その483 自分探し

 カンザスが慎重と言えるのは、必ず味方の誰かが、味方の誰かを見張っている事にある。正直、こっちがドン引きするくらい慎重である。

 俺の索敵範囲内にいる失われし位階ロストナンバーを確保したところで、その一瞬を他の誰かに見られてしまう。こうなればエレノアへの報告が優先されてしまい、俺の闇ギルドとしての立場は終わってしまう。

 当然、姿を変え接近する事は可能だ。しかし、俺が任に就いた途端……という但し書きが加われば話は別だ。

 やはり手を出せない。しばらくこの茶番に付き合う他ないのだろう。

 そう考えると、エレノアは【ときの番人】すら見張っていると言える。

 何とも厄介な組織である。


「さて、まずはデューク君と僕の任務の違いから話そうか」

「先程の話の続きですね」

「うん。どうやらデューク君は余程エレノア殿に信頼されているようだね」

「そうでしょうか?」

「僕の任務はミナジリ共和国の調査。しかし、デューク君は?」

「ミケラルド・オード・ミナジリの調査……」

「だろう? この世において奴に接近出来得る可能性を持つ者は限りなく少ない。僕のサポートメンバーでさえね」

「やはり、他のときの番人が?」


 俺が聞くと、カンザスが首をくいと茂みへ向けた。

 相変わらず殺気がびんびんである。リプトゥア国との戦争時に遠目で見てたけど、あの婆さんとは絶対に反りが合わないんだよなぁ。


「なんだいなんだい、また若造かい。使えるんだろうね?」


 ……【拳神ナガレ】。

ときの番人】にいる強者と言っても過言ではない実力者。

 こうして見ると、やはりSSSトリプルというよりZ区分ゼットくぶん寄りの実力を持っている。つまり、カンザス以上の実力は持っているという事だ。


「あの人がナガレ。もしかしてミナジリ共和国の魔法で見た事があるかもしれないね」

「【テトラ・ビジョン】……」

「そうそうそれ。勤勉だね。あぁナガレ殿、こちら新人のデューク殿」

「あの坊やも出世したものだね。監視任務だってのにときの番人が三人とはね」


 やれやれと腰を下ろし胡坐をかくナガレ。


「事実、実力で言えば我々を大きく上回りますからね」


 カンザスがそう言うと、ナガレが不服そうに言い返す。


「アタシがあんな坊やに負けるってかい?」

「地龍の話では、ミケラルド・オード・ミナジリの実力は龍族に匹敵すると」

「っ! ……ちっ」


 何を思ったか、ナガレはそこで黙り込んでしまった。

 すると、カンザスが小声で俺に言った。


「任務でこっちに来るなり地龍との戦闘訓練してね。すぐ負けちゃったから不満なんだよ」


 へぇ、龍族に挑もうとするなんてとんでもなく豪胆だな。

 まぁ、カンザスが縛っているからって理由もあるからだろう。野良の龍族に挑む度胸があるとは言えない……か。


「地龍はカンザス殿が?」

「あぁ、知らなかったのかい?」

「二つの任務をたらい回しだったもので」

「えぇ? 新たにときの番人が決まったのって最近だったよね? もう三つ目なのかい?」

「ふん、どうせ大した事ない任務だろうよ」


 悪態を吐くようにナガレが言う。


「炎龍討伐任務を失敗。パーシバル殿と共に木龍捜索をし、痕跡を見つけエレノア殿に報告をしたらこちらに回されました」

「……炎龍って今剣鬼と剣神が付いてなかったっけ?」

「へぇ?」


 ニヤリと笑ったナガレだが、今彼女と目を合わせてはいけない。

 あらぬ災難に巻き込まれてしまうだろうからな。


「立ちな若造、アタシがちょいと実力を見てやろう」


 目を合わせなくても強制イベントが起きてしまった。

 が、これを受ける訳にはいかない。受ければナガレは玩具のように俺を訓練相手にするだろう。


「そうはいきません。私にはエレノア殿の任務があります」

「……どういう事だい?」


 ナガレがカンザスを見て言う。


「どうやら彼、ミナジリ共和国の監視じゃなくてミケラルド・オード・ミナジリ個人の調査任務らしく、先程から同情していた訳です」

「こいつがぁ?」


 カンザスの言葉にナガレが怪訝な表情を浮かべる。

 ある意味、エレノアは俺の実力を認めた事になるからナガレがこうなるのも無理はない。


「エレノア殿からは『カンザス殿の協力を仰ぎミケラルドを調査しろ』と言われました。ここにナガレ殿もいるとは思いませんでした」

「ふん、相変わらず抜け目のない女だね」

「やはり、えて伏せられていたという事ですね」


 俺が言うと、カンザスが肩をすくめ言った。


「エレノア殿はそういうところあるからねぇ。我々を信用しているようでしていない。まぁ、新人だし用心するのも仕方ないさ」

「けっ!」


 ナガレはカンザスに対し悪態をついたようだ。

 まぁ、俺もそれには同意する。「お前も同じくらい用心深いだろうが」と言えるからな。


「……それじゃあ早速良いネタがあるよ」


 ナガレが言うと、カンザスが首を傾げる。


「潜入できそうなネタですか?」

「あぁ、豪商ドマークは知ってるね?」


 久しぶりに聞く名前だ。

 リーガル国の王商おうしょうの名前を挙げるとは、一体どういう事だ?

 俺とカンザスはナガレを見て頷く。


「奴がリーガル国で荷運びの人材を探している。納入先は勿論ミナジリ共和国……!」


 ついに始まってしまう。

 当てのない自分探しの旅が……。

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