その677 天啓

 ◇◆◇ エメリーの場合 ◆◇◆


 ソレ、、は、突然の出来事でした。

 聖騎士学校での授業中、まるで、私以外の全ての時が止まったかのように、世界は色を変えました。

 天から降り注ぐ一筋の光。

 私は……私はコレを知っている。

 アレは、この力を授かった時と同じ現象……!


『……エメリー……』


 そしてこの声もまた。

 美しく、清らか……けれど威厳溢れる声。

 これは天啓。私が勇者の力を授かった時と同じ。


『……あなたが霊龍さん……?』

『ふふふふ、ミケラルド殿から聞きましたか』

『え、えっと……そうですね。ある事ない事……かもしれませんけど……』

『ミケラルド殿は時折、私でも見透かせない事があります。だからなのでしょう。私は彼を試す事にしました』

『ミケラルドさんを……試す?』

『えぇ、現時点では彼にしか成し得ない試練。あなたにはそれを見届けて欲しいのです』

『見届ける……? それはもしかして勇者の覚醒と?』

『さぁ、どうでしょう。あなたは既にそれに届くだけの【あたい】に達しているはず。これ以上、何が必要なのか。それはあなたにもわかっているでしょう』

『聖女の……アリスさんの力と、完全なる【勇者の剣】』

『全ての鍵を握るのは聖女アリスとミケラルド殿。是非その目であなたが目指すべき先を見定め、今あなたがいる場所を再確認しなさい』

『……はい。あの、それで私はどうすれば……?』

『間も無くしてエメリー、あなたはミナジリ共和国へ転移します』

『うぇ!? い、今授業中……なんですけど?』

『もう時間がありません。すぐに外へ』

『は、はい!』


 天啓とは霊龍さんからの連絡。

 物心つく前に起きた天啓の時と比べると、現実味があり過ぎて困ってしまいます。


 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


「こ、これはっ!?」


 私が立ち上がった時、聖騎士学校の時間が止まったかのようだった。

 けれど、私の眼の端にいたエメリーさんだけが反応を見せていた。

 そう、これは天啓の前触れ。

 過去、私とエメリーさんが……神様から受けた天啓。

 だけど、【存在X】は、ミケラルドさんは神様の事を霊龍だと言っていた。それが本当なのか、ようやくわかる。


『……アリス……』

『神様……ですよね?』


 そう聞くも、神様は何も答えてくれなかった。

 話を逸らす訳でもなく、ただ私に要件だけを伝えた。


『……間もなくあなたをミナジリ共和国へ転移させます。勇者エメリーと共に外へ』


 私をミナジリ共和国へ? 何故?

 だけど、そこに関係している人は知っている。

 私はそれだけでわかってしまった。またミケラルドさんが何かしたのだと。

 だから私は、再度聞いたのだ。

 彼は私に教えてくれたから。


 ――え、天啓って一方通行の簡易指令なんですか? 何それ怖い。

 ――違います! 神様からの啓示なんですっ!

 ――でも、相手の素性も姿形も知らないのに勝手に命令して、勝手に要件言うだけなんでしょう? どこの世界にそんな企画通そうとする頭のおかしい人がいるんですか?

 ――神様だからいいんですっ!

 ――え、でも私、神様に服脱げって言われても嫌ですよ?

 ――神様はそんな事言いません! 『魔王を倒しなさい』とか崇高な事を言うんです!

 ――いやいやおかしいでしょう。服を脱ぐか、魔王を倒すかだったら私服を脱ぎますよ。わかります? 何の対価もなしに滅茶苦茶で不可能に近い事やれって言われてるんですよ? だったら天啓をぶっ放してきた相手を疑う事から始めた方がいいですよ。それが魔王だって可能性もあるんですから。

 ――あーあー、聞こえないー!


 あの時は、ミケラルドさんの言ってる事がよくわからなかった。

 でも、今ならわかる。そして言える。


『あ、あの! どちら様でしょうかっ!』


 それは、あまりにも不敬だったのかもしれない。

 一度は神様と信じ、疑わなかった相手。

 けれど、相手はそれを肯定しなかった。


『ふふふふ』


 すると、相手は怒る訳でもなく、否定する訳でもなく、ただ笑ったのだ。


『ミケラルド殿と出会い、良い経験を積まれたようですね』


 そして、ミケラルドさんの名前を出し、嬉しそうに言った。


『歴代の勇者や聖女をして、私の名を明かす事はありませんでした。しかし、ミケラルド殿が関係した方はそうもいかないようです』

『名前を……伺いたく』

『我が名は【霊龍】、五色の龍を束ねる長にして、世界を管理する者』


 やっぱり……やっぱりあの人の言う事は正しかった。

 不本意ながら、本当に不本意ながら私はあの人を凄いと思ってしまった。単なる魔力ではなく、単なる洞察力ではなく、この世を生きる上で必要な力を余す事なく使っている。

 半端な私では遠く及ばない力。

 でも、きっとあの人は、ミケラルドさんはそれすらも否定するだろう。あの人の事だ、きっと「本気で生きてるだけですよ」と、笑い、あっけらかんと言うのだろう。


『ミナジリ共和国で、何が?』

『あなたの成長の糧が、そこに』

『もう少し具体的にお願いします』

『……なるほど、これまでにない希有な聖女と言えますね』

『思った事はちゃんと聞けとリーダーに言われましたから』

『素晴らしいリーダーですね』

『えぇ、まだ臨時、、ですけどね』

『いいでしょう。間もなくして雷龍シュガリオンとミケラルド殿がぶつかります。これを是非、あなた自身の目で見て欲しいのです』


 ミケラルドさんが雷龍と……?

 私はそれを聞いただけで講義室から飛び出ました。

 マスタング先生にあわあわと説明するエメリーさんを見て、少しだけ後悔したのは内緒だ。乙女の秘密だ。

 こうして私とエメリーさんは、霊龍さんの力を借り、ミナジリ共和国へ転移したのだった。

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