◆その782 はじめてのまかいしんこう5

 ミケラルドの迫力に呑まれた三人。

 ゲオルグはその膨大な魔力をあてられ、既に戦意を喪失し、膝を突いていた。


「いいですね、そういう潔いのは好感が持てます。ゲオルグあなたには聞きたい事もあったので、ちょっとそこで大人しくしておいてください」


 魔人から勇者の剣(仮)をポイと投げ、【闇空間】に入れるミケラルド。


「さっきから私が喋ってばかりで申し訳ないんですけど、質問させてください」


 言いながらミケラルドが見据えるのはラティーファだった。


「まずはラティーファさん、【混沌の秩序、、、、、】というのは一体?」


 それは、闇ギルドの中核組織【ときの番人】――ナガレの血を吸った時、ナガレ自身から聞いた闇ギルドが掲げる指針。

 その後、闇ギルドはミケラルドの手によって崩壊こそしたが、その目的についてはついぞ判明する事はなかった。

 魔女ラティーファはときの番人のトップに立っていた人物【エレノア】の正体。

 ミケラルドが闇ギルドの目的を聞くのは当然の事と言えた。


「私がそれを喋るとお思いですか?」


 だが、ラティーファがそれに答える事はない。


「命をベットした交渉のカードとしても教えられないと?」


 殺意溢れるミケラルドの圧に顔を歪めるも、ラティーファがそれを答える事はなかった。


「……まぁ構いません。これはある程度推察できる事ですから」

「っ!」


 目に驚きを見せるラティーファにミケラルドが続ける。


「だってそうでしょう? 闇ギルドが行っていた事は権力、財力、武力、才力、知力、あらゆる人間力の間引き、、、、、、、ですよ?」

「…………」


 歯をギリと鳴らすラティーファ。


「たとえばそうですね、知力を持った者と武力を持った者が合わさった時、人間は思いもしない力を発揮します。これは魔族にとって大きな脅威です。ならばどうするか。両者を引き合わせなければいい。歴史に名を残す偉人、傑人を芽の段階で摘む事で、世界の成長を止める存在。それが闇ギルドの掲げる【混沌の秩序】。そう考えれば後は簡単です。都合の良い存在、利害の一致する存在と結託し、人間による人間の統括が可能。だが、その大きな利はどこに? 大元を辿れば辿る程、面白い事に魔界に流れてるんですよね、これ。なるほど、【ときの番人】ね。進むはずの刻、、、、、、、これを動かさぬよう、、、、、、番人が必要だった、、、、、、、、と」


 次第に魔人の目が変わっていく。

 それは、恐怖でも畏怖でもない。ただただ殺意に染まっていくのだ。


「これを紐解いていくと、面白い仮説が成り立ちます。まぁ、そんな怖い目をせずに聞いてくださいよ。途方もなく長い時間を掛け、執念とさえ言える程の幻想の如き夢物語。ですが、この計画は本当に堅実且つ恐ろしいものなんじゃないか。私はそう思いました」


 ミケラルドが語る、魔族四天王の大きな狙い。


「あなたたち、霊龍が組み立てた世界のことわりを破るつもりですね?」

「「っ!?」」


 目を見開くラティーファと魔人。

 そこで蚊帳の外にいたゲオルグが言う。


「……どういう事だ?」

「魔界側から質問が入っちゃったのでお答えします。龍族の長――霊龍。彼女は世界のバランスを保つため、魔王と対なる存在、すなわち勇者を創った。まぁ、才ある人間に天恵を与える事によって、魔王に対抗する力を用意した……というべきでしょうか。魔王の誕生、そして討伐は過去何度も行われてきた。しかし、魔王はこれを快く思いません。しかし、世界の管理者、霊龍の力は魔王を凌ぐものです。ならばどうするか? 簡単な話、霊龍よりも強い力を得ればいいんですよ。けれど、それは言葉程簡単なものではない。途方もなく長い時間が必要でしょう。魔王がアーティファクトを遺物レリックにし、魔族四天王に遺したのも頷けます。その時点で魔王は王手をかけていた。後は勇者と聖女の覚醒を遅らせるだけ。魔王の力は溜められ、誕生と共に、勇者という霊龍の手駒は消失。過酷な環境下にある魔界から魔族は溢れ出す事でしょう。世界は人間のものではなく、魔王の、魔族のものとなる……」


 揚々と説明し、しかし深刻に、やがて俯きそう言ったミケラルドは、大きく深い溜め息を吐いた。


「と、これが私の推察なんですけど……」


 言いながらラティーファと魔人を見る。


「ははは、あたらずといえども遠からずといったところでしょうか? お二人とも、本当に良い顔をしてらっしゃいますよ。魔人さんは特に」


 魔人の身体から噴き出る尋常じゃない魔力。


「噛みついてでも私を殺そうするその殺気。真実を知ってしまった者への口封じってところですか? そういうサスペンス要素は求めてないんですけどね」


 やれやれと肩をすくめるミケラルドが、ゆっくりと腰を落とす。

 そして、魔人の殺気も魔力も、その存在全てを吹き飛ばすかのように、ミケラルドは全身にまとっていた魔力を解放した。


「長いようで短い付き合いですが、嫌って程俺の性格をご存知でしょう? 俺って、基本的に負ける戦いはしないんですよ」


 そう言い放ったミケラルドは、これまでの笑みすらも消し、ただただ冷静な表情でポーズをとった。


「変身っ!」


 真剣に、精一杯ふざけるミケラルドの姿が……人間から魔族へと変わる。

 黒銀の髪、深紅の瞳と青白い肌。

 そこには、世界最強の――作業着を着た吸血鬼が立っていたのだった。

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