その516 戦地に赴く四歳児
「現在、エメラさんの捜索隊が組まれ、西の山にまで手が伸びたところです。
淡々と言うロレッソを前に、俺は沈黙を貫いていた。
「また、リプトゥア国に割く戦力、この選別も先程終えたところです。聖女アリスの【聖加護】を考慮し、ラジーン率いる遊撃担当の大隊二千およびドゥムガ、サイトゥ率いる魔族の独立中隊が二部隊。これが一部隊あたり二百で構成されています」
「……二千四百か」
「建国したばかりのミナジリ共和国が担う人数としては誇れるべき数かと」
「リーガル国は五千、ガンドフは三千……これで一万四百」
「そして、先程連絡のあった――オルグ聖騎士団長率いる法王国の聖騎士六百と騎士団二千」
「一万三千」
「シェルフは食料などの後方支援。各国が協力した連合軍は世界初と言えるかもしれません。特に、聖騎士を動かせたのは非常に大きいかと」
「勇者エメリーと聖女アリスが動くんだ。これで動かなかったら聖騎士団の存在意義を問いたくなるよ」
「それでも、法王陛下には骨を折って頂きましたね」
「シギュンとクインも動かしたかったところだが、オルグがシギュンに『手薄になった法王国を魔族が狙う可能性』を示唆されて言いくるめられたんだろう。まったく、闇ギルドの存在がここまで厄介だと困りものだな」
「事実上の半壊……ではありますが、奴らはそれに気づいていません。しかし、闇ギルドの用心深さがここにきて顕著に見え始めた……」
「奴らがエメラさんを盾に俺に戦争をやめさせる可能性は?」
「ありません」
ロレッソの言葉に俺は口を尖らせる。
「言い切ったな」
「その連絡を届けるとすれば間違いなくミナジリ共和国の中枢。ここです。戦地に赴いたミケラルド様に近付き、これを知らせる手段やリスクを考えた時、それが一番堅実であり、無難。我らはミケラルド様と連絡をとる手段がありますから」
「間接的に知らせてもそれは同じじゃないのか?」
「そのための私です」
「ん?」
「私がエメラさんと戦争の被害を比べた時、どちらに傾くべきか判断するからです」
ロレッソは真っ直ぐ俺を見ながら淡々と言った。
これは、ロレッソなりの答えなのだろう。
「つまり、ロレッソがそれを握り潰し、『連絡は俺に届かない』と」
「……
「……まったく、ナタリーには聞かせられないな」
「起こり得ないと確信しているからですよ。闇ギルドは私の性格を知っているでしょうから」
「だとしても、だよ」
「ミケラルド様のお傍に仕える時、これは覚悟していた事ですから」
「嫌われ者を買って出るか」
「私の場合、守護神の逆鱗に触れそうではありますが」
「まぁ、もしそうなったらリィたんはロレッソを許さないだろうな」
「無論、本当にエメラ様が誘拐されていればの話です」
「確かにね」
ロレッソの性格を考えれば、たとえ本物のエメラが誘拐されていても同じ事をするだろう。これはやはり、ロレッソなりの覚悟なのだろう。
世界かエメラさんか……確かな政治的視点を持つロレッソならば当たり前の判断。
「ふむ……そろそろ時間のようですね」
「だな。それじゃあアリスとエメリーを迎えに行って来る。ミナジリ共和国は任せた」
「身命を賭して承りました」
深々と頭を下げるロレッソを背に、俺は再び法王国へと転移した。
二人との待ち合わせは、女子寮の裏手。
その
「あれ? どうしたんですか、お二人とも? なんかこう……覚悟を決めた乙女って感じのオーラがビンビンですよ?」
そう、その表情は険しく硬い。
ならば、俺はいつも通り道化を演じるだけなのだ。
カクンと反応する残念なモノを見る目をしたアリスが俺に言う。
「はぁ、私の覚悟が台無しです……」
「あ、ははは。ミケラルドさんはやっぱりいつも通りなんですね。何だか安心しました」
そう言うも、エメリーは気付いている。俺のこの仮面に。
これはエメリーなりの配慮なのだろう。
「さぁ、ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと終わらせましょう。お二人とも、私にしっかり捕まっててください。あ、エメリーさん。もうちょっとギュッとお願いします」
「あ、はい。こうですか?」
エメリーの腕が俺の腹部に回ろうとする瞬間、
「へ?」
エメリーがアリスに引っ張られた。
「そんな事しなくていいはずですけど?」
チッ、勘の良い聖女だぜ。
アリスはエメリーの肩に手を回し、俺からエメリーを守っているようだ。
聖女と勇者の立ち位置が逆では? いや、でもこれもこれで悪くないのか。
一部の需要はありそうだ。
……ん?
「アリスさん、何ですか
「見てわかりませんか? 杖です」
言いながらアリスは俺に杖の先端を向けている。
「杖ですね」
「そこを掴んで頂ければ大丈夫かと」
「あれー? 何で知ってるんですか?」
「ナタリーさんに聞きました」
こんなところにもナタリーの息がかかった存在が……!
二人の美少女に抱き着かれながら転移。それだけを糧に今日を頑張って来たのに、幾多のモンスターを葬ってきた杖の先端を掴まなくちゃいけないとは一体どういう事か。
がしかし、この徳を積み上げる事が今の俺には必要なのかもしれない。
そう全ては美少女、美女たちに囲まれながらベッドの上で死ぬために。
「なんかこう……歪んだ覚悟を決めた元首って感じのオーラがビンビンです」
まったく、日々成長していく聖女だこと。
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