その732 内政、軍備、外交、調略4
「そ、それは本当に可能なのか!?」
俺の話を聞き、驚きのあまりソファから立ち上がるランドルフ。
「国境の関係もありますが、リーガル国にお手伝い頂ければ、必ずや実現出来ると確信しております」
ソファには座らず、ランドルフは落ち着かない様子で部屋を歩いた。まるで出産を待つ父親のように。
そして、この時期はまだ使わないであろう暖炉の前で立ち止まり、ランドルフは振り返って俺に言った。
「……陛下には?」
「勿論、ランドルフ殿に窓口になって頂きたく」
「で、では、ロレッソ殿はこの話を知っているのか?」
「聞きたいですか?」
にこりと微笑んで言うと、ランドルフは俺から視線を外すようにバッと目を切った。
「くっ、やはりミックの独断か。このような大胆な事、ロレッソ殿なら全力で止めている……!」
「いやいや、ロレッソには話を通してるかもしれないじゃないですかー」
「……ソレが出来ればどのような利益が?」
「うまくいけば、リーガル国の国力が数倍に」
「数倍だと!?」
「ランドルフ殿の前で嘘を言った事はなかったはずですが?」
「ミックは嘘は言わん。ただ真実を隠すだけだ。何を隠している?」
流石。付き合いが長いとそこまでわかるか。
「まぁ私たちも国力を高めたいのが事実です。まだ言っていない事を強いて挙げるとすれば……魔界への牽制、ですかね?」
言うと、ランドルフは目を見開いて驚いてみせた。
「むぅ……確かに。が……しかし……うーむ……」
「勿論、現状私の頭の中だけの夢物語です。近日中に、その夢が見られるような企画書を持参致します。その際、ブライアン王との窓口になって頂きたく」
「……わかった。ただし――」
「――はい?」
「ロレッソ殿も一緒に来て頂きたい」
まるで俺一人だとおっかなくてしょうがないという様子だ。
ランドルフは豪胆な人だと思ったが、流石にこの案件にはカタイ人の付き添いが欲しいというところか。
「わかりました。その際はロレッソも同席させて頂きます」
俺とランドルフは再び握手をし、少しの談笑の後、サマリア別邸を出て行った。
屋敷を出た後、遅めの昼食がてら食べ歩きをしていると、俺は意外な人物と出会った。
「……何やってんだ、お前?」
「おや? もしかしなくても【ディック】さんじゃないですか? ギルドマスターのお仕事はどうしたんです?」
「うるせぇ、今日はオフなんだよ。そうだ、ちょうどいいや、お前ちょっと暇か?」
「国力を上げる事に忙しいですね」
「年単位の忙しさじゃないか、それ……?」
呆れた顔でディックが言う。
「一ヶ月である程度カタチにしますよ」
「お前、そういう事を一介のギルドマスターに言うんじゃねぇよ!」
ギルドマスターって時点で、一介って言葉はもうおかしいと思うのだが?
「まぁ、考えるのは
「お前はもう喋らない方が俺のためなんじゃないか?」
物凄い言われようだ。
「まぁ、そんな事ミックに言っても仕方ないか。それじゃ、近所に行き着けの飲み屋があるんだ、そこに行こう」
他国の一介の飲み屋で、一介の元首と一介のギルドマスターが呑む。はたしてこれは、一介の飲み会と言えるだろうか?
とまぁ、リーガル国のある程度の自由はブライアン王が許してくれているのもあって、飲み屋の店主にはビビられたけど、すぐに個室へ通してくれた。
「へぇ、落ち着いた感じでいいところじゃないですか?」
「だろ? ドマーク商会が経営してるところだ。客足こそ少ないが、客単価が高いからしっかり黒字なんだとよ」
「大人のお店ですね」
「おう、四歳児なんだから酒は呑むなよ」
何故、俺を飲み屋に連れて来たんだ、この人は?
「えー」
「国力を上げるっつー公務中なんだろ?」
ニヤリと言ったディック。
くそぉ、確かにその通りだぜ、べらんめぇ。
俺は仕方なく新鮮果実のミックスジュースなるものを注文した。何故か、目の前にはエールをあおる一介のギルドマスターがいた。
何だろう、この理不尽。
霊龍に相談窓口でも開いてもらいたいものだ。
「お前、ラスターって知ってるだろ?」
「え? リプトゥア国のギルド員ですよね? エメリーさんが担当指名してる」
「あぁ、リプトゥア国との戦争前に、ミックを調べてたっていう奴隷の子供っての覚えてるか?」
「あぁ、【リッツ】さんってランクBの冒険者の方が教えてくれたやつですよね?」
「あの時、ミックが依頼した事覚えてるか?」
「あー……」
――ディックさん。
――あん?
――一つご相談があります。
確かあの時、リプトゥア国で信頼出来る人に調査を依頼するよう頼んだんだよな。金も前払いだったはずだ。
「え、もしかしてずっと調べてたんですか? 戦争終わったのに?」
「いや、奴隷解放したからってそれは止めてもらった。ミックにも言われたしな。あの時は杞憂って事で済んだんだろうけどな、今は違う」
「え?」
俺が間の抜けた顔をしていると、ディックが衝撃の事実を言う。
「どうやらまた調べ始めたんだよ、ミックの事をな」
「え? ちょ!? もしかして奴隷の子がまだリプトゥアにいるっていうんですかっ!?」
「そうかどうかはわからねぇ。ただ、リッツに言われて作った人相書きに似た少女を、ラスターが見たって連絡してきたんだよ」
どうやら俺は、継続してストーカー被害に遭っていたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます