その761 ヤツを探して東奔西走1

「オリハルコン? ダンジョン産じゃないって事でしょうか?」


 首を傾げる巨大な狼フェンリルワンリル君。

 車座に座り、雷龍シュリ、リィたんと共に意見をかわす俺は、現在オリハルコン大量ゲット作戦の前段階にあった。


「そうそう、【魔導艇】の外装は基本的にオリハルコンにする予定だから、大量に欲しいんだよね。オリハルコンの噂って聞いた事ない?」

雷龍シュリ殿は聞いた事がおありか?」

「いや、ないな。そもそもオリハルコンはダンジョンでしか得られぬ鉱石だと思っていた」


 そう聞くも、雷龍シュリフェンリルワンリルは答えを出せなかった。

 すると、リィたんが言った。


「魔界でもオリハルコンの武具を持った者はいなかった。人間界でもないとすると……一体どこにあるんだ?」


 小首を傾げるリィたんに俺は言う。


「うーん、絶対に霊龍がどこかから調達してダンジョンに分配してると思うんだけどなー。わかった。餅は餅屋って事で――」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 俺の行動が気になるのか、三人は俺の後に続き、暗部の訓練場にやって来た。そこにいたノエルが顔をヒクつかせる。


「ん? どうしたの、ノエル?」

「いえ、ミケラルド様、雷龍シュリ殿、リィたん殿、フェンリルワンリル殿がおられてどうもしない方がおかしいかと」


 確かにその通りでした。

 この四人で法王国を散歩するかのように歩けば、法王クルスといえども完全降伏するかもしれない。まぁ、絶対にやらないんだけどな。

 そんな異様とも見える四人の集団に近付ける者なんて、ごく少数である。

 とりわけ、地龍テルースの仔龍【アスラン】は尻尾を振って俺のところまでやって来る。


「ミケラルド様!」

「やぁアスラン、調子はどう?」

「はい、先日、あのにっくきカンザスを倒しました!」


 目の端に映るカンザスを見ると、いつものクールな表情はなく、アスランに敵対心を向けるように睨んでいる。

 かつて闇ギルドに所属していた時、アスランを捕えたのはカンザスだからなぁ。負けたのが余程悔しいのだろう。

 そこそこ大きな御身体をされていらっしゃるアスラン君だが、実は人化が出来ないのだ。

 本当ならば人化出来ればいいのだが、龍族が人化出来るのは、正当な龍族のみということわりがあるそうな。

 つまり、地龍テルースが死なない限り、アスランはその力を得る事が出来ないという訳だ。


「ふん、ならばそろそろ私と戦うか?」

「いえ、ワンリルさんと戦うのはまだ早いかと! でもそれ程お待たせはしないつもりです!」

「ふっ、精進するんだな」


 と、ちょっと上から目線のワンリルだが、人化出来ないという境遇が同じという事から悪い関係ではないそうだ。

 まぁ、パーシバルが得意気に言ってた事だからどこまで信用していいのかわからないけどな。


「して、今回はどのようなご用件でしょう?」


 アスランが目を輝かせ言う。

 どうやら、彼女の中で俺は命の恩人、龍族の恩人というカテゴリらしく、母親テルースによると霊龍並みに崇めているとか。

 俺が今回の用件を伝えようとするも、リィたんが一歩前に出た。


「オリハルコンの鉱山は実在するのか?」


 そのリィたんの言葉に、アスランどころか暗部の全員が唖然としていた。

 何故なら、暗部の皆はラジーンやナタリーに尻を叩かれ、レミリア筆頭のオリハルコン稼ぎ隊の一員なのだ。

 つまり、彼らは今、毎日のようにダンジョン産のオリハルコンんをゲットしてはミナジリ共和国に貢ぐというパシリみたいな行為をさせられているのだ。

 リィたんのアスランへの質問は、暗部にとって僥倖になり得る質問だったのだ。

 だからこそ……なのだろう。いち早くナガレがアスランに肉薄した。


「さっさとその岩みたいな口を開きな!」


 暗部の中では良識的なサブロウまでもが、


「最近オリハルコンを集めていて思うんだがの? オリハルコンが出なかった時のナタリー様の崩れるご尊顔は、絶対に見たくないんじゃ」

「ひ、ひひひ……死、死にたくないんじゃ……」


 爺仲間のメディックにも、ナタリーの怒りは深く染みわたっているようだ。


「アスラン君、キミが最強だよ」


 白い歯を輝かせるカンザス。

 お前、さっきまでアスラン睨んでなかったか?


「ノルマ……ノルマ怖い……」


 ノエルが精神的に病んでいる件。

 あの震える肩を抱いてやるのは、一体どこの国の白馬の王子様だろうか。


「アスラン、僕のおやつをあげたって構わない! 今すぐ口を割るんだ! その口、物理的に割ってやるぞっ!」


 パーシバルも若い内の苦労を買っててでもしているようだ。

 買収も嗜むとは成長したなぁ。


「ダメですよパーシバル君。せめて三日分のおやつで交渉しなくては」

「そっか、そうだよなホネスティ! おいアスラン! 三日分だ!」


 ホネスティは自分の身銭を切らずに動くのが本当に上手いし、パーシバルは本当にチョロい。

 皆に肉薄されるアスランは、大人の怖さを視線という名の圧力で体感していた。

 ビクビクと震えるアスランに、俺はようやく口を開いた。


「あるなら是非教えて欲しいんだけど、知ってる?」


 そんなミックスマイルがよかったのか、よくなかったのか。

 アスランは白目を剥きながら震え、答えてくれた。


「は、母上なら……ななな何か……知っているかもしれません……」


 倒れ、失神するアスランを、俺は目を丸くして見る事しか出来なかった。

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