その595 親子

「あぁ……!」


 仔龍アスランに駆け寄る地龍テルース。


「母上っ!」


 親に似てとても真面目なアスラン君は、救出、回復の後、俺に深い謝意しゃいを見せ、母との再会を心待ちにしていた。

 魔族四天王魔女ラティーファと魔人を追い詰め、アスランを救出したのち、しばらくテルースとアスランを会わせられなかった。

 その理由というのは【ときの番人】の残党が原因だった。

 捕まったシギュン、クイン。逃げおおせたエレノアラティーファ、魔人を除き、俺が血を吸っていないのは、魔皇ヒルダを監視している【メディック】、各地で闇の資金を作っている【ホネスティ】、そして地龍テルースをこき使っていた【カンザス】である。

 この三人は放置出来ないとし、俺は部下の【サブロウ】、【ナガレ】、【ノエル】や、その失われし位階ロストナンバーたち、拳鬼ようするハンドレッドの情報網を最大限に使い、奴らの血を吸う事に成功した。

 これが成る事で、地龍テルースはようやく子供のアスランに会う事が出来たのだ。

 これで、事実上闇ギルドは崩壊へと至った。

 ラティーファと魔人が逃げた先はおそらく魔界。

 ようやく人間界の膿を掃除出来たのだが、全てではない。俺が吸血出来ていない闇人やみうどもいるだろうし、ラティーファや魔人に付いていた失われし位階ロストナンバーもいるだろう。

 しかし、それでも大きな戦果と言えるだけの結果が残せた。

 とりわけ、あの地龍テルースと仔龍アスランの涙と笑顔は最高の報酬と言えるだろう。


 闇ギルド解体――終わって見れば呆気なかったが、仔龍アスランの救出、シギュンの捕縛がなければこんなにも簡単に終わらなかっただろう。

 ラティーファと魔人の今後の動向も気になるところだが、俺としてはミナジリ共和国の戦力が増えた事を喜びたいところだ。

 癖の強い闇人やみうどたちだが、その実力はピカイチ。

 変装、奸計、侵入となんでもござれの【ときの番人】は、クロード新聞で壊滅と報じているが、実際にはミナジリ共和国の最低賃金で社会奉仕する暗部配属となった。これを知ってるのはミナジリ共和国の主要メンバーと法王クルス、アイビス皇后、アーダインである。

 流石にこれを言いふらす事が出来ないのが実情だ。

 暗部に所属した【ときの番人】は【サブロウ】、【ナガレ】、【ノエル】、【カンザス】、【ホネスティ】、【メディック】の六人である。また、これとは別口で【拳鬼】が所属した。

【デューク・スイカ・ウォーカー】の存在は公にされていない事から、今後【ラティーファ】や【魔人】と会った時に使えるかもしれないと模索しているが、相手も慎重になっているだろうから、どうなるかは不明だ。

破壊魔はかいまパーシバル】はミナジリ共和国の庇護下に入り、【魔帝グラムス】という師匠からの出来高制のお小遣いシステムを導入され、日々【フェンリルワンリル】と共に仏頂面で哨戒任務に当たっている。

 ここまでで十人。最後の二人、【クイン】と【シギュン】に関してだが――、


 ◇◆◇ ◆◇◆


「出せぇ! 出せぇ!! ここから……出せぇっ!!」


 ガンガンとオリハルコンの檻を叩き、枯らした喉で叫ぶ巨大な女――クイン。

 とはいうものの、【マジックドレイン】のマジックスクロールが上手く働き、彼女の力はあっても一般成人男性程度。通常の檻ですら十分なレベル。

 そこまで力を抑えられ、出口のないオリハルコンの牢屋に閉じ込められたというのに、クインは脱出を諦めていない。ここがときの番人たる所以なのだろうか。正に鋼の精神力である。

 拘束具は外され、自死すらも不可能な状況下、互いに交流を持たせる事は危惧されるとして、クインの隣の牢にはシギュンがいない。

 そう、シギュンは更に奥の牢へと移されたのだ。

 クインを横切り、奥の扉へ。

 立ち上がり敬礼して俺を迎える【最強の牢番オルグ】。


「これはミケラルド様!」


 俺は小さく手を挙げて挨拶をする。


「……外しますか?」

「えぇ、そうして頂けると助かります」

「はっ!」


 実は、オルグを牢番にした理由は、何もオルグのメリットだけではない。

 シギュンの視察と同時に、オルグのメンタルチェックが出来るからだ。

 オルグが出て行くと、背を向けていたシギュンがこちらを向く。

 なるほど、オルグには顔を見せていないようだ。


「何の用かしら」

「別に、話し相手に困っていらっしゃるだろうと思って」

「嘘」


 相変わらずだ。シギュンのこの洞察力には本当に恐れ入る。


「えぇ、嘘です。お二人の観察ですよ」

「相変わらずね。貴方のその抜け目ないところには本当に恐れ入るわ」


 どこかで聞いた事のある言葉だ。


「どうやらオルグさんにはあまりいい顔をされていないようですね」

「私、無駄な事はしない性質たちなの」

「お、当たりです。シギュンさんがこちらを向けば、微笑んで見えるようになってますんで。この檻」

「……本当に、腹立たしい程むかつく男ね」

「男の子です。まだ四歳ですから。それに、そう言う割には怒って見えませんよ?」

「言ったでしょう、『無駄な事はしない』って。怒る事で何か変わるならとっくにやってるわ」

「それは残念、シギュンさんの怒った顔……結構好きだったんですけどね」

「それはどういう意味、、、、、、?」

「勿論、そういう意味、、、、、、です」


 ニコリと笑った俺を、シギュンがどう見たのかはわからない。

 だが、先程とは違う様子で零すように言ったのだ。


「……ホント、嫌な男」

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