◆その680 事前準備
「ねぇミック、本当にやるの……?」
以前、雷龍シュガリオンと戦った場、そこにやって来たミケラルドとナタリー。
ナタリーが小首を傾げながらミケラルドに聞く。
「勝負の時までに実力を付けるのは準備っていうだろ?」
ミケラルドの返す言葉はナタリーへの質問だった。
「うーん、まぁそうとも言うかな」
「じゃあ、こうして勝負の時までに罠を置くのは?」
「……卑怯?」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「別に褒めてないよね? でも、ミックはこれも準備って言いたいんでしょ?」
「流石ナタリー、よくわかってる」
ナタリーを指差し、ミケラルドが歩き始める。
「ミックの事はね」
呆れた様子で言い、ナタリーはくすりと笑ったミケラルドに付いて行く。
「あ、これ渡しておくね」
「ナニコレ?」
「ヘルメットっていう頭を防護する物だよ」
見慣れない物を見つつ、ナタリーは目を細める。
「ミスリルの留め具に……頭部のこの淡い青色。もしかしてこれオリハルコン?」
「現時点での最強装備だろ?」
「それで? これを被れっていうの?」
「そうだよ。ちょっと危ない事するからね」
「それが罠」
「準備だよ準備。人聞き悪いなー」
「そんな事して、どうするの? それで雷龍シュガリオンが協力してくれなくなるなんて事になったらどうするつもり?」
「それは霊龍の策だから絶対遵守するよ。俺はね、だったらその先を求めたいってだけなんだよ」
「その先?」
「まぁ、『細工は流々仕上げを御覧じろ』ってとこかな」
「ミックらしくない言葉だ事」
「事実、俺の言葉じゃないからね」
「借り物吸血鬼」
「ははは、それは否定しないよ。事実、色んな人に協力してもらってるしね……ふむ、ここが一番いいか」
ミケラルドは歩みを止め、立った場所でそう言った。
「そこが何なの?」
「雷龍シュガリオンと
「スモー?」
「俺がここに立って、真正面からぶつかってもらう」
「それ、大丈夫なの?」
「何とか耐えてみせるさ。ただ、出来れば余力のある内に来てもらいたいところだね」
「じゃあ……初撃って事?」
「いいね、そうなれば作戦は成功したようなものだよ」
「どうやって正面から突っ込んでもらうの?」
「そうだな……言葉……かな?」
「
「それが一番だろうね。ん~、一話……いや、一話半くらいのボリュームを使って煽れば行けるかもしれない」
「……またアニメの話?」
「故郷の知恵と言って頂きたい」
「どうせ偏った知識なんでしょ」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
「さっき聞いたよ、それ」
終始呆れるナタリーを前に、ミケラルドは空を見上げる。
「なるほど、罠は空からね」
「準備ね」
「何を準備するの?」
「【神の杖】っていうんだけど、上手くいくかまずは実験」
「何なのその物騒な名前は」
「神々しいネーミングでしょう。まぁ見てよ」
ミケラルドは地面に転がってる石を持ち、腰の高さから落として見せる。カランと落ちた石を見てナタリーがまた小首を傾げる。
ミケラルドは人差し指を立ててもう一度石を拾う。
そして今度は胸の高さから石を落とす。
カランと鳴る音。しかし、その音は先程よりも重い。
「音が変わったという事は?」
「威力が変わった。まぁ、当然よね。高いところから落としてるんだから。まさかそうやって雷龍シュガリオンを?」
「更にこうする」
また同じ石を拾い、今度は手首のスナップを使い石に勢いを付ける。石は地面に達すると同時に大きな音を立てて割れてしまう。
「おー……つまり、高いところから勢いを付けて石を当てる、と?」
「でも、その石というか弾が問題でね」
「どういう事?」
「世界で一番硬い鉱石は?」
「これ」
ヘルメットを指差し、それがオリハルコンであると答えるナタリー。
「そう。でも、オリハルコンは神の金属と言われるだけあって結構軽いんだよ。この試作型【神の杖】に重要なのは質量、弾の硬度、それに速度なんだ。あ、質量ってのは重さね」
「オリハルコンの弾だと重さが足りないと」
「いや」
これを否定するミケラルド。
「コスパが悪い」
「それは深刻だね。雷龍シュガリオンへのダメージとかどうでもよくなっちゃうくらいに」
世界のお金というお金を愛する二人の結論が一致する。
「だったら銅貨の雨でも降らせた方がマシなんだよ」
「ダメだよ勿体無い!」
いつも以上に真剣なナタリーである。
「まぁ、解決策はあるよ」
「え、何々?」
「世界で一番硬い鉱石はオリハルコン。でも、世界で一番硬い物……と言われるとそうじゃないとは思わないかい?」
「んー? オリハルコンより硬い物?」
「存在、と言い換えた方がいいかな?」
「あぁ! 龍族!」
「そうそう、龍族の鱗や卵の殻はそれ以上に硬い。テルースさんに鱗を卸してもらったけど、加工が大変で結局アクセサリー止まりだったろう? 今回戦う雷龍シュガリオンなんか、五色の龍の中じゃ一番硬いだろうね。そんな中、オリハルコンの弾じゃ少々心許ない」
「じゃあ一体どうするの?」
「龍族と同等の硬度を持った弾をぶつけるしかない」
「えぇ……そんな物? 存在? どこに……?」
困ったナタリーが頭を抱える。
しかし、そんなナタリーの視界には変な挙動をした存在がいた。
視界の中で、その存在は、ミケラルドは、自分自身を指差していたのだ。目を見開いたナタリーが驚愕しながらミケラルドを指差す。
「ま、まさか……!」
「そう、弾は
今ここに、ミナジリ共和国にミック弾という超破壊兵器が完成したのだった。
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