その676 招待状

 なるほどなるほど。

 招待状とはつまり、俺と雷龍シュガリオンの勝負の場。そこへの招待という訳か。

 そこにイヅナとオベイルがいる理由はおそらく、SSSトリプルランカーという特性から。シェルフのダンジョンが解放されれば、その時点で冒険者ギルドは制限を設ける。【聖域】という特性上、管理自体はシェルフで問題ないと言っていたアーダインだが、ダンジョンへの入場制限には関わってくるだろう。勿論、ダンジョンのランクを見分けるための調査隊も設けられる。その調査隊に、彼らも指名されるだろうしな。

 というか、現状SSSトリプルランクの冒険者って俺、イヅナ、オベイルの三人しかいないけど、この面子で臨時パーティ組むの? それ何て言う脳筋パーティ?


「……そっか、明日か」


 雷龍シュガリオンとの再戦。

 出来ればその再戦を前にSSSトリプルダンジョンに潜っておきたかったんだけど、そうか、逆だったか。

 つまり、SSSトリプルダンジョンは……龍族でさえも攻略し難いダンジョンという事になる。いや、まさか……そういう事なのか?

 霧にかかった答えを紐解くより早く、イヅナが俺に言った。


「そうか、ボンがそれ程までに警戒する相手か」


 その言葉にハッと気づくと、呆れたオベイルと、ジト目のナタリーがいたそうな。


「漏れてんぞ、やべぇ魔力がな」

「ちゃんと蓋してください、ご主人様」


 オベイルとナタリーの忠告は素直に受け取っておこう。

 特にナタリーの視線は恐ろしい。雷龍ナタリオンって感じがする。


「だがミック、これで霊龍の狙いがわかっただろう?」


 木龍クリューが言うと、俺はそれにコクリと頷いた。


「それはどういう事だ?」


 それはジェイルの疑問だった。


「え、霊龍の狙い?」


 ナタリオンも気付かなかったようだ。

 しかし、我らがリィたんは気付いてしまった。気付いてしまったからこそ、


「わ、私はミック側だからな! 付いていけないぞっ!」


 そうムキになって言ったのだ。


「ミック側?」


 ナタリーが俺に振る。


「じゃあ、まとめようか。……明日、雷龍シュガリオンがミナジリ共和国にやって来る。って事は、俺は明日、雷龍シュガリオンと戦わなくちゃいけないって事。招待状ってのはその観戦権みたいなものだね。で、ここからが霊龍の狙いって訳」

「狙いって何なのだ?」


 炎龍ロイスはそちら側では?

 とも思ったが、炎龍ロイスにはまだ難しい事だろう。


「今日この場にリィたんを除く三龍が集まったのは霊龍が集めたからだ。そして、明日やって来る雷龍シュガリオンもね。俺は明日、雷龍シュガリオンに勝たなくちゃいけない。勝てば、霊龍がプレゼントをくれるって感じ」

「感じってお前、勝ったらなんかくれるってのかよ?」


 オベイルに頷き俺は続ける。


「【聖域】は龍族の長、霊龍が造ったもの。そう言い張ってくれるって事ですよ」

「おいおい、それってまさか……!」

「明日、俺が勝負に勝てば、ここにいる木龍クリュー地龍テルース炎龍ロイスと共に、雷龍シュガリオンはシェルフと交渉してくれるって事」

「「っ!!」」


 ナタリー、ジェイル、イヅナ、オベイル、そして炎龍ロイスが驚き、リィたんを見る。


「そっか、それでリィたんはミック側なんて言ったんだね」


 ナタリーは納得し、


「ふむ、既にリィたんはミナジリ共和国に属している。公に五色の龍がシェルフを訪れたとしても、そこにリィたんがいたとしたら、見る者が見ればミナジリ共和国の威圧的な外交に見えてしまう……か」


 今日のジェイルはよく喋る。


「ほっほっほ、だから四龍でシェルフに行く……か。なるほどのう」

「そこまでお膳立てすりゃ、シャルフの民も納得する……か。なるほどな」


 イヅナ、オベイルも理解を示したが、炎龍ロイスはずっと頭を抱えていた。


「私にはプレゼントがないのだぁ!?」


 君はあげる側だね。

 しょうがないから後でおじさんがお菓子でもあげよう。

 きっと、こんな些細な事まで霊龍はお見通しなんだろうな。

 そう思いながら木龍クリューを見ると、彼女はくすりと微笑を浮かべて言った。


「そう変な目で見るな。これでも霊龍なりの配慮があるのだ」

「というと?」

「ダンジョンはあくまでダンジョン。そのダンジョンがまさかシェルフにとって重要な地になってしまうとは、流石の霊龍も予想だにしていなかったのだ」

「なら、先に交渉してくれてもいいんじゃないですか?」

「ほぉ? 今のお前でも雷龍シュガリオンと戦うのは怖いか」

「安全マージンは広く深くとっておきたいんですよ」


 そう言うと、テルースがニコリと笑って言った。


「ではこれは、ミケラルドさんにとって試練になるやもしれませんね」

「そうなんですよねぇ……」


 よよよと項垂れる俺をナタリーがよしよしと撫でてくれる。


「何だ、その茶番は?」

「茶番じゃなく悲劇ですよ、オベイルさん」

「じゃあ金はとれねぇな」

「そんな事言って、明日白目剥いて失神したり失禁したりしないでしょうね?」

「誰がするか!」

「まぁ、死ななければそれでいいです」


 俺が言うと、オベイルは神妙な面持ちとなって聞いた。


「……そんなにつえぇのか、雷龍は?」

「そうですねぇ……」


 俺は、リィたん、木龍クリュー、テルース、炎龍ロイスを見てからオベイルに言った。


「ここにいる龍族の皆さん全員と戦う方がマシって感じです」


 かつて、リィたん、ジェイルと俺の三人で戦い、惨敗した相手――雷龍シュガリオン。俺は確かに強くなった。しかしそれでも、世界には上がいる。

 五色の龍の最強を前にして、失神したり失禁したりしなければいいな。

 そう思うミケラルド君だった。

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