その482 カンザス
北西の山での暗号とは俺が付けるものだ。
やり方は至ってシンプルである。指定された地域に俺が木々に傷跡を付ける。そう、熊の縄張りであるかのように。
いくつもの傷跡を付けた後、その傷跡が集約する位置で俺が待てばいい。
後はカンザス自身が俺を見つけ出すという訳だ。
一国の元首としてはミナジリ共和国で過ごす時間も限られている。こちらから捜せれば早くていいのだが、相手は闇ギルドの重鎮。そういう訳にもいかないだろう。
何せ、俺は【
焚火の火を風魔法で操りながら遊んでいると、周りに気配を感じた。
これは……
だが、この段階で接近に気付いてしまってはいけない。新人が
もう少し……もう少し……ふむ、ここらが
「何者だ?」
警戒しながら立ち上がり、岩肌を背にする。
すると、
なるほど、こっちがカンザスか。
俺は岩肌側へ振り返り、警戒を見せる。
「どういう訳だ? いつの間に移動した?」
ここらでこちらの勘違いを演出する事を忘れてはいけない。
「中々優秀な若者のようですね~、がしかし残念。野郎とは私もツイていない」
黄金の長髪をかき上げながら現れたのは欧米風というか、彫り深い感じの長身。骨格自体はそこそこ太く、青い瞳の優男。【
サブロウに聞いていたように慎重な男のようだ。
「……何者だ?」
だからこそ俺も慎重さを欠かない事が大事だ。
俺が警戒を解かずに言うと、カンザスは俺を指差して言った。
「いいねぇ~、そういう警戒は怠っちゃ駄目だよ。あぁ、話は聞いてるよ。優秀な新人だってね」
「……名乗れ」
「【カンザス】、これでいいかな?」
肩を
「……デューク・スイカ・ウォーカーです」
「先輩への敬意もある。いいねいいね~。あ、ここ座っていい?」
「……どうぞ」
なるほど、厄介な男だ。
確認出来る範囲でカンザスの
他に何人いるかはわからないが、たった一人という訳ではないだろう。
そして、地龍の事も開示しない事から、俺の全てを信用した訳じゃなさそうだ。
「さっきのは?」
「あぁ、ウチの
嘘吐け。
「……優秀ですね」
「そもそも
「そうなんですか?」
「【
「詳しいですね」
「五年もここにいればわかるものだよ。しかし良かった。君のような人がウチに入ってくれて」
「女性のがお好みのようでしたが?」
「それはそれ、これはこれさ。同年代の人間は皆女ばかりでさ、この前入ったパーシバル君じゃ中々反りが合わなくてね」
なるほど、因みに俺は四歳児だけどな。
ん? ……何だ?
今、俺の【探知】に何か引っかかった気がする。地龍テルース? それともカンザスのもう一人の
……いや、そのどちらでもない。どちらかと言うと、カンザスに近い実力者だ。
「どうかしたかい?」
「……いえ、相手が相手なだけに緊張を」
「ミケラルド・オード・ミナジリ……正直、エレノアに任された時、ハズレを引いたと思ったよ」
「我々二人でどうするので?」
「二人じゃない、三人だよ」
やはりか。
「三人?」
「すぐにわかるさ」
俺はここにいる
『おいサブロウ』
『テレパシーか、何じゃ化け物。ワシャ眠いんじゃ……』
『いいから答えろ。エレノアにミナジリ共和国を任された。カンザスとは合流したが、他に
『そういえば言うとらんかったな。そこにゃナガレがおる。しっかしお主も難儀じゃな、よりにもよって自国の見張りとは! ハッハッハッハ――』
――にゃろう、そういやナガレの居場所は聞いてなかったわ。
まぁ、ナガレなら……いや、血を吸ってるとはいえ安心は出来ない。
ナガレにも
今の段階ではまだ操れない。
カンザスとカンザスの
「そういえばデューク君、君の
「法王国です」
「何故?」
軽い口調だが、目がマジである。
小心者とは聞いていたが、本当に細かい。
まぁ、若くして闇ギルドの重鎮なのだ。疑り深くもなるか。
「カンザス殿、貴方がエレノア殿からどのような指示を受けているのかはわかりませんが、私が受けた任は『ミケラルド・オード・ミナジリ』を調べる事です。現在、法王国での目撃情報が多いミケラルドに対し、予め草を放つのは当たり前の事です」
じっと俺を見るカンザス。
焚火の
「いいね、そういう優秀な人は歓迎だよ」
何とも不安が残る笑みだが、俺はこれからどうやって俺を調べるのか、という事で頭がいっぱいなのだった。
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