その446 困ったのだ!

「おい、さっきから何なのだっ? ここは私の縄張りなのだ! いつまで居座ってるつもりなのだ!」

「今忙しいから後にしてなー」

「んな!?」


 困った困った。

 俺がディザスターエリアを掃除したせいで、炎龍ロードディザスターという存在が無防備になってしまった。


「あ、もしかしてお前、友達がいないのだろう? ふふん。ならば私が友達になってやってもいいのだ」


 こんな性格で、更には外敵の怖さを知らないとなると、闇ギルドが動きかねない。シギュンなんかが動けば、今ならすぐに懐柔されてしまうだろう。

 かといって、こんな仔龍の血を吸うのもちょっとなぁ。


「むぅ、無視ばっかりなのだ。あ、そうなのだ!」


 どうしたものか。

 確かに、炎龍の力は当てにしていた。

 だが、それは交渉の末という結果である。

 コイツがミナジリ共和国来たとしても生きにくくて仕方ないだろう。

 かといって放っておくと五色の一角は、闇に落ちるか絶滅してしまう。


「うーん……悩む」


 すると、俺の真横から先程と同じサイズの火球が飛んできた。


「んな!? くっ!」


 先程のように蹴り、弾き飛ばす。

 すると、炎龍から何故か文句が聞こえてきた。


「そうじゃないのだ!」

「は?」

「こっちに返すのだ!」


 また世界でも救いたいのだろうか?


「お前は球遊びに慣れてるみたいだから、一緒に遊ぶのだ」


 つまり、俺は今キャッチボールをせがまれているのだ。

 おかしい、この仔龍と友人になった記憶がないのに。


「もう一回なのだ!」


 剛速球である。


「はぁ~……まったく」


 俺は仕方なく火球キャッチボールという異次元遊戯に興じてみた。


「上手いのだ!」

「ほ!」

「まだまだぁ!」

「トス!」

「尻尾でぇ、こうなのだっ!」

「アタックッ!」

「は、速いのだぁ!?」


 ボールを拾いきれなかった炎龍が、ガックリと項垂れている。

 俺としては、火球が地面を溶かしているという異常事態に驚いているところだ。

 え、何なのあの殺人火球ボール

 炎耐性なかったら俺蒸発してるだろうに。


「強いのだぁ……」

「しかしホントどうしたものか」

「どうしたら勝てるのだ?」

「美味い飯食って、しっかり鍛えて、沢山勉強したら勝てるよ」

「本当か!?」

「俺も負けないように鍛えるけどね」

「負けないのだ!」

「ところで質問なんだけど」

「のだ?」

「ここら辺って炎龍以外に怖いモンスターっていないの?」

「ふっ、よくぞ聞いてくれたのだ!」


 この言い方からしているのだろうか?


「我が最強の炎龍団がいるのだ!」

「何それ?」

「主に【はぐれリザード】と【マグリズリー】で構成された私の子分たちなのだ!」

「あぁ、さっき俺が倒しちゃったやつか」

「んな!? そんなまさかなのだ!?」


 言いながら、炎龍は俺が来た道をぶっ飛んで行った。

 しかし、あの様子だと、親の炎龍が「のだ」使いだったみたいだな。

 俺が炎龍の後を追い歩いて行くと、遠くで炎龍の叫び声が聞こえた。


「んなぁあああああああああっ!?」


 ゆっくりと追いついた俺は、またも項垂れている炎龍に言った。


「なんか……ごめん」

「まさか我が炎龍団がぁ……」

「どうやって入って来たと思ったんだよ」

「それもそうなのだぁ……」

「知ってたらもうちょっとやりようがあったんだが……いや、ほんとごめん」

「っ! そうなのだ!」


 一々リアクションが大きいヤツである。

 今度は一体何だろう?

 すると、炎龍は大きな翼を羽ばたかせ始めたのだ。


「どこ行くんだ?」

「逃げるのだ! ではまた会おうなのだ!」


 と、ホバリングしている炎龍の足を掴み、上昇を止める俺。


「ぬっ、何故なのだ! 上がっていかないのだ!」

「逃げるって何から?」

「んなぁ!? 何で足を掴んでるのだ! 飛べないのだ!」

「まぁまぁ、そう焦らず」

「焦るのだ! 炎龍団がいないと大変なのだ!」

「まぁまぁ、そう慌てず」

「慌てるのだ! ここにいられないのだ!」

「炎龍団を倒した俺がいるだろう?」

「……………………確かにそうなのだ」


 そう言うと、炎龍は俺の前に降りて来た。


「で、炎龍団は何からお前を守ってたんだ?」

「【フェンリル】なのだ!」


 直後、俺は炎龍の顔に肉薄していた。


「その話、詳しく!」

「かかかか顔が近いのだっ!」


 やたら恥ずかしがっている。もしかしてめすなのだろうか?

 だが、この年齢じゃ人化も出来ないだろうしなぁ。

 しかし……【フェンリル】とはね。

【フェンリル】とは、五色の龍以外にZ区分ゼットくぶんに指定されているファンタジーお馴染みのワンちゃんである。

 神話ではフェンリルの涎で川が出来たとか言われているあの巨狼が、ここを狙っていたという事か。


「母がいる時は問題なかったけど、母が死んだら沢山ちょっかいしてくるようになったのだ!」

「雷龍シュガリオンと鉢合わせにならなかったのは不幸中の幸いか。ん? でも雷龍よりフェンリルのが怖いの?」

「雷龍シュガリオンはしばらく来ないって言ってたのだ!」

「あぁ……」


 強くなるまで待つつもりなんだろうな。事実、俺もそんな感じで見逃されたし。

 しかし、雷龍の言葉は真実だろうけど、それを真に受けるのもどうかと思う。

 ん……?


「っ!」

「んんっ!?」


 俺の反応の直後、炎龍がピコンと反応し、北の方を見る。

 物凄い速度で迫ってる強大な魔力。

 ……なるほど、こいつぁ確かにZ区分ゼットくぶんだな。

 そう思い、俺はフェンリルに逃げられないように魔力を沈めるのだった。

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