◆その606 燃え盛る炎
両の手に持つ双剣。繰り出される無数の斬撃。
オリハルコンズの一人――ハン。
対するはハンの古い馴染みであるラッツ。両手剣の大きさを利用しハンの攻撃を防ぐ。
「ふん!」
下段からの振り上げにより、ハンの双剣が押し返される。
「つぉ!? ったく、なんつー重い一撃だよ!」
双剣を鞘に納め、痺れた手をプラプラさせるハン。
「お前の抜け目のない動きには感心する」
ラッツも両手剣を背の鞘に納め言う。
「はっ、鎧の継ぎ目を狙うなんざ常識だろ。でも、そこを狙わせないのがお前だ」
「おかげで鎧が傷だらけだ」
ニヤリと笑うハン。それをジトっとした目で見るのは、二人の良く知る女。
「……で? その傷ついた鎧の修繕費はどこから出るの?」
「ぐぅ!?」
痺れた手以上の痛みがハンの心臓を抉る。
ラッツはその指摘にぐうの
「だから木剣でやっときなさいって言ったのよ!」
二人を指差して怒るキッカ。
「いや、だってよぉ……」
「だってもかってもないの! ただでさえ経費が
言い逃れ出来ない状況にハンが思い出したように言う。
「そ、そうだ! ミケラルドさんからオリハルコンズ用の経費いくらか回してもらっただろ? アレを使って――」
「――アレはどうしても必要な時にしか使わないって決まったでしょ! それとも何? いつまでもミケラルドさんにおんぶにだっこでいいのっ!?」
「……よ、よくないです」
「そう、
「その通りです……」
肩を落としたハンを見て、ラッツがキッカに言う。
「しかしキッカ、武闘大会に向けての最終調整だ。これくらいは何とかなるだろう」
武闘大会という大義名分を掲げられては、キッカも考える他ない。
「うーん……まぁ、調整日に開けておいた日に一回くらい依頼をこなせば何とか」
「うむ、そうしよう」
「はぁ……ラッツがそう言うなら仕方ないか……」
ラッツの提言により、キッカが珍しく折れる。
それをみたハンがラッツに耳打ちする。
「何でお前のいう事だと聞くのかね?」
「さぁな」
「あぁ? 最近仲睦まじいって噂が立ってらっしゃいますけど身に覚えはございません事?」
「そ、そんな事は……ない」
「聖騎士学校の正規組の姫さんが町でお前たちを見たって話は?」
「あれは……その」
「俺は誘われてないんだけども?」
仄かに赤く染まるラッツの頬。
咳払いをして誤魔化すも、ハンのジト目は止まらない。
「そんなんで誤魔化せるとでも?」
「さ、さて……武闘大会まで一週間を切った訳だが、各々準備は済んでいるか?」
「はぁ……しゃあねぇ。誤魔化されてやるか。まーあれだ。準備って言っても、今年は法王国で開催するからな。特にやる事は変わらねぇよ」
「キッカは大丈夫か?」
「んー? こっちは超大変よ」
「あん? そんな準備が?」
ハンが聞くと、キッカは呆れた様子で言った。
「防具の手入れや体調の調整ばかりが準備じゃないでしょう。今年から戦士部門、魔法使い部門に分かれるからもう大変よ。各属性魔法の対策を練って、要注意人物の日常生活の癖すら追って、魔力効率のいい魔法発動を身体に叩き込んでと大忙しなの。わかる?」
「日常生活の癖って……そんなに重要か?」
「
「魔法使い部門だと……」
「聖女アリス」
「まぁそうなるわな。身内だけど」
「アリスちゃんのアドバンテージはやっぱりあの底知れない魔力よね」
「キッカと同じ光魔法と火魔法を扱う強敵だな。後は……
「あの子も聖騎士学校に入ってから強くなってる。特に、人間には珍しい土魔法を使うのが厄介よね……って、ラッツ、ハン! あなたたちはどうなのよ!?」
自分の言葉ばかりで、他の二人の話を聞いていないキッカ。ラッツはハンと見合い、そして小さく唸った。
「んー、同じく
ラッツの言葉にハンが頷く。
「リーファとエリオットは参加しないらしい。その代わり、ダインとタバサへのバックアップに余念がないように見えるな」
「確かに。しかし私が知る中で一番の強敵は……――」
肩を
「――またもや身内」
「シェルフのプリンセスガード、クレア殿」
よく知る仲間の名前に、キッカが大きく溜め息を吐く。
「よくもまあ、難敵を身内に作るわよね……ミケラルドさんって」
それに同意を示すハン。
「ちげぇねえ」
しかし、ラッツだけは違う回答を述べた。
「強者には強者が集まる……か」
「そりゃお前、自分が強者だって自慢か?」
ハンがからかうも、ラッツは苦笑して首を横に振る。
「我々を集めたのはミケラルド殿だ。しかし、メアリィ殿とクレア殿はそうではない」
「んー、まあ自然と集まったとも言えるか」
「ともあれ、強敵には変わらない。ひたむきにランクSを目指すだけだ」
「だな」
緋焔からオリハルコンズへ。
ラッツとハンの二度目の挑戦。そしてキッカの初挑戦。
壁は高く険しい。だが、それを乗り越えてこそのオリハルコンズなのかもしれない。
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