◆その612 姫2
サマリア公爵家のレティシアが眠たい目を擦っている頃、一つ部屋を隔てた正規組の部屋では、リーガル国の王女が既に準備を整えていた。
髪の毛をまとめて縛り、薄い化粧と紅。たとえ実技があろうとも、貴族の身だしなみはこれまでと変わる事はない。
ルナ王女が紅茶が入ったカップに口を付ける。丸いテーブルを囲うのは四人の達人。
「
「「はい、ルナ王女殿下」」
一糸乱れぬ挨拶に、ルナ王女が目を丸くする。
(何度聞いても違和感しかありません。けれどこの【
ヒフミヨシスターズの顔がぐりんとルナ王女に向く。
「「何かお困りでしょうか?」」
「ひっ!? あ……いえ、その――」
「「――どうぞ何なりとお申しつけください」」
「えーっと……あなた方はどうやってそんな力を得たのでしょうか? 私も力を求める者。皆さんの実力はどうやって培ったものなのか知りたいのです」
これを聞き、ヒミカがヨミカと、フミカがミミカと見合う。
「どうしましょうヒミカお姉さま」
「そうねヨミカ」
「どうしましょうフミカお姉さま」
「そうねミミカ。ヒミカお姉さまに聞いてみましょう」
「「どうしましょうヒミカお姉さま」」
やがて、フミカとミミカもヒミカを見る。
そして、長い沈黙の後、ヒミカが口を開く。
「………………困ったわね」
「「っ!?」」
三人の妹たちは、頬に手を当てて困るヒミカを見て驚きを露わにする。
「ヒミカお姉さまがお困りよ、ミミカ」
「ヒミカお姉さまがお困りです、フミカお姉さま」
「ヒミカお姉さまがわからないのであれば、我々にわかるはずもない」
「いえ、そうではないのよヨミカ」
ヒミカがヨミカの言葉を止める。
「っ! ではどういう事でしょう?」
「ルナ王女殿下のご質問に答えていいのかどうか。わからないだけです」
「「おぉ」」
抑揚のない三人の驚き。
ルナ王女はこれを気まずそうに見ている事しか出来ない。
「「確かにその通りですね、ヒミカお姉さま」」
三人の妹の同意を得られた事で、ヒミカはコクリと頷きルナ王女を見る。
そして、懐から一冊の冊子を取り出しルナ王女に見せたのだ。
「ルナ王女殿下、こちらのミケラルド式指令書を確認し、ご希望の質問に答えられるか検討したいと思うのですが、いかがでしょう?」
「ど、どうぞ……」
「「おぉ」」
抑揚のない四人の驚き。
「許可が出ましたね、ヒミカお姉さま」
「えぇ、早速読んでみましょう、フミカ」
「ルナ王女殿下からの指示があった際の『きゅうあんどえい』は、確か二十四ページ目です、ヒミカお姉さま」
「ありがとう、ミミカ」
「あ、そこです! そこに書いてありますよ、ヒミカお姉さま」
「えぇそうね、ヨミカ。…………なるほど、わかったわ。ミケラルド様はこう仰ってるわ。『ルナ王女殿下からの指示で困った際は、ルナ王女殿下護衛の大前提に従え』とあるわ」
「「……ルナ王女殿下護衛の大前提」」
一糸乱れぬ四人のルナフォーカス。
「あ、あの……そ、そんなに見ないでください……」
頬を赤らめ、困り顔のルナ王女をよそに、フミカが言う。
「ルナ王女殿下護衛の大前提は二ページ目です、ヒミカお姉さま」
「流石ね、フミカ」
「第一項に書かれています、ヒミカお姉さま」
「素晴らしいわ、ミミカ」
「第一項です、ヒミカお姉さま」
「大事な事だから復唱は必要よね、ヨミカ。……なるほど、わかったわ。大前提には『ルナ王女殿下の健康と精神衛生を最大限配慮する事』とあるわ」
「「ルナ王女殿下の健康と精神衛生を最大限配慮する」」
一糸乱れぬ四人のルナフォーカス。
「だ、だからそんなに見つめられても……!」
「ルナ王女殿下は、我々が先程の質問に答えなかった場合、お困りになるでしょうか?」
「うぇ?」
「「とても良い質問です、ヒミカお姉さま」」
三人の妹たちが声を揃える。
「護衛対象がお困りになるのであれば、我々は答えなければなりません。いかがでしょうか」
四人から向けられる八つのじーっとした視線。
その視線を向けられ、少し考えた後、ルナ王女はこう言った。
「……そうですね、その質問に答えて頂けないと、今日の授業中その事が気になってしょうがないと思います」
してやったりという顔をしたルナ王女だったが、その絶妙なタイミングで部屋にノック音が響く。
扉の外から聞こえるミケラルドの声。
『ルナ王女殿下、ルークです』
聞きたい事が聞けないともどかしさを露わにするルナ王女。
「んもうっ」
そう言いながら立ち上がり、ルナ王女は鞄を持って扉を開ける。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
ミケラルドとレティシアの挨拶の後、ルナ王女の背に四人の声が掛かる。
「「ルナ王女殿下」」
「はい?」
ルナ王女がくるりと振り返り、ヒフミヨシスターズが言う。
「「我々は元
四つのお辞儀が揃うと共に、ルナ王女から零れるたった一言。
「ぇ?」
本日の授業中、ルナ王女の気が散漫だったのは、そんな理由があったとかなかったとか。
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