その744 最強の剣

「な、何でもいい」


 余程興奮しているのか、ガイアスは武具の指定をしてくれなかった。だが、ここのオリハルコンを使う訳だし、このガイアス武具店に利のあるものがいいだろう。

 ならば……周囲を見渡し目に入ったソレを見て、俺は「よし」と呟く。


「言っておきますが、俺のやり方は参考にならないと思います。それでもよろしいですか?」

「構わん!」


 正に少年。

 俺は、鍛冶ブラックスミス錬金術アルケミーを発動しつつ、【サイコキネシス】でオリハルコンを宙に浮かべる。


「は、はは! 最初から飛ばすじゃねぇか、若造っ!」


 まるで、アトラクションを楽しんでいるかのようなガイアス君。確かに、オリハルコンは飛んでるし、彼から見たら俺は若造だし、間違ってはいないな。


「次に火魔法を中心に集め、オリハルコンに高熱を加えます」

「魔法か! この【サイコキネシス】の空間が炉の代わりって事だよなぁ!?」


 流石名工である。とても理解が早い。

 超高熱により柔らかくなってきたオリハルコンを薄く延ばし、たたみ、また延ばし、たたんだ。


「おうおう! 折り返し鍛錬ってのはこんなに早く出来るもんなのかよ!? 鍛冶ブラックスミスがあるから鍛接剤が必要ないのはわかるが、何で冷めねぇ!?」

「炉の中で叩いてるようなものだからですよ」

「そうか! 常時火魔法を使って金属を冷やしてねぇのか早いはずだぜ!」

「ここからは早送り」

「へぁ!?」


 先程の折り返し鍛錬が徐々にスピードを上げていく。

 引き延ばし、たたみ、引き延ばし、たたみ……機械的に、しかしオリハルコンが生きているように。


「一体……どんだけやるってんだよ……?」


 息を呑むガイアスに、俺は言った。


「あんまり多くやっても仕方ないので、十五回くらいがいいですかね」

「流石の俺様だって五回か六回だぜ?」

「ミスリルならそれくらいがちょうどいいかもしれません。ただ、オリハルコンは不純物が多いので、倍以上が基本です。はい、最後に成型をして……冷やす」

「こ、こりゃあ……」


 バリをとり、超高速で磨き、【存在X】と製作者の銘の刻印を施す。実は最近この名前で叩く事が多いのだ。


「オリハルコンのハンマーです。火の付与をしておいたので、叩きやすくなると思います」

「い、いいのか?」

「だって材料費はここ持ちでしょう?」


 言うと、ガイアスはハンマーを受け取り、まじまじとそれを眺めた。


「……驚いた。確かに異常な魔力が込められてる」


 ガイアスが次に見たのは、オリハルコンの金床だった。

 それに向かってそのハンマーを振り下ろす。

 キンという金属音の後、ガイアスが目を疑う。


「は……ははは……へ、へこんじまったぜ……」

「なので、これはガイアスさんへのお土産です」


 言いながら、俺は【闇空間】を開き、俺が造ったオリハルコンの金床、とオリハルコンの糸で編みこんだ厚手の手袋を取り出す。


「……若造、俺様のプライドをズタズタにした挙句、この嫌がらせは中々に極まってるなぁ、おい?」

「口、緩んでますよ」

「ったりめぇよ。これがありゃ、俺様はもっと高みにいけるからな!」

「その金床と手袋にも火の付与がかかってるので、ちょっとやそっとじゃ金属は冷めないでしょう。ミスリルくらいなら、炉に戻さなくてもいいと思います」

「これだけ準備してきたんだ。さっきの『よし』ってのは演技だろう?」


 流石の俺様である。

 ハンマーは事前に造ってこなかった。

 ここでガイアスにデモンストレーションをして、俺の技術を見せるためにえて造らなかったのだ。


「バレバレでしたか」

「あぁ、酷ぇもんだ」


 ガイアスはニカリと笑いながら手を差し出す。

 それが握手だとわかると、俺はその手を取った。

 彼は俺を認めてくれた瞬間と言えた。


「座んな」


 ガイアス個人の作業場だけに、椅子は一つしかない。

 仕方ないと思い、俺はこの作業場に似合う、木の椅子を【闇空間】から取り出し言った。


「どうぞ掛けてください」

「へっ、生意気な」


 言いながらドカリと椅子に腰掛けたガイアス。


「用件はわかってる。【勇者の剣】、だろ?」

「話が早くて結構です」

「何でぇ? 代わりに引き受けたいってか?」

「そんなつもりは毛頭ないですよ。【勇者の剣】はガイアスさんに打って頂きたい」

「じゃあ何だよ?」


 小指で耳をかっぽじりながらガイアスが聞く。


「勿論、【勇者の剣】を打つ際、私も作業に同席したいというお願いをしに参りました」

「益々わからねぇな?」

「最強の剣を造りたいんですよ」


 ピクリと反応するガイアス。


「歴代の【勇者の剣】なんておよばない程の史上最強の剣をね」

「……面白そうな話じゃねぇか」


 どうやらガイアスも興味深いようで、身体を前に倒し俺に聞く。


「歴史上の【勇者の剣】っていうのは、その時代の勇者が命を落とした時、勇者の魂と共に神に天界へ連れて行かれると聞きます」

「その通りだ。【勇者の剣】はその勇者の命と共に姿を消す。だから現物がこの世に残ってねぇんだ。歴代一の剣って証明は難しいだろうよ」

「証明はしなくてもいいんですよ。魔族の脅威となってくれればそれでいいんです」

「まぁ、若造がやりゃ出来るかもな。過去の名工が鍛えたよりも強い剣がよ」

「生ぬるいんですよ。少しくらい強いってのは」

「あぁ!?」

「二人です」


 大口を開け、いぶかしむガイアスに俺は言った。


「二人で叩き、二つの特性、、、、、を持った最強の剣を造ります」

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