その756 資源調査

「なるほど、木龍クリューが言っていた通りだな」


 オリンダル高山から【魔界】を見下ろすリィたん。

 久々の登場【ミックバス】に乗り、皆の反応も様々である。


「ナタリー、茶だ」

「ジェイルさん! これ凍ってるじゃんっ!」

「すまん」

「ぅう……寒い……」


 ナタリーは歯をガチガチ鳴らしながら腕を擦っていた。


「あぁ、そうか。ごめんごめん。ミックバスの温度を調整すればよかったんだ」

「でででできればそうしてくれるかなっ!?」


 俺に非があるはずなんだが、ナタリーは怒る余裕がないみたいだ。俺はいそいそとミックバス搭載の暖房機能を機動した。


「ぁ……あったかくなってきた」

「【魔力タンクちゃん】を【暖房】のマジックスクロールに固定して暖気を再現。冬のリーガル国に売れるかもなー」

「うん、いいかも。法王国とガンドフはそこまでじゃないけど、シェルフももしかしたら買い手がいるかもしれないね」


 ナタリーはこういう細かいところに本当によく気が付く。

 というのも、俺、リィたん、ジェイルは皆異常な存在なので、一般的な感性を最も持ち合わせていると言える。

 武力だけではない部分、そこが俺たちにとってナタリーなのだ。最近では夜更かしする程に勉強しているとも聞く。

 身体を壊さなければいいんだが。


「でも、そんなにわかるものなの?」


 ナタリーがリィたんに聞く。


「あぁ、既に魔王が復活してもおかしくない魔力が魔界に満ちている」


 リィたんの言葉を聞き、ナタリーがジェイルに向く。

 ジェイルもまた頷き、リィたんの言葉を肯定した。


「ミック、あの古の賢者って何者なのかな?」

「ん? まぁ、何か目的をもって動いてる事は確かだろうな。【アレ】の存在も知ってるみたいだし」


 アレとはすなわち、俺の別人格の事である。

 俺の中にいる訳ではなく、俺が奴の中にいるという事実。

 奴の発言によって、俺はこの世界にやって来た時の事を思い出した。


「【スパニッシュちちうえ】の側近――ダークマーダラーの【アンドゥ】は、俺がこの世界にやって来た時にこう言った」


 ――寄生転生とでも言いましょうか。


「俺はアレに寄生してこの世界に転生した。でも、アレが一体何なのかはわからない」


 そこまで言うと、ジェイルが思い出したように言った。


「そういえば、あの時スパニッシュが言っていたな」

「あの時? もしや、以前三人でスパニッシュの屋敷へ行った時の事か?」


 リィたんが聞くと、ジェイルが頷く。

 あー、俺がアリスとランクSダンジョンに潜ってる時の話か。

 あれは確か、リプトゥア国との戦争前だったか。



「あ、思い出した。確か――」


 ――おかしな話だ。高貴な魂を呼び寄せたはずなのに、あんな間抜けの魂が宿るとはな。


「一応聞くけど、その間抜けって俺の事だよね?」

「スパニッシュに凄い人って言われた事あったっけ?」


 ナタリーが顔をしかめながら言う。


「ございませんとも」


 そんな事想像すら出来ないな。


「ミック、その……なんだ」


 ジェイルが何か気まずそうである。


「いや、自分で自分を高貴な魂だと思う訳ないじゃないですか、ジェイルさん」

「すまん」


 気遣ってくれるなんてジェイルにしては珍しい。

 いや、普段から気遣ってはくれてるんだが、こういう場合でのフォローはほんと珍しいんだよな。


「じゃあ、魔力と肉体に魂を寄生させようとして呼び寄せたはいいけど、本来宿るはずの魂に……更にミックの魂まで寄生しちゃったって事?」


 ナタリーがまとめると、俺とリィたんはそれに頷いた。

 というより、俺自身、頷くしかなかった。

 そんなぎこちない肯定をまた気遣ってか、ジェイルが言った。


「高貴な魂……か。魔力は魔王、肉体は勇者レックスを使ったのだとしたら、引き寄せられる魂はそれ以上に高貴かもしれないな」

「ジェイルさん、それ以上なんて事あるんです?」

「この世には魔王や勇者ですら抗う事の出来ない存在――【霊龍】がいるんだ。場合によっては、それに近しい魂を引き寄せた可能性もあるという事だ」


 ふむ、ジェイルの言う事はもっともである。


「確かに……でも、だったら何で俺の人格が表に出てるんだろう?」

「ミックだからじゃない?」


 そんなナタリーの何とも言いようのない指摘が入り、俺、リィたん、ジェイルは顔を見合わせた。


「ぷっ、はっはっはっは! そうだな、確かにミックならば表に居続けても違和感がない」

「ふっ、それは盲点だったな」


 俺はそんなリィたんとジェイルに笑われ、渋面をナタリーに向けた。が、ナタリーの反応は至って真剣だった。あれはマジで言ってるな。何だこれ、俺に反論の余地がないじゃないか。

 ……まぁ、反論の用意すら出来てないんだけどな。


「コホン」


 そんなわざとらしい咳払いをして、リィたんとジェイルの笑みを止める。


「えー、今回は魔界の資源調査です。ミックバス自体を周囲から見えないように【歪曲の変化】を使ってカモフラージュしてますが、場合によっては皆さんのお顔を弄る可能性もありますので、そこはご注意を」

「えー、私魔族になっちゃうのー?」


 ナタリーのご不満、ごもっともである。

 年頃の女の子が、一瞬とはいえ魔族に変化するのは許せないものがあるだろう。しかし、【歪曲の変化】だけではなく、【チェンジ】を使う方が怪しまれないのが実情なのだ。


「見つからなきゃ大丈夫だって」

「安心しろナタリー。見つかれば私とジェイルで口止めするからな」


 心臓を止める、の間違いじゃないだろうか?

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