その517 集う戦力
「ほい、着きましたよ」
リプトゥア国の空き家に転移した俺たち。
聖女アリスは窓から外を眺めホッと一息吐く。
「ここがリプトゥア国……」
対して勇者エメリーは複雑そうな表情である。
「それにしても……ここは?」
アリスの問いは至極当然なのだろう。
「ミケラルド商店の候補地ですが、今は空き家です」
「空き家? お金の
吸血鬼はお金の
「間接的とはいえ、リプトゥア国に内乱を引き起こしたのはミナジリ共和国ですからね。まだ時期じゃありませんよ」
「そういう事でしたか」
リプトゥア国にはゲオルグ王の圧政を憎んでいた者は多い。
しかし、そういった者たちは大体ミナジリ共和国に流れて来た。
リーガル国の属国となりはしたものの、俺の事をよく思っていない者も少なからずいる。だからこそ、この時点でミケラルド商店をリプトゥア国に置く事は出来ないのだ。
「まぁ、この戦争が終われば出店するつもりですけどね」
「へ?」
「リプトゥア国に大きな貸しが作れますから」
「うわぁ……悪い顔」
つまり、顔は悪くないという事なのでは?
相変わらずなアリス。エメリーは、というと?
「あの、この後はどうするんですか?」
小首を傾げ、進行役を買って出てくれた。
この中で、エメリーが進行役というのもおかしな事態かもしれない。
いや、それだけで異常事態かもしれない。
「北東に前線基地を設営しました。そこに戦力を結集し、魔族を迎え撃ちます」
「へ? では何故
「最後の戦力を求めに」
「「最後の戦力?」」
アリスとエメリーの声が揃ったところで、俺は一つ手を叩いて見せた。
「冒険者ギルドです」
◇◆◇ ◆◇◆
現在、各国の兵に大きな動きは見られるものの、民は知らない。
一部の情報屋には既に情報が出回っているが、半信半疑の者も多い。
しかし、リプトゥア国の民は知らなければならない。自国の窮地を。
それを穏便に、やんわりと伝えてくれるのが冒険者ギルドである。
首都リプトゥアの冒険者ギルド。ここには俺が贔屓にするギルド員がいる。
ギルドの扉を開けた瞬間、彼は俺を見て大きく目を見開いた。
人間の姿であるものの、この国でその姿を知っている冒険者は多い。つまり、ミケラルド・オード・ミナジリがリプトゥア国にいるという情報が、この時点をもってリプトゥア国に知られたと言っても過言ではない。
俺の笑み、そしてその隣を歩く勇者エメリーと聖女アリス。これを見て異常と思わない者は少ないだろう。
驚きに染まるギルド内でいち早く回復したギルド員が俺に近付く。
「お、お久しぶりです、ミケラルドさん」
「【ラスター】さん、お久しぶりです」
彼の名はラスター。
武闘大会の【開会の儀】で、剣聖レミリアと
そして、勇者エメリーに【勇者の剣(仮)】を届ける際にも助言してもらった事がある。
「エメリーさんも、お久しぶりです」
「ホント、お久しぶりです」
エメリーの表情もここに来ると和らいだ。
これはきっと冒険者ギルドという存在が、エメリーの心の支えになっているという事もあるのだろう。リプトゥア城内に軟禁されるまでは、ここがエメリーの戻る場所だったようなものだからな。
「それに……聖女アリスさんですね? 私はラスターと申します」
「アリスです、よろしくお願いします」
その一言により、アリスを知らなかった冒険者たちがざわつく。
詳細はわからなくとも、『何かが起きている』という事は彼らにも理解出来るのだろう。
「依頼をしたいのですが、奥を使わせて頂いても?」
それだけでラスターには伝わった。
俺、エメリー、アリスという強力な冒険者がいても解決出来ない問題を依頼しに来た。それはつまり大規模で高額な依頼。
それを理解し、目を輝かせる冒険者もいれば、不安や警戒を顔に見せる冒険者もいる。
ラスターに案内され、奥の応接室に入った後、ラスターと共にやって来た男はやや小柄な老紳士という印象だった。
「ミケラルド殿、エメリー殿、アリス殿、お初にお目にかかります。首都リプトゥアのギルドマスター【フレッゾ】と申します」
会釈の後、俺はフレッゾというギルドマスターと握手を交わした。
アリス、エメリーとも握手をかわしたフレッゾは、俺たちに着席を促すと共に椅子に腰を下ろした。
「アーダイン様より話は伺っております。魔族四天王の不死王リッチがオリンダル高山を越えて来ると」
この時、顔に緊張を走らせたのはラスターだけだった。
なるほど、ギルドマスターのところで情報が止まっていたのか。いや、止めていたというのが正解か。
見たところこのフレッゾ、
ここは強力なモンスターの多いリプトゥア国。実力者でなければギルドマスターは務まらない。冒険者ギルドの人材も豊富だな。
「その際、ミケラルド殿より依頼があるはずだ、と聞きしました。是非、お話をお聞きしたい」
兵一万三千、そして冒険者ギルドへの大規模依頼。
集いつつある戦力と、迫りくる脅威。
――開戦の時は近い。
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