その731 内政、軍備、外交、調略3

「何なの、その【なんちゃって蒸気機関】って?」


 しゃがみ込むナタリー。

 まるで、子供の秘密会議のようだ。

 ここは俺の研究室。夜はナタリーに「休め」と怒られて何も出来ないが、昼ならば好き勝手していいと言われているのだ。

 まるで、親に「ゲームは一時間まで」としつけを受けているかのようだが、実は俺、このミナジリ共和国の元首だったりするんだよな。そして、ナタリーはその元首より偉い。黒幕というやつだ。


「やかんに火をかけて、中の水が沸騰すると白い蒸気けむりが、やかんの蓋を下から押し上げるようにカタカタさせるだろ?」

「うん」

「もの凄く小さな力だけど、『この力を何かに使えたら』って考えたのが故郷の人」

「おー……それって何かに使えるの?」

「そうだな……魔力タンクの充電施設とかいいんじゃないかな?」

「充電施設?」


 小首を傾げるナタリー。

 珍しく俺の話に耳を傾けてくれている。


「蒸気を運動エネルギーに変えて、運動エネルギーを魔力に変える。そんな事が出来れば凄いと思わない?」

「それって、蒸気のための火の燃料も魔力にしちゃうって事?」

「モチ! 着火だけ人の手で、半永久的に稼働出来るような【なんちゃって蒸気機関】を目指す」

「ネーミングセンスがちょっとアレで困るんだけど?」

「一から蒸気機関を作ると、エネルギー効率が凄く悪いし、環境にもよろしくない。だったら、【マジックスクロール】というこの世界の技術と、俺の世界の技術を合わせて使えばいいって思っただけだよ」

「つまり、両世界のイイトコどり……」

「そゆこと」


 俺がわざとらしくウィンクを送ると、ナタリーは煙を払うようにそれを避けた。まったく、冗談が通じない軍部のトップである。


「それで、そっちは?」

「オリハルコンで作った巨大レンズ、、、、、

「変な形……? そんなものどうするの?」

「蒸気とは違って、今度は太陽の光をエネルギーに変える」

「……そっちの羽みたいなのは?」

「風の力をエネルギーに変える」

「…………そのサンドバッグみたいなのは?」

「リィたんたち龍族の力を運動エネルギーとして溜める。その内、竜騎士団の訓練にも採用して、自分たちの生活を賄えるようにしたい。騎士団寮の照明やら水、風呂、下水に至るまで」

「………………ミックは国を亡ぼす気なの?」

「豊かにする気なんですけど? ナタリーさんが言い間違えるなんて、珍しいっすね?」

「ミナジリ共和国は……ミナジリ共和国だけは生き残ると思う」

「お、流石ナタリー。ちゃんとこれの重要性に気付いてるね」

「ロレッソには、ちゃんと話は通したの?」

「ロレッソが知恵を吐き出せっていうから、今のところ全部試作品だよ」

「多分、ロレッソは試作する前に話が聞きたいと思う」

「そしたら面白くないじゃん」

「動機が不純じゃない?」

「純粋の間違いでしょう?」


 大きな溜め息を吐くナタリー。

 俺はそれを見てにやりと笑い、無数の試作品を作るのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「はははは! 来たか、ミック!」

「ランドルフ殿、お久しぶりです」


 その翌日会ったのは【ランドルフ・オード・サマリア】。

 リーガル国の公爵である。

 そして、今回やって来たのはサマリア公爵領ではなく、首都リーガルのサマリア別邸。思えば、ランドルフと出会ったのもここだった。

 昨日の内にアポをとったら、首都リーガルこっちならすぐに会えるという事で、俺はミケラルド商店のテレポートポイントを経由してリーガル国にやって来た。

 握手をかわした俺は、ランドルフと執事のゼフに連れられ応接室へと招かれた。本来なら、入口でゼフが待っているだけなのだが、今回はランドルフが迎えてくれた。これはおそらく、俺を友人ながらも元首として扱っていると言えよう。

 まぁ、ミナジリ邸からの【テレフォンれんらく】だと、どうしてもそうなってしまうけどな。

 応接室のソファに腰を落とし、ランドルフが言う。


「大変だったじゃないか? レティシアが心配していたぞ」

「ありがとうございます。でも、人の噂も七十五日と言いますし、その内消えてくれると思います」

「というより、ミックが消すのだろう?」

「ははは、消火作業は頑張るつもりですよ」

「それで、本日はどのような用件で参った?」

「サマリア公爵家のとある事業に、ミナジリ共和国ものっかりたいと考えてまして」

「サマリア公爵家を的に絞ったとすると……なるほど、【漁業】か」


 頷く俺に、ランドルフは腕を組む。


「ふむ、確かにサマリア領の北東部はリーガル国唯一の漁港。海に面した数少ない街と言える。目的は魚か」

「それもあります」


 ピクリと反応するランドルフ。

 お、金の匂いを嗅ぎ取ったな? 流石はブライアン王の右腕だ。


「何をするつもりだ、ミック?」

「海産物、海鮮料理など漁港で出来る事は非常に多く、また、食糧難になりにくい事から人口も多く集まり、雇用促進も可能。その中でとりわけ手を付けたいのが【造船工業】です」

「船か……」


 意外そうな顔をしたランドルフが、困ったように顎を揉む。


「しかし、船とは。それ程までに量産出来るものでもないぞ? 市場は狭く限られている。ミックの頼みならば融通してやりたいが、収益が見込めぬのであれば、領主として許可を出す事は難しい」


 そう、ただの船ならね。

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