その746 魔導海上都市

「何と巨大な……!?」


 わなわなと震え、驚くラファエロ。

 ランドルフは言葉を失っている。

 当然、リーガル国王であるブライアンも同じだ。

 やはり、二人はこの魔導海上都市の意味を大きく理解している。

 だからロレッソはこんなにもビクビクしているのだろう。


「ミック、この大きさ……マッキリーの街相当と書いてあるが、本当にそんな事が可能なのか?」

「こちらが、今後ミケラルド商店が目玉として扱う商品です」


 言いながら、テーブルにミスリル製の【魔力タンクちゃん】を置く。


「……これは?」

「それは、魔力を込め、必要時にそれを供給する事の出来るマジックアイテムです。この力を使い、波や風だけではなく、海上を自由に移動出来る動力を生み出す事が可能です」

「むぅ……」


 唸るブライアン王。

【プロジェクター】、【魔導海上都市】、【魔力タンクちゃん】どれを見ても、ミナジリ共和国は他国の追随を許さない強国だとアピール出来る。


「……これでミックが性悪であれば、リーガル国はあっという間に滅ぼされていたであろうな」


 これが、小国とはいえ一国の王から出た言葉なのだ。

 ランドルフ、ラファエロも言葉に詰まる他ないだろう。


「性悪という部分を否定する気はないですよ。先日のクロード新聞は私の指示ですからね」

「ふははは、思い出させるな! あれは実に愉快だったな」

「ですな。法王国には悪いが、あれは笑わせてもらった」


 ブライアン、ランドルフに続き、ラファエロも小刻みに震えている。やはり、他国の貴族には中々のブラックジョークになったらしい。


「して、ミック」


 ブライアン王が声を落とし、身体を膝に預ける。


「可能なのか?」


 二度目の確認。

 俺は【闇空間】からテーブルサイズの水槽を取り出し、そこへ載せた。


「ほぉ、随分と大がかりな模型だな?」

「これが、ミスリルで造った魔導海上都市の模型です。細部まで造り、実物と全く同じに仕上がっています」

「凄いな」

「ここからは内密に頂きたいのですが……」


 言って、俺は頬をつねり、引きちぎったのだ。


「「っ!?」」


 唖然とする三人を前に、俺は頬をすぐに修復し、その手に肉片を踊らせた。


「コレが、私の分身です」

「は、ははは……ミックの分身というのはこういう事か」


 ランドルフの言葉に俺は頷いて続けた。


「えぇ、なので俺の分身【ルーク】はこのようにして出来ています」

「それでミック、その分身でどうするつもりだ?」

「彼は魔導海上都市の船長役です」


 そう言うと、三人は気付いたようだ。


「なるほど」


 水槽の水の上に浮かぶ魔導海上都市模型の上に、分身を乗せる。リトルミックはトゥーンアニメのように大げさに跳び回り、その舵を握る。動力部に先程の【魔力タンクちゃん】をはめ込み、いざ出港。


「「おぉ!」」

「動いたぞ」

「風も波もなく手漕ぎでもなく、このような事が……」

「夢でも見ているかのようです……!」


 ブライアン、ランドルフ、ラファエロは三者三様に驚き、魔導海上都市に興味を示した。

 北に南に、西に東。どのようにも動く魔導海上都市に、ロレッソですら目を見開く。


「波は二百メートル程の長さなので、全長をそれ以上にすればそれほど揺れを感じません。魔導海上都市は横幅もそれ以上ありますし、衝撃を吸収するマジックスクロールもありますので、快適な船旅が実現可能です。また、動力である【魔力】も風や波、太陽のエネルギーから吸収するので、余程の事がない限りはこれが破壊される事はないでしょう。極め付けは……――」


 言いながらふところから取り出したもう一つの【魔力タンクちゃん】。


「それは……オリハルコンか!」

「えぇ、素材の硬度によって込められる魔力が増幅します。これを付け替え……て」


 魔導海上都市模型にオリハルコンの【魔力タンクちゃん】を付け替えると、ソレは本当の姿を表したのだった。


「っ!」

「馬鹿な!?」

「う、浮いている……!?」


 三人は、水槽から飛び上がった魔導海上都市模型を見て驚愕する。俺としては、船首でドヤ顔しているリトルミックにツッコミを入れて欲しいところだが、どうやらこの三人はその余裕はないようだ。ブレイクダンスもしてるのに残念である。


「どうでしょう? 商品名【魔導艇】。これがあれば、リーガル国は列強国と肩を並べる軍事力を有する事が出来るのでは?」

「っ! まさかミック、これを売るつもりかっ!?」

「勿論です。とはいえ、結構な金額になりますので、初年度は無料リース契約。一年後、継続契約と同時にローンを組めるようにしようかと」

「……悪くない」


 顎を揉み嬉しそうに唸るブライアン。

 ランドルフも嬉しそうで悪い顔をしている。

 ただ一人置いてけぼりなのが、ラファエロ君だ。


「父上……こ、これを、私の監督でやれと……?」

「思いのほか、大きな仕事になりそうだな」


 苦笑するランドルフに、ガクリと肩を落とすラファエロ。

 きっと彼はそういう星の下に生まれたのだろう。

 そう思い、俺も苦笑するのだった。

 その後、俺とブライアン王は固い握手を交わす。

 ラファエロ個人に【テレフォン】を渡し、個人間でのやりとりを可能にした。

 俺とロレッソがミナジリ共和国に戻った頃、日は既に傾いていたのだった。

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