◆その598 子連れ剣鬼2

 冒険者ギルドから指名依頼を受けた剣鬼オベイル。

 オベイルはミケラルドと違い、数多くの能力を持っている訳ではない。しかし、長年培ってきた情報網とその天性の勘は他の追随を許さない程だ。

 裏路地にいたゴロツキの胸倉を掴み、ちょっと凄めば情報はいくらでも出てくる。


「ほぉ、じゃああれか? 闇人やみうどの隠しアジトの一つで人身売買が行われてるって話か、おい?」


 ボコボコにされたゴロツキが震え、涙目になりながら首をブンブンと縦に振る。


「場所は?」

「し、知らねえ! 知らねえよぉ!」

「知らなくても知ってる奴くらい知ってるって顔してるぞ? お?」


 震えるゴロツキの目からその情報を読み取ったオベイル。


「い、いや! それは! それだけは言えねえ! 俺が殺されちまうっ!」

「今死ぬのと、後で死ぬかもしれないって差だけだろうが? 今なら即死コース、後ならお前を殺す奴を俺が倒してるかもしれない。自分にとってどっちが正しいかくらい、すぐにわかる。だろ?」

「ひ、ヒィ!?」

「今か、後か。さぁ選べ」


 ここでオベイルの殺気が最高潮へと至る。


「食っちまうぞゴラァ!」

「レ、レントン一家のナターシャって女だ! あいつは闇の窓口の一人なんだ! 頼むから食べないでくれぇ!!」

「食うわきゃねぇだろ」


 言いながら、オベイルは大剣バスタードソードの面で、ゴツンとゴロツキの頭を叩いた。パタリと倒れるゴロツキには目もくれず、オベイルがスンと鼻息を吐く。


「レントン一家か。次ぃ、悪さしたら容赦しねぇって言ったはずだが……ま、忠告はしたしな。今日が命日になったってそりゃレントン一家のせいだ」


 ニヤリと笑ったオベイルは法王国の南端にあるレントン一家の根城へと向かう。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 法王国の西、、、、、

 リィたん、イヅナと共に歩く赤髪の少女。

 少女は物珍しそうにキョロキョロと周りを見渡し、ポカンと口を開けている。


「お~、人間が沢山なのだ!」


 くりっとした目を輝かせる少女を見、イヅナがリィたんに言う。


「まさかロイスの人化がこうも簡単に出来るとはな。リィたん殿、感謝する」

「龍族は長寿。というより長く生きなければならない宿命にあるため、人間への偽装能力が備わっている。私は簡単な手解きをしたまで。人化のキッカケを与えたに過ぎないという事だ」

「ほぉ、そんな事が?」

「もっとも、私も木龍グランドホルツから聞いた話だがな」


 肩をすくめ、小気味よく笑うリィたん。


「ほっほっほ、長寿の龍には他の龍も敵わぬと見える」

「他の龍が束になっても敵わぬ存在もいる」

「確かに、しかしまだ雷龍シュガリオン殿がいるのではないか?」

「奴との決戦は近い。ミックも準備に余念がないようだ」

「そういえば、『忙しい』と言っていたな。何かあるのかな?」

シェルフ、、、、折衝せっしょう中らしい」

「雷龍シュガリオンとの決戦準備に……シェルフ? エルフの国が何故?」

「それがな……」


 リィたんが深刻そうな顔をする。

 イヅナはこれをただ事ではないと察し、険しい表情を見せる。


「一体、何が……?」

「私にも教えてくれないのだ……!」


 物凄く悲しそうな表情をした後、リィたんは自身の顔を手で覆った。


「くっ、何故だミック……! この私にも教えられないというのか!」

「……ほ、ほっほっほ」


 イヅナは反応に困り、ただ笑みだけを見せた。


「いくら聞いても『ひみつ~』だぞ! 少しくらい教えてくれてもいいじゃないか、なぁイヅナ!」

「そ、そうだな……」

「ナタリーやジェイル、ロレッソですら知らないそうだ。ミックの忠言がなければ直接シェルフに乗り込むところだ……!」

「釘を刺されたのか」

「何故かバレていた」

「どんどん読めなくなってきているな、ボンは」

「まぁ、ミックが誰にも言えないというのであれば、それはよんどろこない事由じゆうがあるというだけ。それに、ミックの笑みが『楽しみに待っていろ』という様子でな」

「ならばあるじを信じて待つ他あるまい。それが家臣の務めでもある」

「……そうかもしれんな」


 諦めがついたように言ったリィたん。

 イヅナは顎を揉み思案にふける。


(シェルフ、か。折衝中という事はもしや……? ん?)


 しかし、その思案も途中で止められてしまう。

 何故なら、会話に夢中になるあまり――、


「そういえば、ロイスはどこへ?」

「何だイヅナ、見ていなかったのか? あの裏路地に入ってしばらく経つぞ」


 リィたんが指差した裏路地への曲がり角。

 二人がそこまで歩いてみると、そこはとても入り組んだ場所だったそうな。


「リィたん殿、【探知】は?」

「……ふむ、どうやら地下に入ったようだな。反応しない」

「やれやれ……」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 薄暗い地下道を嬉しそうに歩くロイス。

 その前後を固めるのは人相の悪い強面の男たち。


「な? な? 美味しいお菓子というのはどんなやつなのだ!?」

「とーっても甘いやつだよー」

「そうか! 楽しみなのだ!」


 ニタニタと笑う男たちに囲まれ、ロイスは陽気にスキップをするのだった。

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