その745 公式訪問

「ロレッソ殿、お久しぶりですな」


 サマリア公爵のランドルフとがっしり握手するロレッソ。

 本日はサマリア公爵家との公式な交渉。

 まさか指定された場所がサマリア公爵家の別邸とは思わなかった。何故なら今日は、リーガル国王であるブライアン王がいるからだ。


「ここはブライアン殿が?」


 聞くと、ランドルフは頷いてそれを肯定する。

 やはり、ブライアン王がここを指定したのか。でなければ、俺たちはリーガル城へ招かれているはずだ。

 ランドルフ、ゼフ、そして――、


「ラファエロ殿!」


 久しぶりに会った友人の顔が目に入る。

 ラファエロ・オード・サマリア。ランドルフの息子にして、レティシアの兄である。久しぶりながらも益々精悍な顔つきになっている。もう立派な貴族と言えるだろう。


「お久しぶりです、ミケラルド様」


 握手を交わすも、俺は首を傾げる。


「何故、ラファエロ殿が?」

「それは後ほど陛下からご説明があるかと。積もる話もありますが、まずは応接室へ」


 俺とロレッソは頷き、サマリア別邸の応接室へと向かう。

 ゼフが開いた扉の先で立って待っていたブライアン王。


「来たかミック」

「お久しぶりです」


 ブライアン王とも軽く握手を交わし、いざなわれるまま椅子に腰掛ける。

 俺とロレッソ、対面にブライアン、ランドルフが腰掛け、その後ろにラファエロが立って控える。

 ゼフが茶の用意をした後、一礼して応接室を出ると、ブライアン王が口を開いた。


「災難だったな、ミック」

「いえ、なるようになったとしか。とは言え、ルナ王女とレティシア殿は、私の分身と部下がお守りしてますのでご安心を」

「私より強固な護衛と聞くが?」


 ニヤリと笑うブライアンに、俺もくすりと笑う。


「私以上ですよ」

「はははは、一年後の報酬は期待しておけ」


 さて、世間話もこれくらいか。

 俺はラファエロの視線を向けて言う。


「今回の一件にラファエロ殿をかませたいのですか?」

「察しがいいな。正にその通りよ」


 ラファエロが一歩前に出る。


「ラファエロは公爵家の嫡男。どうあってもランドルフの跡を継ぐからな。出来れば今回の一件でサマリア港を統括させ、公爵家として箔をつけたい。……と、いうのがランドルフの言い分だ」

「……まるで、ブライアン殿には別の狙いがあるかのような言い口ですね」


 言うと、ブライアンが肩をすくめて言う。


「その通りだ。ミックがミナジリに飛び立って以降、リーガルで大きな国益を上げた者はそう多くない。王家として認めた公爵家が嘗められるのも時間の問題。急ぎサマリア公爵家に大きな手柄を用意したい」


 なるほど、それがブライアン王の狙いか。

 貴族が沢山いる故の弊害、か。


「わかりました。では、今回の詳細をお話しします。ロレッソ」

「かしこまりました」


 ロレッソが一つのマジックスクロールに資料を載せる。

 闇魔法で部屋を暗くし、


「あちらをご覧ください」

「「おぉ……」」


 三人が驚きを露わにする。

 暗い部屋の壁面に映る光の映写。


「ミナジリ共和国が開発した【プロジェクター】です」

「ふむ、面白いな。資料を壁に転写する魔法か……」

「えぇ、これによりその場にいる多くの人間が資料にある情報を共有出来ます」


 ちらりとブライアン王を見ると、資料以上の興味が俺に向いた。


「今度、リーガル王家におろしますよ」

「ふっ、言い値で買おう」


 ふっかけられても知らないぞ?

 まぁでも、ふっかけられないと知ってる顔だしな。

 これもある意味信頼なのだろう。


「まず一枚目の資料です。サマリア領にある【サマリア港】ここに新たな造船所を作りたいのがミナジリ共和国の希望です。とは言え、造船所を使用するスペースは大きく、他の住民に迷惑がかかります。故に二枚目の資料の通り、【サマリア港拡大工事】から手を付けたく思います」


 説明すると、顎を揉みながらブライアン王が唸る。


「ほぉ、漁港を広げるのか。地形を変えるなぞ、大規模な工事になるな」

「勿論、工事はミナジリ共和国が負担しますし、必要であればサマリア公爵領の住民に仕事を斡旋します」


 ランドルフとラファエロが見合い頷く。

 雇用促進されてサマリア港も潤う。彼らとしても悪くない条件だろう。


「三枚目です。サマリア港の拡張と共に造船所を並行して作ります。こちらはミナジリ共和国の職人を派遣致しますが、その他雑用に関しては仕事を斡旋出来ると思います。新たな街道の設置、聖水路、漁港からのクール便、様々な雇用が生まれ、新鮮な魚をリーガル国やミナジリ共和国、果てはシェルフでも共有出来るようにするのが目標です」

「いいな、足が早い生魚が消費出来るのは大きな利益となる」

「さて、本日の目玉の登場です」

「ふっ、焦らすなミック」

「それでは資料の四枚目をご覧ください」


 言うと、ロレッソが四枚目の資料をマジックスクロールに読み込ませる。


「「っ!?」」


 息を呑む三人。

 困り顔のロレッソ。

 それもそのはず。資料に映ったのは、まるで小さな島。

 二艘の空母並みの船を連ね、多方面への砲門。

 対地、対空の攻撃手段を兼ね備えた居住型巨大海上都市――、


「これが、【魔導海上都市】の全景です」

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