その758 魔界包囲網

「えーっと、これで三つのミスリル鉱山は廃坑だな」


 俺はメモを取りながら呟く。

 すると、ナタリーが疑問を顔に浮かべ俺に聞く。


「ねぇ、ミック?」

「ん? どしたの?」

「何でミスリル鉱山ばかり狙うの? 確かシェルフのSSSトリプルダンジョンにミスリルの資源が沢山あるって言ってたよね? あっちから取って来た方が効率的なんじゃない?」

「勿論そうだよ」

「じゃあどうして?」


 純粋な疑問なのだろう。

 ナタリーはことりを小首を傾げて聞く。

 こういう時のナタリーはとても愛らしく可愛い。


「まず、相手の資源を取る事の方が先決だからだよ。後回しにすればする程、相手は資源を集めちゃうだろ? 対してシェルフのSSSトリプルダンジョンは、現状SSSトリプルのパーティを組まないと入れない。つまり、今はまだ入れない。調査の時にがっぽし取ったけど、霊龍も対策してきそうだしね……」

「してきそうなの?」

「霊龍とはいえ、ミスリルを無尽蔵に用意出来るとは思えないんだよ。無から創造出来るんだとしたら最強だけど、どうもそうじゃないような気もする」

「ふ~ん……そっか」

「他に気になる事は?」

「この後はどうするの?」

「魔人の奴が鬼の形相で俺たちの事を捜し回ってるからねぇ……さてどうしたもんか」


 そう零すと同時、ミックバスの扉が開いた。


「戻ったぞ」


 帰って来たのはジェイル師匠。


「「おかえりなさーい」」

「【オリンダル高山】、【ワイバーンの巣】、【嘆きの渓谷】、【デモンズツリー】、【スパニッシュの屋敷】付近に【ビジョン】を設置してきた」

「ありがとうございます」


 言いながら五カ所とリンクする【ビジョン】を起動させた。

 五カ所に設置はしたが、一カ所毎の【ビジョン】の数は非常に多い。

 ワイバーンの巣だけにしても、遠目から、更には巣から街道を、デモンズツリー側やオリンダル高山側といたるところに接地されてるのだ。


「わぁ……これ、向こうからは見えてないんでしょ?」


 壁の一面を使いそこに様々な映像が映る。

 さながらここは指令室といったところか。


「もち。ちゃんとカメラ側の設定をしてるし」


 ナタリーにブイサインを送ると、ミックバスの外側の映像に影が走った。リィたんのご帰還だな。


「おかえりリィたん」


 ミックバスの扉が開く。


「む、気付いたか」

「【ビジョン】にちゃんと映ってたよ」

「そうか。リッチ、レオ、ラティーファの住処に設置完了だ」

「ありがとう」


 言いながらそれらの【ビジョン】を起動する。

 これを見て、リィたんが嬉しそうに顔を綻ばせる。


「ふふふ、いいな。頑張った甲斐がある」


 自分の動きが結果として表れているのが嬉しいのだろう。

 俺はそんなリィたんがとても好印象です。


「しかしこれは……凄いな」


 腕を組んだジェイルが無数の【ビジョン】を見て唸るように言う。

 それに同調するようにリィたんが頷く。


「私も【ビジョン】にこのような使い方があるとは思わなかった。これでミナジリ共和国は、魔界を完全に包囲したと言っても過言ではない。正に千里眼の成せる業だなっ」


 弾ませた声でリィたんが言う。

 すると、ナタリーがスパニッシュの屋敷のビジョンを指差した。


「あ、スパニッシュだ」

「西に向かったね。この方角だとまたリッチのところかな」


 次にジェイルがレオの棲家を指差した。


「どうやらレオの下に元ゲオルグ王はいるようだな」


 そこにはレオの後ろで付き従うゲオルグの姿があった。


「ラティーファも出て来たな」


 リィたんも既にこの【ビジョン】を有効に使えているようだ。


「ミック、これはやはり故郷でも使われていたのか?」

「そうだよ。場所によっては個人の家の出入り口に、防犯用として置かれてた」

「そこまで危険なのか、ミックの故郷はっ?」


 驚きを露わにするリィたんだったが、俺は苦笑して答える他なかった。


「危険に敏感なのと、安心を買ってるんだよ。皆俺たちみたいに強くないし、大切な家族を守りたいって事」

「ふむ……そういうものか」


 リィたんが俺の言葉に理解を示すと、今度はナタリーが聞いてきた。


「ミック、【ビジョン】もいいけど、テレポートポイントは置かないの?」

「それがちょっと迷ってるんだよ」

「どうして?」

「元々【ビジョン】の技術は限定的だけど、魔界にもあったみたいだし、魔界に置いていくのは問題ないんだけど、【転移】自体はラティーファが使い切りのマジックスクロールで持っていただけ。だから、もしテレポートポイントが見つかっちゃったら、相手に分析されて使われる可能性も出てくるからさ……どうしたもんかと」

「ふーん、色々考えてるんだ。あ、だったらこの【ミックバス】を置いてったら?」


 そんなナタリーの何気ない助言に俺は目を丸くさせた。


「……あぁ、確かにそれはいいかもしれない。【ミックバス】自体に【歪曲の変化】をかけられるし、外装はオリハルコン仕様にしたし、地中に埋めて置けば見つかるリスクより得られるメリットの方が大きい……うん、いいかもね」

「えへへ……」


 提案を受け入れられたのが嬉しかったのか、ナタリーは普段見せないであろう喜びを見せた。


「ミック、次は何をする?」


 ジェイルが聞く。


「そうだミック! 何でもするぞ、言ってくれ!」


 リィたんはどんと胸を張ってハリキっていらっしゃる。

 暗躍とはいえ、久しぶりの国外活動で楽しいんだろうな。


「決まってるよ。四天王の次は……【魔王城】だよ」

「「おぉ!」」


 ほんと楽しそうだな、この人たち。

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