その674 予兆
プリシラの葬儀が終わって数日、シェルフからの回答もそろそろだと思っていた矢先――俺の部屋にジェイルがやって来た。
「ミック」
「あぁ、おはようございます、ジェイルさん」
「……あぁ」
挨拶の返しはなく、いつものジェイルのようでそうでない。
つまり、ジェイルもアレに気付いたという事なのだろう。
「気付きましたか?」
「あぁ。これはもしかして――」
「――いやいや、雷龍シュガリオンが
そう、今ここに、強い魔力が向かって来ている。
それも、一つや二つじゃない。
「そうか、違うか……」
「でもイイ読みですよ」
「というと?」
ジェイルが小首を傾げると、次に部屋をバタンと開けたのはリィたんだった。
「……ふむ、ジェイルも気付いたか」
「以前のように前触れがなかった事もあってな、急いで来たはいいが、ミックはこの調子だ」
お茶を
「なら、我々も
そう言いながらリィたんが俺の対面のソファにどかっと腰掛ける。
「……そうか」
ジェイルもまた、リィたんの隣に腰を下ろした。
相変わらず信頼されてる感が凄い。「内心不安でいっぱい」なんて言ったら怒られるんだろうな。
そう思いながらまたお茶を啜る。
「ミックミックたいへーん!」
最後にやって来たのは、いつものようにナタリーだった。
バタンと扉を開け、リィたんとジェイルがいる事に小首を傾げるナタリー。
「おはよう。どうしたの、ナタリー?」
「うん、ドゥムガがね?」
ナタリーは俺の隣にちょこんと座りながら言った。
「なんか震えちゃって、様子がおかしいの。『きょ、今日は調子が悪いぜっ!』って叫びながら布団被って頭隠してる」
「尻は?」
「凄く出てた」
頭隠して尻隠さずを体現しているドゥムガに異変を感じ取ったか。ドゥムガの実力は、まだこの魔力反応に気付ける段階ではない。しかし、直感的に身体が反応したという事か。
だがそろそろ――、
『こ、こらお前たち! やめ、やめるんだ! あっ!』
外から聞こえたのはラジーンの声。
彼の制止を振り切ってここに入って来られる存在はそう多くない。
バコンと蹴破られた扉。
「入るよ」
元首ってこんなに雑に扱われるもんなんだ、と思われてしまっては困るんだが、彼ら相手なら仕方ないのだろう。
「何だよ
「アタシたちの緊急事態とアンタの雑談のどっちが重要なんだい」
ナガレの悪態。
すると、ナガレの後ろからウチの暗部がゾロゾロと現れた。
「お前たちの緊急事態と俺たちの雑談はきっと同じ話だよ」
ナガレ、サブロウ、カンザス、ノエル、メディック、ホネスティが立ち並び、窓の外からはグラムスとパーシバル、それに
「
俺が聞くと、サブロウが答える。
「なんぞ知らんが、あの仔龍は『大丈夫だ』と言っておったな」
「
ナガレの補足にリィたんが口を尖らせる。
「ほぉ、今の
「何事も修行だな」
ジェイルが腕を組みアスランを称える。
「それよりも気になる事があるんだけど?」
「何だよ?」
ナガレの鋭い目つき以上に気になる事。
「何でナタリーの後ろに整列してるの?」
「ふん、条件反射だよ」
何が条件反射なのかわからんが、ナタリーの指導が行き届いているという事は理解出来た。
「ねぇ、ナガレ」
そんなナタリーがナガレに聞く。
「……何だよ?」
「何が起こってるの?」
それに答えたのはカンザスだった。
「強い魔力がこちらへ向かってるんですよ」
「え? じゃあ皆がここに集まってるという事は……」
「退避行動と言っても過言ではないですねぇ」
それ、髪をかき上げながら言う事だろうか?
「ひひひひ、強い者が現れた時、群れのボスに子分が集まるのは本能と言って差支えない」
メディックの補足は暗部の役割としてどうなのか、とも思うが、リィたんやジェイル、それにフェンリルまで集まって来ているという事は、やはりそれだけ緊急事態という事だ。
「ミケラルド様、逃げる準備は既に」
ノエルって真面目だよな。
「だめだめ、ミナジリ共和国から逃げる時は世界の終わりを悟った時だよ。あ、ホネスティ。お客さんが来るから歓迎の準備をお願い」
「歓迎……ですか?」
「フリじゃないからな。友好国の王族が来ると思え。ただ、出迎えは
「この魔力を前に一人で立て、と?」
「大丈夫だよ、何もしてこないから」
「命を張る理由としては些か情報不足かと」
まぁ、そうなるわな。
近付いて来たのが誰かわからない以上、ホネスティにすら荷が重い。でも、彼らがここまで来ればわかっちゃうんだな。
まずは――、
「炎龍ロードディザスターの【ロイス】に……イヅナさんとオベイルさんが乗ってるね」
「え、ロイスが?」
ナタリーの驚きをよそに、リィたんが聞く。
「それだけではないだろう、ミック?」
「うん、【地龍テルース】、それに木龍グランドホルツの【
皆が絶句する中、俺はぬるくなったお茶を啜る。
ジェイルは雷龍シュガリオンかと思っていたようだが、これだけ強い魔力を保有している強者が集まるのだ。そう思ってしまって無理もない。
だが、ここにリィたん含む四色の龍が集まるとなると……それはもう予兆と言うべきなのかもしれない。
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