◆その610 コミ龍ケーション2

 龍たちの茶会は続く。

 お茶をひとすすりし、ホッと一息吐くテルース。


「心が落ち着くわね」


 茶葉の産地がミナジリであるだけに、ふふんと得意気な様子のリィたん。

 リィたんの嬉しそうな顔に呆れつつも、木龍クリューが言う。


「人間は時に我々の予想だに出来ないものを作る」

「えぇ、でも今回はとても興味深いものを作った。それは――」

「――龍族との交友。ミックを仲介し、我々龍族は人間の国と交友を持つ事になった。これは霊龍でさえ予想していなかった事だ」

「だから霊龍はミケラルド殿に興味を持った」


 木龍クリューとテルースの話を聞き、ピクリと反応するリィたん。


「……事実か?」

「えぇ、先日私に【テレパシー】が届きました」

「私にもだ」


 それを聞き、ガタンと立ち上がるリィたん。


「わ、私には届いてないぞっ!?」

「届く訳がないだろう」


 呆れた顔をして木龍クリューが言う。


「何故だっ」

「自分がいつもどこにいるのか考えてみるといい」

「……むぅ、確かに」


 リィたんは常に人間の国、法王国にいる。

 そして、その近くには必ずミケラルドがいるのだ。


「霊龍の【テレパシー】は龍族の魔力の反応して届く。リィたん以上の魔力を持ったミケラルド殿には、【テレパシー】が干渉してしまうって事」


 テルースの説明に、リィたんはむすっとしてまた椅子に腰かける。


「それで、霊龍は何と?」

「『楽しそうで何よりです。私もミケラルド殿と会うのが楽しみです』と」


 腰掛けたばかりのリィたんがまた立ち上がる。


「会うのかっ!? 霊龍がミックとっ!?」


 リィたんには珍しく、声が上ずっている。

 そして、くわっとした顔で木龍クリューを見るリィたん。


「私も似たようなものだ。『雷龍シュガリオンとの再戦が先かもしれませんね』とも言ってたな」


 ついには壁に追いやられるリィたん。


「来るのかっ!? また雷龍がっ!?」


 きんきんに高い声である。


「来るだろうな。そもそも雷龍がミックを襲ったのは霊龍の仕業だからな」

「い、いや……確かにミックもそんな事を言ってたような……」

「私が指摘した。安心しろ、今回はちゃんと霊龍の言質をとった」

「何故ミックを……いや、わからなくはないが……でも――」

「――霊龍はミックを試している。そう言えば理解出来るか?」

「…………肝が冷えるな」

「別に霊龍がミナジリ共和国に会いに来る訳ではない」

「どういう事だ?」


 木龍クリューの説明に細くするようにテルースが言う。


「逆よ、ミケラルド殿が霊龍に会いに行くという事」

「ミックが……霊龍に? 霊龍はそれを?」

「えぇ、予感しているようね。ま、その前に雷龍シュガリオンね」

「はぁ……」


 深い溜め息を吐いたリィたんが、疲れを示すかのようにまた椅子に腰かける。

 それを見た木龍クリューがニヤリと笑い、ティーポットからリィたんのカップにお茶を注ぐ。


「呑むといい。これは水龍リバイアタンが持って来たミナジリ産の茶だ。リラックスできるぞ」

「くっ、嫌味が過ぎるぞ」


 そう言うも、木龍クリューには一切響かない。

 当然、木龍クリューを呼んだテルースにリィたんの矛先しせんが向かう。


「一度この三人でお茶を呑んでみたかったの」


 最早もはや定型文のようにそれを返すテルース。

 カップを置きまたホッとひと息。


「おいし」


 それを区切りと見たのか、木龍クリューが別の話題を振る。


「リィたん、そっちでは魔人やラティーファの動きは?」

「ん? いや? 私とミックも調べてはいるが詳細な事は何もわかっていない。それよりも気になるのはあのファーラの魔力の影響だ。一体どうなっている?」


 リィたんがムキになるのには理由がある。

 魔族四天王たちの奸計とも言うべき聖騎士学校への吸血鬼ファーラの派遣。事実、ファーラは魔力を特殊な形状にし、知らずに世界のモンスターの餌となっていた。ミケラルドの機転により木龍クリューに相談し、それをやめさせたものの、少なからず法王国に影響が出ると思われていた。

 しかし、ミケラルドと木龍クリューが各国を捜索するものの、モンスターに影響が見られなかったのだ。


「それは私が聞きたいくらいだ。私が調べた時、確実にモンスターは反応していた。しかし、以降はサッパリだ。これまで同様平穏そのもの」

「……まさか、それも霊龍が?」

「ハハハ、それはない。霊龍が人間界に干渉するような事は絶対にない。ミックが特別なだけだ」

「むぅ……」


 リィたんが唸るも、答えは出ないまま。

 そんな中、テルースが思い出したように声をあげた。


「あ」


 問題が問題なだけに、二人ともテルースを注視する。


「そうだわ、アスランをミナジリ共和国に行かせましょう」


 リィたん、木龍クリューの話など一切なかったかのようなテルースの物言い。二人がガクリと肩を落とすには十分な理由と言えた。


「……何故、そうなった?」

「何故も何も、子供の安全を考えるのが母というものよ」


 リィたんがそう聞くも、テルースは穏やかな口調で返す。


炎龍ロイスも法王国で社会勉強してるって聞くし、悪い事ではないでしょう?」

「確かにそうだが、ウチには元闇人やみうどが沢山いてな」

「では、その者たちを圧倒出来るまでは帰って来ないように命じましょう」

「テルース、お前ミックに大きな借りがあるだろう?」

「だからここでまた借りて、いつか返す機会があればまとめて返そうかなと」


 テルースの発言に、これまでほとんど目を合わせなかった木龍クリューとリィたんが見合う。

 またお茶をひと呑みしたテルースが、その風味にまた微笑む。


「おいし」

(仔龍とはいえ、地龍がミナジリ共和国に常駐する意味……テルースはこの意味を本当にわかっているのか?)


 木龍クリューはその経済効果に戦慄し、


(いや、テルースの事だ。それは頭にないだろう。だとしたら、ミックは絶対にそれを「貸し」だと考えるはず……)


 二人の性格を知っているリィたんがその答えに行き着くのは必然と言えた。


((どちらにしろ、霊龍がミックに興味を持つ理由がわかるな))


 世にも珍しい龍たちのコミュニケーション。

 今後この二人はちょくちょくテルースの下に顔を出す事になる。

 しかし、木龍クリューが行けばリィたんがおり、リィたんが行けば木龍クリューがいるという不思議な構図になる事を、この三人はまだ知らない。

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