その730 内政、軍備、外交、調略2

「人口の入出はどうなってる?」


 ロレッソに聞くと、彼はカンペシートでも頭にあるのかというくらい、理路整然りろせいぜんとその説明をしてくれた。


「法王国からミケラルド様が国外退去を命じられた時は、少々多かったものの、凱旋パーティをリィたん様の龍族の姿で行われたのが功を奏し、現状安定しております。しかし、これからは国としての魅力を高めていかなければなりません。ミケラルド様がこれまで行ってきた個人的とも言える法王国との【外交】では、これが限界だと思われます。農産業、飲食業、工業、文化、文明、保障、教育、安全と挙げればキリはありませんが、国益に見合ったもの、他国以上の水準を目指し動く事が何より重要でしょう」

「何かの詠唱なの?」

「つきませしては、ミケラルド様にお願いしたい事がございます」


 凄いな、完全に俺の言葉を無視している。

 というより、雑音は耳に入っていないという感じだ。


「……で、お願いしたい事って?」

「ミケラルド様の知識を吐き出して頂きたく」

「圧迫面接かよ」

「吐き出して頂きたく」


 二回言ったぞ。

 つまりロレッソは、現代地球の知識を提供して欲しいと俺に言っているのだ。

 しかし、俺にわかる事なんてたかが知れている。

 先人たちが築いたものを、見様見真似でこの世界に適したものとして流用しているだけだ。

【テレフォン】しかり、【冷蔵庫】などの便利用品然り。


「吐き――」

「――わ、わかったよ!」


 ニコリと笑うロレッソを前に、俺は頭を抱える。

 流石に三回目は胃にキそうだ。

 ロレッソのヤツ、ここぞとばかりに詰めてきてるな。


「でも、断片的な事ばかりだぞ?」

「構いません、私はそれを紐解き、活用するだけですから」


 いや、ほんとリプトゥア国の元ゲオルグ王には、優秀な人材が側にいたものだ。


「何か?」

「いや、ロレッソが味方でよかったと思っただけだよ」

「食事に毒は入っていないでしょうし、ミケラルド様は毒に対する耐性があったかと?」

「悪い物でも食ったか、なんて言いたげだな?」

「はははは。ですが、有難いお言葉に感謝致します」

「いや、こちらこそありがとう」


 言うと、ロレッソは微笑みながら部屋を出て行った。

 現代の知識か。

 まずやらなくちゃいけないとしたら、やはり……金、か。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「ミケラルド様ー! お待たせしましたっ!」


 輝かんばかりの笑みで俺の作業場に走って来るのは、ミケラルド商店の看板娘というか看板豪商カミナ。

 ここはミナジリ邸の真裏。いつか、リィたんやジェイルにオリハルコンの武器を造った場所である。


「悪いねカミナ」

「ミケラルド様のためなら何でも致しますよ、私っ!」


 ふふんと胸を張るカミナにくすりと笑い、俺は言った。


「ありがとう。頼んだものは用意出来た?」

「はい、三番の【闇空間】、、、、、、、、に詰め込んであります」


 この、『三番の【闇空間】』というのは、ミケラルド商店で扱っている闇空間の識別番号だ。

 通常、俺が魔導書グリモワールに入れた【闇空間】を、ナタリーたちが使うと、俺の【闇空間】が発動する。しかし、それでは俺の私物とか子供には見せられないようなアレとかが【闇空間】にあったりするので、番号に分けて商品を詰め込む事で、ミケラルド商店の在庫管理をやりやすくしているのだ。


「お、確かにいっぱい詰まってるね」


 三番の【闇空間】の中からサイコキネシスを使い、大量に外に出された黒い塊。


石炭、、なんか何に使うんです?」


 小首を傾げるカミナに俺は笑って言った。

 

「必要なのはこの黒い部分――炭素だね」

「たんそ?」

「石炭が石炭たらしめている理由みたいな素材、かな?」

「それを使ってどうするんです?」

「こうするだけ」


 全ての石炭をサイコキネシスで宙に浮かべ、火魔法により高熱を加えていく。真っ赤になる石炭だが、サイコキネシスの外側には心地よい風が吹いている。これは、熱で火傷しないために俺の風魔法を発動しているのだ。


「ミケラルド様……?」

「更にここから魔力で圧力を加え――」


 ――同時に鍛冶ブラックスミス錬金術アルケミーを発動。イメージするのは摂氏二千度、七万気圧以上。細かい調整は鍛冶ブラックスミス錬金術アルケミーという技能が補正してくれる。


「ぬ、くくく……お?」

「な、何か……石炭が白くなってません?」

「別名【白い炭素】……どうやらミナジリ共和国に新たな収入源が出来たみたいだね。もっと、もっと……!」


 石炭は徐々に白みを帯び、やがて、輝き始める。

 鍛冶ブラックスミス錬金術アルケミーの技能がなければ、こうも簡単に出来ないが、そのイメージさえ強く持てば……――、


「うっそ……」


 カミナがあんぐりと口を開ける。

 地面に落ちた光を目で追い、しゃがみ、じっとそれを覗き込む。


「これ……【ダイヤモンド】ですかっ!?」

「そ、【白い炭素】もとい【金剛石】もとい【ダイヤモンド】っ! やってみた感じ、うちの職人たちなら練習すれば出来るようになると思う。製造方法を秘匿として、契約を結べば、ミナジリ共和国はダイヤの原産地って言われるようになるよ」

「凄い……これなら!」


 バッと立ち上がるカミナ。


「私、急用を思い出したのでちょっと失礼します!」


 どこに行くのかと思ったが、カミナの目は今、商売人の目にしか見えなかった。彼女はホントどこに行くのだろう。

 まぁ、十中八九じゅっちゅうはっくロレッソのところだろう。

 ダイヤは商人ギルドでいうところの超高額取引材料だ。

 もしかしたら、ミナジリ共和国に商人ギルドを招けるかもしれないな。今度、リルハに相談してみるか。

 そう思い、俺は次の場所へと向かうのだった。

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