その762 ヤツを探して東奔西走2

 アスランが気絶した後が大変だった。

 異変に気付いたラジーンが駆けつけ、どこから情報を得たのかわからないナタリーがいつの間にか……いた。

 彼女はいつの間に現れたのだろうか。

 一瞬ジャパニーズホラーでも観ているかのようにナタリーを見てしまった俺を誰が責められよう。

 しかしナタリーは――、


「いいミック!? 暗部は今オリハルコンの呪縛で詰めてるんだから、余計な希望を持たせないでっ!」


 キッチリ責められてしまった。

 詰めてるって何ですかね? 私の知らない言語か何かだろうか?

 そんな一悶着のようでそうでないような時間が過ぎ、俺とリィたん、そして雷龍シュリ地龍テルースの下へ向かった。ワンリルはアスランが心配だったのだろう。看病を申し出ていた。


「あら?」


 俺たちの接近に気付いたテルースは、小首を傾げながらそう零した。突然の来訪だったが、テルースは俺たちを嬉しそうに招いてくれた。

 それから俺は、アスランを失神に追い込んだ事だけをはぶき、テルースにはるばる西の【イシス山脈】までやって来た理由を説明した。


「オリハルコン……ですか」

「えぇ、ちょっと必要なんですよ」

「ふふふふ、国がかりでダンジョン産のオリハルコンを集めて足りないのなら、それはもうちょっとではありませんよ」

「あれ? ご存知でした?」

木龍クリューから聞きました。しかし残念ながら私もオリハルコン鉱山の存在は存じ上げません」


 テルースが申し訳なさそうに言うと、俺はリィたん、雷龍シュリと顔を見合わせ、諦めるようにすんと鼻息を吐いた。

 しかしその直後、俺はバッと立ち上がった。


「ど、どうしたミック?」


 リィたんが少し驚くも、雷龍シュリの反応を見て俺が立ち上がった意味を知った。


「おいおい、まさか木龍クリューまで来るのか?」


 リィたんがテルースに言う。

 すると、テルースはくすりと笑って言った。


「違うわ。木龍クリューを呼んだところにあなたたちが来たの」


 なるほど、木龍クリューとは事前に会う約束をしてたのか。何か、最近龍族がぽんぽん出かけてる気がするけど、世の中一体どうなってるんだ?

 …………何て零したら、きっと皆は俺のせいだと言いそうなので、賢い俺は黙る事にした。

 やがて俺たちの前に顔を見せた木龍クリューが言う。


「何だ、炎龍ロイスでもからかうのか?」


 第一声がそれとは、龍族のモラルはどうなっているのだろう。

 まぁ、彼女たちは人間のモラルで測れないけどな。


「実は炎龍ロイスを立派な淑女レディーにするため相談を」

「冗談はいい。オリハルコンの事だろう?」


 ほら、木龍クリューの冗談にのっかる事も出来ない。

 木龍クリューは、ミナジリ共和国がオリハルコンを集めていた事を知ってたし、このタイミングで俺たちがここにいたら、鉱石に詳しそうな地龍テルースを頼ったとバラしているようなものだ。


「知ってるか?」


 雷龍シュリの言葉に木龍クリューは何も答えない。答えを渋っているようにも見えるが――、


「……存在する事は知っている」


 意外にも、木龍クリューの答えは俺たちに光明をもたらした。


「が、どこにあるかは知らない。霊龍が管理してるのだと思うが……ミックはそう思ってないのだろう?」

「えぇ」

「その理由がわからなくてな」


 あぁ、答えを渋ってたんじゃなくてそこに疑問があったのか。


木龍クリューがよく仰ってるじゃないですか?」

「何?」

「『霊龍は人間界に干渉しない』って」

「…………ふむ、確かにその通り……だな」

「まぁそういう事で、干渉はしないけどわかりにくい場所にオリハルコン鉱山があるというのが私の見解です……って、マジかおい」


 南東の空を見上げてながらまた立ち上がると、皆そちらに意識を集中させた。


「あらあら」


 テルースがくすりと笑い、


「むぅ、ミックには困ったものだな」


 リィたんが嬉しそうに呆れ、


「シェルフに行く前以来……か」


 雷龍シュリが苦笑し、


「異質な存在が呼び込んだな……」


 木龍クリューは俺をじっと見た。

 なるほど、彼女が来るなら異質な存在は俺という事になる。

 南東とは法王国。法王国に住む彼女たちの知り合いとは、先ほどまで木龍クリューが話題に出していた存在だった。


「おい炎龍ロイス! 一体何なんだよ、いきなり飛び出しやがって!」


 怒れる剣鬼付きである。

 剣神は来てないみたいだな。


「私だけ仲間外れは嫌なのだ! 鬼っ子は爺と一緒にお茶でも飲んでるといいのだ!」

「そういう訳にもいかねぇんだよ! その図体で飛び回って誰が言い訳するんだよ!!」


 オベイルのヤツ……苦労してるんだな。

 炎龍ロイスが徐々に降下してくると、その姿は人間のソレへと変化する。が、オベイルは降りない。

 すっぽんぽんでこちらに走ってくる炎龍ロイスと、その肩に直立不動のオベイル。

 あの二人、身体張る系の芸人にでもなったのだろうか?

 そう思いながら、俺は【闇空間】から炎龍ロイスサイズの服を取り出した。まるで闘牛のマタドールのように。

 服に突っ込むと同時、オベイルは炎龍ロイスから降りた。炎龍ロイスはわちゃわちゃしながら慌ただしく着替えた。


「よぉ、ミック。何だ、世界でも滅ぼすのか? 手伝うぜ?」


 相変わらず本気なのか冗談なのかわからない人だな。


「何で皆集まってるのだ?!」


 ワクワクしながら聞く炎龍ロイスだったが、他の四龍は困り顔を浮かべていた。まぁ、炎龍ロイスが知ってる訳もないしなぁ。

 そう思うも、純粋な瞳で聞く炎龍ロイスを仲間外れにする訳にもいかない。念のためという事で、俺はオリハルコンの事を聞いてみた。


「ダンジョン産だけで足りないって、どれだけ使うつもりだよ……?」


 呆れるオベイルだったが、


「オリハルコン鉱山かー」


 どうやら炎龍ロードディザスターも知らないようだ。


「知ってるのだ!!」


 しかし、幼女は全てを兼ねるらしい。

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