◆その447 フェンリル
平静を保ち、微笑みを保ち、魔力の鎮静を保つミケラルド。
そして、そのミケラルドの背に何とかして隠れようとする炎龍ロードディザスター。
「小さいのだ!」
「後ろにいれば大丈夫だって」
「ほ、本当かっ!?」
「ホントホント」
ミケラルドがなだめるように言うと、炎龍が思い出したように言った。
「あ、【フェンリル】はすっごく素早いのだ!」
「素早いって、どれくらい?」
「母が言ってたのだ。フェンリルが生き延びられるのはその速さと、鋭い嗅覚があるからだと」
「つまり、強敵から逃れられるだけの力は持ってるって事か」
「そうなのだ! でも、母も速かったのだ! でもでも、雷龍はもっと速かったのだ!」
「で、その中だと誰が一番速いんだ?」
「雷龍シュガリオンなのだ!」
「お母さんは?」
「うーん…………はっ!? 大変なのだ、母が一番遅いのだ!?」
頭を抱える炎龍を前に、ミケラルドが北の空を見つめる。
(雷龍の速度は異常だ。だが、それに負けないようには鍛えてきたつもりだ。
炎龍母、フェンリル、雷龍の順で速いのであれば、俺がフェンリルに対応出来る可能性は非常に高い。……とは言え、ハンディはあるけどな)
ミケラルドが振り返り炎龍ロードディザスターを見上げる。
もし、フェンリルが炎龍を狙った場合、それはミケラルドにとっての枷となる。炎龍を守りながらフェンリルと戦う事を強いられた場合、ミケラルドの苦戦は
キョトンと首を傾げる炎龍に苦笑したミケラルド。
(手はある。いくらでもな)
北から迫っていた魔力は、ついに目の前にまでやってきた。
(なるほど、フェンリルって顔してるわ)
深紅の瞳をした巨大な
「ど、どどどどどうするんだよ炎龍!? フェンリルの奴来ちゃったぞ!?」
そう、炎龍にしがみつきながら恐怖に染まった表情をしながら言ったのだ。
「んな!? た、倒せるって言ったのだ!?」
「んな事言ってねぇよ! それにこんなに凄いとは思わなかったんだからっ!」
「ど、どうするのだ!? もう目の前なのだ!?」
慌てる二人を前に、フェンリルがニヤリと笑う。
「くくくく、ようやく炎龍の肉が食えると思えば、こんなところに吸血鬼とはな。腹の足しにもならんが、つまみにはなるだろう」
「お、お前行けよ! お、俺無理だから!」
「むむむむ無理なのだ! 死んじゃうのだ!」
「誇りはどこ行ったんだよ! 炎龍ロードディザスターの誇りは!」
「母がそうなのであって私は違うのだ! お前が行くのだっ!」
二人が互いに押し合い、ミケラルドはついに押し切られてしまう。
「とっとっと……ぁ」
よろけるように前に出てしまったミケラルドは、ニタリと笑うフェンリルに苦笑いを浮かべながら言った。
「ど、どうも……」
「案ずるな、苦しまずに一呑みにしてやろう」
そんな中、ミケラルドを押し出した炎龍が自分の手を見る。
(おかしいのだ。あいつの力が、凄く弱弱しかったのだ。さっきは私を片手で掴んで止めたのに……?)
炎龍の疑問をよそに、ミケラルドは困惑しながらフェンリルに言った。
「それは胃の中で苦しむのではのでは……? ハハハハ……」
「ふん、そうか。ならばその首から先に頂くとしよう」
「そ、それはどうも……」
「では死ね」
「くっ」
ミケラルドが身構える。
直後、ミケラルドの背後にフェンリルが現れたのだ。
大きく開いた口がミケラルドの頭部を狙う。
「わぁ!?」
ミケラルドは頭を覆いながらしゃがみ、前に倒れた。
「ほぉ、悪運だけはいいと見える」
「あ、あわわわわ……くっ」
また構えると、震える声でフェンリルに言った。
「お、お前なんか、俺が勝ったら首輪を付けてペットにしてやるっ!」
ミケラルドの言葉に目を丸くするフェンリル。
そして、一気に噴き出して笑ったのだ。
「はっはっはっは! 我をペットにだと? 面白い、なんとも愉快な吸血鬼だ。ならば是非やってみろ。お前が勝てればの話だがなっ!」
フェンリルは、今度は真っ直ぐミケラルドに向かった。
ミケラルドの言葉に笑ったフェンリルだったが、それはフェンリルにとって殺意をより強大にする言葉だったのだ。
(我をペットだと? 木っ端吸血鬼の分際で生意気な! 生き地獄味わわせてやる!)
フェンリルが正面から向かったのは、先の不測の事態が理由である。
ミケラルドは背後に現れたフェンリルの攻撃を、咄嗟にしゃがむ事でかわした。それはフェンリルにとってあり得ない事だった。だから今度は正面からミケラルドの一挙手一投足を見逃さず、どのように動こうとも仕留められるように正面から向かったのだ。
(右、左、上、下、前、後ろ、どこに動こうが足を食い千切ってやる!)
刃の如く鋭いフェンリルの視線。
しかし、ミケラルドのソレはこの場にいる誰よりも鋭かった。
「よかった、
「何っ?」
直後、
揺れと共に広がる高密度の超魔力。それはフェンリルが纏う魔力を一瞬で包み込んだ。
震えていたミケラルドは、恐怖に顔を染めていたミケラルドは、この場にもういなかった。この場にいるのは、フェンリルの眼前でニヤリと笑うのは、この場における絶対支配者だった。
「さぁ、おすわりだ」
首に刃を突き付けられたかのような感覚に陥ったフェンリルが、急ブレーキをかけてミケラルドを見る。そして零すのだ、間の抜けた声を。
「…………………………………………あれ?」
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