったのは、水魔法で作り出した二つの【水球】。
極めて重厚な魔力で固められたソレを中空へと放り投げる。
「アタック!」
バレーボールの如く【水球】でサーブをきめると、一瞬でそれはラティーファの魔力障壁を破壊した。
その威力に驚く間もなく、二球目がラティーファを襲う。
これを防ぐように動いた魔人。
剣で受けよにも、それはこれまで使っていた勇者の剣(仮)ではない。ゲオルグが使っていた、ミスリル製の剣だった。
どれだけの名匠がつくろうとも、ミスリルの剣でミケラルドの【水球】が防げる訳ではない。
「ぐぉ!?」
魔人は剣の破壊と同時に吹き飛ばされてしまう。
「魔人の正体も気になるところなんですが、こればかりは血をテイスティングしないとわからないので……」
言いながらミケラルドが未だ吹き飛んでいる魔人に追いつく。
「くっ、おのれ!」
「せーのぉ!」
拳を振り上げ、魔人に振り下ろす。
大地を砕き、めり込む程の威力。
しかし、その威力は上手く流されていた。
「上手いですね。大地に触れた瞬間に【
ミケラルドがそう言うと、ラティーファの隣の地面から魔人飛び出て来る。だが、魔人が見た先にミケラルドの姿はなかった。
ゾクリという悪寒と共に眼下を見下ろす魔人。そこにいたのは、既に拳を振り上げようとしているミケラルドだった。
(馬鹿な、速いっ!?)
相手は魔人と魔女ラティーファ。
ミケラルドといえども手を抜く事は出来ない。
些細な油断が両者を取り逃がすという結果を恐れたのだ。
【覚醒】、【解放】、【身体能力超強化】、【
ミケラルドはただ仕事の如く淡々と魔人を追い詰めた。
叩き落とす事で魔人に【
大空で豆粒程の大きさにしか見えない魔人。ミケラルドの息もつかせぬ猛攻により、魔人は一気に追い詰められた。
「【フレアボム】!」
ラティーファの援護も、ミケラルドを振り向かせる事すら出来ない。
「く、ならば【
魔女と謳われる無数の魔法は全て魔力障壁に掻き消される。
極大の氷の塊も、十方を囲む闇の雷も、ミケラルドに傷一つ付けられないでいた。
ミケラルドは上空を見つめ、かつて
「避け切れない……か」
魔人は観念した様子で、ミケラルドも魔人への最後の一撃だと思っていた。
(よし、気を失った魔人の血を吸って、ラティーファに
安全
魔人という現魔界の最大の癌を倒す事が出来れば、この魔界侵攻作戦の半分は成功だとすら言える。
「なっ!?」
――だが、
ミケラルドは
衝撃の出来事がミケラルド、魔人、ラティーファ、ゲオルグの目に映し出される。
空へ打ちあがったはずの魔人、何とかミケラルドにダメージを与えようと魔法を放っていたラティーファ、その二人の位置がいきなり入れ替わったのだ。
「嘘よ……」
上空へ転移したかのようなラティーファの最後の言葉。
眼前に迫るミック弾、直撃と共に響き渡る断末魔。
ラティーファの身体は空に霧散し、ただ血の雨だけが大地に降り注いだ。
「何を……したんだ……?」
ゲオルグがそう零すも、ミケラルドは答えられなかった。
「……それはこちらの台詞ですよ」
言いながらミケラルドが魔人を見る。
「【位置交換】なんて魔法、私は持ってないんですよ。貴方も驚いているようですけど、どうも別の意味で驚いていらっしゃるようですね、魔人さん」
ミケラルドがそう言うと、ゲオルグは魔人の背中を見る。
だが、魔人は何も答えなかった。
直後、ミケラルドはまたも驚きを見せた。
「っ! 魔法っ!?」
魔人はこれまで剣や拳などの体術を使って戦っていた。
しかし、その魔人が手元に魔力を溜めたのだ。
ミケラルドは攻撃を
リスクを回避するミケラルドの性格が災いしたのか、魔人が
警戒したミケラルドの前で発動した魔人の魔法は、またもミケラルドを驚かせた。
魔人の手元に見える闇のオーラ。
(闇魔法……? だがあんな魔力じゃ――)
その瞬間だった。
魔人は何も言わず、ただニヤリと笑ってからその魔法を発動したのだった。
「あれは……クソッ!」
その魔法がわかりミケラルドが慌てて駆け出すも、魔人の魔法発動の方が早かった。
ミケラルドが最速の魔力砲を放つも、それが魔人に当たる事はなかった。
闇魔法【闇空間】。
魔人は【闇空間】の中に飛び込んだのだ。
ラティーファ屋敷跡に残ったのは、茫然とするゲオルグと、悔しそうに肩を震わせるミケラルドのみだった。
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